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#10. Tracking 再回収 [1]
「ターシャ!良かった、会えて!
ルークに集中しちゃって気付かなかった」
「ひゃああっ!」
堪らず叫び、咄嗟に踵を返すと躓いた。
恐怖のあまり、その場から疾走する。
アマンダは入り口を飛び出すと、
慌てて彼女を追った。
ルークもまた、アマンダの後を追おうと飛び出していたが、立ち止まっていた。
正面には、高く纏め上げられたダークブラウンの髪に、眼鏡を着用したレアールが居る。
「皆お困りよ。
素っ裸で出て行くだなんて、別の要因で捕まるわねぇ」
「まさか。白衣を着てたさ。
丈はともかく、袖の長さが合わなかったけどね」
エバは少々慌てながら、ターシャを先程の女性警官に任せ、前の2人に近付く。
「騒がしいねぇ全く。入って話したらどうだい?」
レアールはふと、彼女を振り返る。
「結構よ。直ぐに行かないと、発作が出ては大変」
彼女はそっと、ルークを誘導していった。
「迎えに来なくても帰ろうと思ってたよ。
ところで何だ?その格好」
「こちらでは当たり前の格好よ。
長居はできない。来て」
エバは目を丸くさせたまま、すんなり立ち去る2人に慌てて声を掛けるが
「お騒がせしたわねぇ。ご協力に感謝よ」
レアールは振り返り際にそっと微笑んで見せると、ルークと共に足早に去った。
エバを背に、少々坂になる砂の道を下って行く。
「何でだ?君だけ骨格が違う。半端だ」
自分にしか無いはずの動作を彼女がしている事に、疑問を浮かべる。
「色々あってね。もう声に出さないで」
拠点内の事情を漏らす訳にはいかないと、レアールが正面を向いたまま告げた。
「まぁ、隠しておきたい事を話す時なんかは便利、か。
俺達はそれで良くても、人はそうはいかないだろう」
木々のトンネルを進む中、ふわりと彼の目前に飛び込んだモナークバタフライ。
それに目を取られ、左手を不意に差し出すと、着地した。
鮮やかなサンセットカラーの蝶羽は、ブラックに縁取られ、ホワイトの斑点をアクセントとしている。
「君は長い距離を旅するやつだね。
ここには蝶まで羽休めに来るのか」
ルークの真っ白な手に留まるそれは、まるで寛ぐ様に緩やかな羽ばたきを見せた。
「相手と直接会って、目と顔を見て話す方がいい。
文字だけのやりとりでは得られない情報が、そこにはある。
どんなに想像力が長けていても、結局、想像に過ぎないだろう」
指先で羽ばたかせる動作は、体温を下げているのか。
ある程度繰り返したそれは、直に軽やかに飛び立ってしまう。
それを瞬きしながら目で追うと共に、レアールに向く。
「温度や顔色、声。
更に動作、姿勢なんかが表すものは、事実や嘘、何よりその人を判断できるだろう。
隠されたSOSにも、気付ける可能性がある。
赴いて傍で話せば、一緒に居れば、そこから信頼も築きやすくなり、解決できる事も増えるんじゃないか」
彼はその考えから、通信機能を使っていなかった。
「あら。
いつか、世の忘れん坊様方に教えてあげられるといいわねぇ。
良かれと思って生み出した、連絡手段。
気付けばそれが、接触を避けるものになっている事を。
貴方が言う判断材料を捉えられない事を逆手に、気付けば武器に変わっている事を。
文字が情報の頼りになり始めた。
更にはリアルを発信すべく、映像公開も増えた。
しかし、それすらも……。
未だにそうなのねぇ、もうすっかり飽きちゃったわ……
死ぬほどに…」
話している僅かな内に、模様が変更された拠点の黒いボートが見えた。
アマンダに抱擁されるターシャの真横を、ルークとレアールが通過する。
「ルークっ!?」
ターシャは慌てふためくが、アマンダは未だ彼女を放さなかった。
桟橋で話すロンとビルに、じっと目を凝らしている。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。