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#10. Tracking 再回収 [4]
低い声で早々並べ立てられた言葉に
アマンダが飛び込む様に切り出した。
「私はもう、馴染もうとしてはダメかしら…」
あの地で最初に出会った時よりも、アマンダとしてより一層成り立っている。
共に逃げ出したい。
そう考える自分は確かに居るのだが、彼女の変化は一方で、露骨に機械である事を強調させた。
それはやはり、焦燥と怒りを呼ぶ。
ターシャは俯くと、表情を険しくする。
「それは一緒に生きてない。
あたしが死んでも、あんたはそうはならない。
あいつ等は、さっきみたく手を繋がせ、抱き締めさせる事で、あたしの気を変えようって魂胆でしょ。
あんた達は、利用されてるのよ。
そんなの普通じゃない」
アマンダは下を向くと、一瞬、唇を強く結ぶ。
話す事を主として搭載された機能が、細かく活かされていた。
更に腹の前で手を組み、力が加わる。
目を逸らしていたターシャは、その反応が見えていない。
保安官達もルークも、何の反論もせず静かに聞いている。
彼等の意外な反応を睨むと、ルークを見下ろした。
「あいつ等は、元居た所で傷を負ったって言ったわね。
そういった経験があるなら、人の痛みが分かる筈。
なのに、人の心を複雑にさせ、弄んでる。
何も分かってないっ」
強まる語気に、ルークは彼女と同じ目を向ける。
しかし、未だ言い終わりを待った。
「貴方が言うあいつ等のデータは、本当は貴方に色々と言わせる為だけのものかもね。
人をコントロールする為なら、よくできたものよ」
ターシャはそこでやっと、隣のアマンダに横目を向ける。
一方、その言葉を聞き、ルークの瞬きが止まると目を見開いていった。
「あいつ等は、自分達の研究を貫く為なら、貴方達を利用するなんて平気よ。
両親や親友は、そんな事しない。
ここにいる人達だって」
やっと静かになると、ルークの右手が振動し始める。
人で言うならば、痙攣か。
保安官達も、ターシャとアマンダも、それに目を取られる。
ルークは首を傾げ、その動きを止めようと腕や手先を動かそうとした。
だが、衝撃を受けた時の様に上手く動かず、眉を顰める。
シートに預けた上体を起こそうにも、重かった。
ターシャは彼を見て動揺する。
彼には、表情を含め様々な感情表現がある。
動きを止めたその振動は、これまでにも経験した痛みか。
それは2秒と言うが、発生したそれは、倍程の長さが経過した後に止まった。
「止めてよ…」
アマンダが、これまでとは違った低い声で、真っ直ぐターシャに放った。
彼女もまた、保安官達と同じくオーラを感じる。
ターシャはしばらくして、アマンダの手元に気付いた。
両脇で拳を握る姿からして、彼女は怒りを見せているのではないか。
そこへ、コックピットのジェレクが立ち上がり、やって来る。
サングラス越しにルークを分析した後、ターシャに流し目を向けた。
「てめぇは大したもんだな」
ルークは元の大人しい表情に戻っており、ターシャと向き合うジェレクを見上げる。
レアールは相変わらず爪を確認しながら、彼等の様子を窺っていた。
ビルはボートの屋根を指先で叩き、空いた手で首後ろを解しながら待機している。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。