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*完結* MECHANICAL CITY  作者: terra.
#02. Loading 死別
12/189

[2]




 やがて、ガラス張りの高層ビルのエントランスが見えた。

強い陽光を受ける窓を見上げては、目が眩む。





午後に向け、気持ちを入れ直し身だしなみを整えた人。

中にはその逆で大して服装に気を使わない人。

平然とこの時間を生きる人々は、あっさり彼女を追い越していく。

その後を重い足取りで追い、自動ドアが開いた。





 日差しを散々受けていた場所から突如足を踏み入れたそこは、視界を一時暗くさせる。

大理石で敷き詰められた床を進んだ。



真っ白のスニーカーは、長く履いている事を醸し出している。

紺のダメージジーンズに、黒のタンクトップの上からはブルーを基調としたチェック柄のシャツが羽織られ、歩行と共に揺れていた。

袖は肘の上まで捲り上げ、やや高い気温を思わせる。



会社の服装は自由である。

どこかボーイッシュを感じさせる今日のスタイルは、彼女の根本的な性格を引き立たせるものであり、一番落ち着く格好だ。

しかしもっと真逆のスタイルになる時だってある。

それくらいお洒落が好きだからこそ熱意は反映され、デザイナーになれた。

だが今は、そんな事すらどうでもいい。





 人が出入りする騒音が漂う中、ゲートの傍までやって来た。

傍に設置されたフロントに立つ女性2人は、互いに黒のスマートなスーツを身に纏い、コンピューターや電話対応と向き合っている。





 彼女はゲートにIDを翳した。



ブルーの細長いライトが円形に灯り、入場許可が示される。

流れで正面のエレベーターに向かい、ボタンを押しては溜め息をつく。

後ろからの話し声にうんざりしたのだ。





「最年少のデザイナーって…」


「そうまだ新人の。最近一気に評価落ちたとか」


ナップサックの肩紐を握る力を込め、ターシャは咳払いし、エレベーターのドアが開くと同時に中へ飛び込んだ。



「っと、おい!気をつけろ!」


中から下りてくる人間が居る事も忘れ、怒鳴られてしまった。

しかしそれにも目を逸らすと、虫の鳴く様な声で上辺だけの謝罪を放ち、素っ気無くドアを閉めた。


「何なのあの子」


下りてきた女性社員がついぼやく。


「ああ例のスーパーデザイナーだろ」


隣の男性社員が言うと、もう1人別の男性社員が首を横に振りながら言った。


「所詮まだ20代初っ端。社会を分かってない」


有り触れた大人達の発言はそのまま、外へと遠ざかっていった。






 エレベーターの隅にもたれかかり、外の風景を見下ろす。

先程の行動に引かれ、他に乗り込む者は居なかった。

1人の空間。

それは心底幸いである。




 いつもと変わらない立ち並ぶビルの風景。

遅れる事もなければ早まる事もない時間のスピード。

決まった時間に昇っては沈む太陽。

そして、あの日から全く晴れる事のない心。

日々を生きる自分も、その中で考える事も常に同じ、ただただ虚しい。






 8階で止まった。




 そこは新作を生み出し、洋服専門店やファッションショー等に送り出す、デザイン部及びコーディネート部。

入社当時は彼女のデザインした服が抜擢され、実際にファッションショーにも採用された事があった。

だが、そんなスキルもすっかり失われている。

その影響で、事情を知らない者からは痛い視線を浴びるまでになった。

常々頭の中はそれらを含む最悪の画が巡っており、服どころではない。

自分が降りる階である事も認識しないまま、ドアは閉まった。




「あら?」


閉じたエレベーターの前を通りかかったスタッフが立ち止まり、首を傾げる。


「誰か降りた?」




声をかけられた周囲はただ、肩を竦めるだけだった。

間違いだったのかと、そのままそのスタッフは持ち場に戻って行く。











MECHANICAL CITY


本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。

また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。





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