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#08. Reboot 脱出 [7]
ヘンリー過去の要約
幼少期からの夢は、海洋バイオテクノロジー研究所の舵取り役として叶えられた。
引退する祖父の後任をする事になる。
新システム導入が困難を理由に、退職する部下が次々出た。
ヘンリーに対するシャルの強い説得が、ヘンリーの発作を招き、レーザーピストルの暴発が起きる。
一族の都合によるものという理由で、研究所の稼働を一時止め
その最中に元代表である祖父が他界。
ヘンリーの体や精神状態、これまでの実績を理由に、彼の父は研究所を完全閉鎖すると独断。
ヘンリーには、研究所の後始末だけを押し付けた。
何年前になるか。
その研究所を建設し、代表を務めていた名の知れた科学者が亡くなった。
その後、その組織は解散したという噂がここらで流れていた。
しかし、今はすっかり見た目を変えて再稼働し、新薬の開発の実績も引き続き残している。
周囲は其々、何かを思い出したかの様に表情を変え、以前を遡りながら口々に言い始めた。
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「その亡くなった頭の子どもが、後を継いだって聞いた事がある。
何だか思考がどこか飛びぬけてて、変わってるとか。
そこの部下がついていけないって、客に愚痴を零してたらしい。
若かった様だし、舵取りには向いてなかったんじゃないのか。
で、その後に事件があったんだ」
「事件で継続困難に陥って、閉鎖か。
それで、そこの客人がうちへ来た時に嘆いてたって訳か。
ああそう言や、解散理由や事件の中身は、具体的には明かされなかったって聞いた事があったっけ。
なら信用問題だ」
「ん?
でもそこの経営者って、亡くなった社長とは血縁関係に無い、全く違う人に変わったって。
それがその変わり者なの?」
「どちらにせよ、再開なんてよくできたものね。
事件があったのに、大抵は厳しいでしょ。
裏で何か手を打ったのかしら」
騒ぎはまだ、波の如く立っていた。
そんな中、集まった数々の鋭い目が保安官達に向く。
「警察さん、実績もある施設だからって、安全だと鵜呑みにしちまってるだろ?
調べるべきだ。
こうして、昔から謎めいてるって話だ。
今後の為にも情報開示した方が良いって、言っておいてくれよ。
いくら変わり者の社長だとしても、自分とこの施設を守る為なら、それくらいするだろう。
近所に居る者の身にもなってくれって。
こっちの経営に影響が出ちまったら、責任取ってくれんのかねぇ」
1人の作業員が、半ば呆れて笑いを零しながらビルに言った。
保安官達は解析していた。
ターシャにより、拠点の情報が漏れた事は確認できる。
だが島の者達は、妙な結び付きを見せてきた。
急に湧き立ったそれら全ての情報は、恰も事実であるかの様に一瞬の内に連結され、人々は勝手に顔色を変えていくではないか。
「何だ?それ…
ターシャ、いつもこんな風に話すのか?」
ルークは眉を顰め振り返り、少々早口で低い声で尋ねてくる。
ターシャはそもそも、聞いた事がない話に肩を竦める。
隣のアマンダも、押し寄せる会話の波に打ちひしがれ、再び拳を握った。
ビルは一時、彼等から顔を背け、切り出す。
「賢いもんだな。
半端な記憶から生まれた勝手な思い込み。
そこに薄っぺらい情報を結びつけ、喚き、広める。
加速度も目まぐるしい。
見ていて清々しい程だ。
それがお宅らの正義ってやつか」
彼は背けていた顔をゆっくりと戻すと、肩越しに一帯を見る。
「鵜呑みか。では、そちらさんはどうだ」
その騒々しい元オーナーを、不意に見下ろしてやる。
「その目で見た事も無い代表者を、聞いたまま鵜呑みにして侮蔑する。
それが別の口に渡り、変形し、尾を引いて生まれるこのザマが、尤もな流れか」
一時、鼻息を強く放った元オーナー。
横で宥められながらも、未だ気に入らない顔をしてビルを睨んだ。
「わざわざ見なくとも、客が言ってる!
部下どころか、この島にまで迷惑をかけてる!
こんな事態を招いたキッカケはあそこだ!
何の説明もせん、嘘つきな連中だ!」
「へぇ。
実に正しい事を言っている様に取れるそれは、よく聞けば決定的ではないな。
そんな君達もまた、嘘つきじゃないか」
風の様に抜けたルークの声は、皆を振り向かせた。
彼の顔はどこか寂しげだが、眼差しは鋭かった。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。