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#05. Error 誤搬送
大好きで最高の友達の声は、何だか忙しない。
刻一刻と迫っては嵩張り、ハウリングする様に闇を
響かせる。
―危ないターシャ!―
彼女は何故、そんな事を言うのだろうか。
何処か分からない、足もつかない暗闇で、ただ、
必死になる同じ声が波打ち続けた。
#09. Saving 架け橋の島 [1]
「助…けて…」
ターシャは汗を滲ませ声を絞り出すと、そのまま
力尽きてしまった。
「おい!救護室に運んでくれ!」
………
……
…
…
……
………
冷たい何かが、体を這う。
暗く、深い深い空間。
水の中に沈んでいる様に、ただただ体はどこかで揺らいでいる。
途切れた音がした。
それは、聞き覚えのある声に変わると、泡の様に弾けて消える。
また、小さな声がそこかしこで木霊する。
目には見えないが、それを探ろうと手を伸ばした。
何かが、指の間を擦り抜ける。
聞こえてくる声は、糸の様な感触を持ち、纏わりついた。
ぼやけ、流れ、過ぎ去るそれは、次第に鮮明になる。
知っている。
必死になるあの子の声を、確かに知っている。
―ターシャ危ない!―
………
……
…
…
……
………
視界に走る、一筋の明るい線。
僅かに開いた目の隙間からは、木造のテーブルに腰かけ、誰かが会話している。
まだ夢の中の様で、その声は遠く、ぼんやりと小さかった。
「それじゃあその若さで、研究所の期待の星って訳か?」
「俺は星じゃないよ。被験者だ」
「はん!?」
裏返った声で驚きを放つのは、恰幅のいい顎髭を生やした男。
やや筋肉質で、浅黒い。
服装は少し汚れた作業ズボンに、腰には上着が結ばれている。
色褪せた黒いタンクトップを着ており、まだ春でありながら真夏を感じさせた。
腰の上着の隙間からは、色々な工具が見える。
「それでお前さん、一滴も飲まないな。
喉乾かないのか?」
ルークはマグカップに目を落とし、その取っ手を慎重に掴んで少々揺らす。
「渇いてないよ」
「はっはっ!
こんな暑い中、長旅してきたってのにか?
まぁお好きな様に」
急に大きな笑い声を上げた彼に、ルークは釘付けになる。
その後、周りを見渡してから首を傾げた。
「ここは何だ?
サービスエリアって言ってたけど、それが正式名称か?」
ルークの素朴な疑問に、如何にも熱そうな彼は、よくぞ聞いてくれたと得意げな顔をする。
「ここはな、坊主。架け橋の島だ」
ルークは瞬きし、そっと首を傾げる。
「………橋は何処にも無い。
在るのは桟橋だけだ」
「違う!
色んな意味や気持ちを込めて、架け橋、だ」
「は!?何だ!?それ!?」
ルークは大層困った表情をし、声は裏返った。
「あんた、あんま困らせんじゃないよ」
不意に横を通過した中年女性は、それだけ言い放って部屋から消える。
「研究をする者はどうも頭が硬い。
もっと気楽になれ」
そう言って彼はグラスを置き、ルークを見て、続ける。
「ここは言う様に、海のサービスエリア。
色んな旅人や労働者の休憩所。
だから寝泊まりもできるようになってる。
長旅の疲れを癒して、また次の出先に安全に向かう。
その手助けをするのがこの場所であり、俺達だ。
だから船の修理なんかも受け持つ」
言い終えると、彼は右口角を釣り上げ笑みを浮かべる。
誇らしげといった所か。
ルークは腕組みし、その顔を凝視しながら首を傾げる。
「何でそんな事するんだ?」
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。