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ジェレクは整備士が作業しながら話す所、その奥を窺う。
修理場には救命胴衣や浮き袋、畳まれた救命ボートが所々大量に吊るされている。
唯一据え置かれた横長の木製の棚には、工具箱が数種類置かれ、その横には小さな長方形の形をした、キャップが被さる何かが並んでいる。
「環境にいいんだぜ。
二酸化炭素出ないし…って…」
整備士は、いつの間にか別の所に移動していたジェレクに呆れる。
明らかに話を聞いていなさそうだ。
溜め息をつき、立ち上がると彼が手にするそれの説明をする。
「水に漬けたら光る画期的なライトだ。
最近アジアからの客に譲ってもらった。
そんだけしかないから置いといてくれよ」
ジェレクは背面の連なる文字を目で追う。
どこの国の言語で書かれていても、関係無い。
数日間点灯し続ける事。
その間、光が弱まれば水に再度漬ける事で再び発光する事。
水とマグネシウムの化学反応で、それは起きるという事。
商品の認識をすると、何をするでもなくそれを戻す。
そのまま踵を返し、ボートに戻ろうとした。
だが、開いているドアに目が行き、立ち止まる。
軽く覗くと、数種類の武器が壁に掛かっており、床の箱にも纏まっている。
「おいおい怪しむなよ。許可は取ってある」
木彫が映えたボディのライフルが、照明が落ちたそこにじっと佇んでいた。
積み上がり、並ぶ弾薬箱。
刃物類も備えられているのは、島暮らしでは必需品だからだ。
「いいもんだろ?
あんたみたいな若者は、あまりこういう自然に触れる事はなさそうだから、刺激的だろう」
笑いながら別の作業に取り掛かろうと背を向けた整備士を、ジェレクは颯爽と通過し、スマートフォンを取り出す。
「面倒じゃん」
そう呟いては倉庫の入り口、柱に凭れ、ゲーム音が鳴る。
彼の態度にまたもあんぐりと口を開ける整備士。
その光景を別の仲間が面白がりながら、ジェレクが居る出口に向かった。
「お?それ難しいよな。
未だにヘッドショット決められねぇよ」
年齢の近さを思わせる口調。
だが、ジェレクは気さくに話しかけてきた彼を見向きもせず、滑らかにゲームの得点を上げていく。
秒単位で上がる経験値とスコアに作業員は瞼を失い、先程の整備士と同じ顔振りになっていた。
「冗談だろ。
そう動くもんでもない、狙いを定めやすい突出した位置に急所を仕込むなんて、何のセンスも欠片もねぇ。
秒で片付いちまう。
1ゲームで獲得できるもんも飽きちまった。
こんなもんで金や特典が貰えて満たされるってんなら、イージー極まりねぇじゃん」
そんな言葉を放っている内に、傍に居た作業員は発言に引きながら眉を顰め、逃げる様に立ち去る。
ジェレクはそれに顔を上げると、桟橋でビルが男と合流する所を確認し、向かった。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。