[8]
温かい風がそよぐ最中、小さく騒ぎ声がし始めた。
一体何かと、皆が振り返る。
「あんた等か!あの研究所から来たってのは!」
桟橋での騒ぎを聞きつけ、1人の年配男性がやって来た。
まだ乗船していないビルに対し、彼は険しい顔を向ける。
「騒がしいったらない!
あそこは一体どういう管理をしてるんだ、迷惑だろう!」
太い濁声で響く怒鳴り声に、ターシャは肩から飛び上がり、目を剥く。
ルークは背筋を張り、青空の様な目を大きく見開くばかりか、口まで開いていた。
目を合わせるビルは、ボートに付いていた手を下ろし、今度は何だと少々サングラスを上げ、彼を見下ろす。
声が大きい様子だと耳が遠いのか。
その老人は、ロンの前にオーナーをしており、今はベテランの船舶整備士として仕事をしている。
故に、古い事も知っていた。
少々口煩いのか、ロンは困難な表情を浮かべながら宥めに寄る。
そこに複数の作業員もやって来て、元オーナーの手を引こうとするが、彼は身を揺さぶり、振り解いてまで言う。
「あそこは長が変わってから事件があって、閉鎖された筈だ!
赴いてこそおらんがな、ここは人が集まる所だ。
幾らでも話は耳にする」
忙しない発言の最中、レアールはコックピットから彼を貫く様な目で見る。
「その長はまた、とんだ変わり者だってな!
舵取りがなっとらん、手間ばかり取らせ、部下が困り果てとると。
こんな状況になってるのだって、そんな下手クソに任せてるからだろ!
こうして騒ぎになり、こっちが迷惑しとると言っておけ!」
ルークは首を傾げる。
脇に居たビルは、サングラス越しに鋭利な目を向けた。
発言は間髪入れずに続く。
「人を扱う割にリスク管理も何もなっとらんせいで、その子等が出てきちまってるって事だろう。
不憫でならん!人を何だと思ってる!
相変わらずの長なら、やり方を考えろと言っておくんだな!」
焦燥は治まらない様で、船内の保安官達とビルに怒りをぶつけた。
ビルは彼から顔を背けると、鋭い目を宙に向けたまま言った。
「訳の分からん判別だな。
あんたは何を知った上で喋ってる」
ビルが静かに発言する間、周囲では話し声がし始める。
元オーナーの発言を聞き、何かを思い出したのか。
ルークも保安官達も、嵩張るそれらに耳を攲てた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。