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#06. Please wait 決定
「長年に渡って、生命科学を探求し続けてる所なのよ。
不治の病と言われる、様々な治癒困難とされる疾病等に対する、新薬を開発する為の研究をしてる。
人の健康に役立つ有用成分を、水棲動物や植物から生産し、主に近辺や海外に在する得意先、そして新規の共同開発者にも成果の共有をする。
以前は臨床試験もしていたそうよ。
治験って言うんだって」
「“お陰さんで、また新たに抗体医薬品の開発が進みそうだよ。
遺伝子治療なんかも、いずれは実験できそうだ。
タンパク質管理や生物情報の取り纏めなんかも相変わらず、どこの研究所とも比較にならないくらい質が良い”」
「“変わらずうちの原薬が安定していて良かった。
今後も貢献できるように努めるよ”」
ロンは直ぐに思い出し、手を叩いた。
「あの改装したところか!
お前さんらみたいな若いもんが好きそうなデザインだ!
馴染みがある。
そこのお仲間さんは、よくここに来るぞ。
一時期はクローズするとか言ってたけど、再開したからって喜んでた」
ターシャは顔を強張らせる。
「違う…違う違うっ!」
恐ろしくてならず、咄嗟に立ち上がった。
あの異常な施設が何故、世に溶け込んでいるのか。
ターシャは、こちらを平然と見ていたルークの肩に飛び付く。
「何を言ったの!?嘘はダメ!
本当の事を言わないと!」
夫婦は彼女の急な動作に驚き、慌ててルークの肩から手を放させた。
「何でだ?薬品開発をしてるのに?」
ルークの発言に暫しの間を置き、ターシャは記憶を遡る。
アマンダが言っていた生命科学の話。
その後、外国客の船が訪れていた時の事。
まさかそれらを通じて、まともを装っているというのか。
額に当てる手は、益々怒りに震える。
「ルーク!その指示は全部嘘なの!
話したでしょう?あなたの任務は、人を傷つける!
すぐ止めて!」
「ターシャ、どうしたんだ?」
ロンが彼女を宥めながら、2人に視線を往復させる。
ターシャは顔を険しくさせ、ロンを振り返った。
「聞いて、おじさん!
あそこは偽りの場所なの。
死んだ人をロボットにしてる。
お願い警察に連絡して!
あの罪人達を捕まえて!
あんな所、あってはならないわ!」
夫婦は彼女の急な話に困惑する。
エバは冗談だろうと耳を疑いながら、驚いた。
「随分な話だよ?
聞いた事無いねぇ、罪人だなんて。
あの場の貢献があって、助かってる人が居るのにかい?」
「死んだ人が?
怖い話は苦手なんだが…
そんな事有り得ないだろう?
治験は聞いた事あるが…何だ、解剖か何かの事か?」
「違う!
そうじゃなくて、体の中に機械を入れて、故人を都合よく動かしてる!
彼もその1人!
だから逃げて来たのよ!」
夫婦は顔を歪め、ルークを振り返った。
彼とは先程から普通に話しをしており、今も穏やかに座っている。
それとは逆に、非常に焦って必死になるターシャ。
その差が夫婦を余計に混乱させ、ターシャを不思議な目で見る。
ターシャは驚愕し、血の気が引くと声が出なくなった。
これではまるで、自分がおかしな人間の様だ。
そこへ、ロンを呼ぶ声がした。
仲間の作業員が1人、適当に挨拶をしながら顔を出す。
「沿岸警備隊が来てる。
オーナーに会わせろって」
「おや丁度良いじゃないか!
ここへ来るよう頼んで貰えないかい?
この子が話したがってたところでね」
様々な活動をする島。
沿岸警備隊が立ち寄るのは毎月の事であり、それ以外でも顔を出す事は珍しくなかった。
「悪い、行って来る。
まぁ待ってろ。連れて来る」
ロンが仲間と足早に去ると、ターシャは目を丸くさせながら立ち上がり、入り口を飛び出した。
こんな偶然があるのだろうか。
出て行った2人の背中が小さくなっていく所を見て、足が数歩、勝手に前に出て止まる。
見えなくなるまで眺める最中、少々安心した。
背後にある離れた建屋からは、明るく人を迎え入れるエバの声が小さく聞こえた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。