[3]
レアールは、2人が乗って来たボートの回収をしに、颯爽と倉庫の方へ外れていった。
「おじさん、警察に電話して!
こいつらは偽物!ロボットなのよ!」
アマンダは腕の中で必死になる彼女を体から少し離し、その様子を眺める。
何かをする事もなければ、言う事もなく、そっと俯いた。
ターシャの両肩を掴んだままの手は、どこか寂しげに撫で始める。
ロンはターシャを見て、目を張った。
その表情は、大層驚いている。
じわじわと歪ませ、口をあんぐり開けながら、ビルを振り返った。
「あんたはロボット呼ばわりされるのか?」
ビルもまた落ち着いており、サングラスを服で磨きながらターシャを振り返ると、それを着用しては口を開く。
「ほう。そうか。
だとすりゃあ上等な出来だろう」
腰に手をやる動きは、少々強い。
ロンに手を差し出しながら、顔を研究所や彼に向けながら続ける。
「お宅も使ってみるか?
あちらさんもだが、近頃は、この近辺の地域すら、人型ロボットを取り入れている様だが?
なら俺を採用すればいいものを。
訓練を受けて長いしな。
各段にスペックが高いぞ。
あちらさんで使われている、ワンパターンな雑用ロボットよりもな。
近日中に、最先端技術に纏わる授賞式があるかを探してるが、知らないか?
立候補したいところなんだが」
半ば早口にも思えるそれは、どこか面倒くさそうにも取れる。
話す最中に広げていた両腕を、最後は力無く両脇に落とした。
首は、適当に斜め上を向けながら、横に振っている。
ロンは鼻で息を吐くと、否定するように無言で宙を数回煽いだ。
「そりゃご苦労なこった。
悪いが、うちはその予定の確認よりも、この島の知名度を上げるのに忙しくてな。
試しに、あんたを取り入れりゃあそれが叶うか?
ロボットの使用はまだ、視野に入れた事は無い」
ビルは爪先で桟橋を叩きながら腕組みすると、接近してくるルークを振り返る。
「ああ最大限を尽くす。ジョークはこの辺に。
騒ぎ立てて悪かったな」
その真正面をルークが通過し、ジェレクが彼に合流すると、共にボートに向かう。
「やぁロン、悪いけど服はまだ借りておくよ。
あっちでやる事が済んだら、また返しに来る」
ルークの顔は実に爽やかで、愛想よく微笑んでいる。
彼は悠々と桟橋を進み、自然に乗船するではないか。
ロンは円らな目を瞬かせ、口を尖らせて彼の背を見送ると、またビルを見る。
「まぁ…俺達は治験や研究所の事は分からん。
でも、向こうの被験者だとはいえ落ち着かない様だし、聞いてやってもらえないか?」
ロンはビルに肩を竦めながら、時折、アマンダに宥められている様子のターシャに目を往復させていた。
レアールは、倉庫の外に停められていた拠点のボートに目を這わす。
丁寧に応急処置が施された所を確認した。
「あら。前よりクールだわ。
貴方達、腕が良いのねぇ」
その横には、彼女に釘付けになっている作業員達。
ただボートを取りに現れただけの女性警官に魅力を感じ、ヘラヘラしている。
「まだやれるぜ!
もうちょっとゆっくりして行けばいいのに、なぁ!」
レアールはコックピットへ乗り込んでいく。
「ご苦労様。十分よ。
こちらが一仕事させたのだから、貴方達が寛ぐといいわ。
手間をかけたわねぇ」
エンジンをかけ、着用していた眼鏡を外しながら彼等を振り返る。
そして、口元だけで微笑んで見せた。
顔の皮膚がほぼ入れ替わった事を思わせない程、美貌を放っている。
「おい!誰もそんな事言ってくれねぇよ!
あんただけだ!」
彼女は、馬鹿騒ぎする彼等に僅かに顔を伏せ、先程よりも口角を上げる。
それは、艶めかしい笑みだった。
「そう。ここの女性は、見る目が無いのかしら。
私は、好きよ」
どこか怪しさを見せる表情が、彼女の最後の発言と上手く合わさり、彼等は見惚れた。
それを他所に、ボートにエンジンが入る。
彼女は、仲間がいる桟橋へ向かった。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。