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ターシャはふと、目前に広がる景色から辺りを見渡す。
緑が風に揺れる中に立っていた。
こんな島もまた初めてで、不思議な気持ちになっている。
出て来た背後を振り返ったそこは、木造建築。
出入口から垣間見えるテーブルやカウンターは、茶店を思わせる。
だが、自分が寝ていたスペースを思い出す限りだと、救護室の様な役割もあるのか。
桟橋に揺れながら停船するのは、黒のボディに赤のラインが縁に入るボート。
背の高い、紺の制服姿。
腕と胸にはシルバーのエンブレムが光る。
ビルは、サングラス越しに相手を見ながら、要点を淡々と告げた。
「あの船が脱走した船のナンバーと一致する。
確認したい」
「あああれ?
カップルが乗ってて、彼女の方は降りるなり倒れちまって大変だったよ」
「カップルじゃない。
治験モニター中の被験者だ。どこに居る」
「そうだったのか。
さぁなぁ事務所か、奥の救護室か、俺は見てないんだ」
「そうか。
もし確認が出来たらあの船も早急に戻さないといけないが、何かしてるのか」
「ああ、点検だよ。応急処置。
傷や凹みがあったから。
走行中に沈みでもしたら大変だろ。
あんたの連れが見てくれてるみたいだな」
ビルは、直ぐそこの修理場でうろうろするジェレクを確認。
その後、林の向こうから現れるオーナーの影に視線を移し、待ち構えた。
ミラーサングラスを光らせたジェレクは、桟橋の元に聳え立つ木造建築を見渡し、その手前まで接近する。
傍で揺れる拠点のボートで、数名が何やら作業をしていた。
現在停船しているどの船よりもスペックが高いボートに、感嘆の声が溢れている。
片手を腰に、拠点のボートからその付近の人間、周辺を高速で解析する。
「何してんだ」
「修理さ。すげぇだろこのボート!高ぇだろうな」
「当たり前だろ。何処の誰のだと思ってんだ」
そこへジェットスキーが3台、同じ桟橋に着いた。
それから下り、駆け足でジェレクの前を通過する男女は、ライフガード。
修理場の中に入ると、手前に予め準備されていた燃料タンクを手にし、また彼の前を通過していく。
「走りはいいか?」
ボートを点検していた作業員が声を張った。
「まぁまぁだな。
使えるが、ちゃんとしたガソリンには負ける」
「だろうな」
彼等に尋ねた男が拠点のボートから下船しながら言うと、そのまま奥へ入って行く。
運搬されたガソリンタンクと、そこから給油されていく光景を凝視するジェレク。
その燃料の色は濃いめの褐色。
判別できないそれが何かを尋ねに奥へ入り、傍に居た整備士に近付いた。
「何使ってる。そのボートにも使うのか」
「まさか。客人のには使わない。
あれはバイオディーゼル。
緊急時に備えて試してるところだ」
その言葉を聞き、ジェレクは静止すると、その情報を手繰り寄せ始める。
一方、作業をする男は愛想よく話した。
「廃油だ。魚油でも作れるから便利だよ。
集めるのに手間だがな!
あれも、わざわざその燃料向けに改造したさ。
ここは良い場所に見えるが、言い換えれば僻地だ。
所詮は自然が大半を占める島。
いざいつもの燃料が手に入らなくなったら大変だ」
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。