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#08. Reboot 脱出
シャルの焼却前に
ウェストで部下により途中までメンテナンスを
実施されていた、ビルとレアール
事が落ち着いた後、サウスに移す指令が飛びましたが
ジェレクも共に誘導されたようです
急遽立てた計画を入れ込む為でしょう
ヘンリーは、ビルの根こそぎ抉れた右腕の皮膚を修理する前に、直接手動でメンテナンスをしていた。
金属アームで触れるには不安な細部は、その様に向き合ってきている。
義手の手先が故障する今、ただビルの腕を固定するだけの役割しか果たせていない。
扱い慣れたその腕には、順調に3色の光が巡っていた。
肘に仕込んだ、小さな黒い予備データ基盤。
骨格にガードされる位置に入れ込まれ、精密ピックで挿入口を丁寧に組み合わせ、閉じていく。
パーツを嵌め込む構造であるアンドロイドの骨格に、ネジは一切使われていない。
作業を終えてビルから離れると、察した部下2人は、ビルの右腕にダミーに使用する皮膚を丁寧に巻き始める。
作業部屋には、復旧した2体が立っていた。
水色シャツに防弾ベスト、黒のパンツルックをしたレアールは、髪を高い位置で一纏めにしている。
一方ジェレクは、ミラーレンズ越しに相変わらずゲームの音を立てながら、壁に凭れていた。
上下ともに紺で締めたそのルックスは、見るからにあちらの警官だ。
武器は回収され、部屋に戻って来ている。
ジェレクの腰には再び、ピストルが装備されていた。
ヘンリーはその2体からふと、アマンダの作業状況に目を向けた。
打ち込むイーサンの横のコンピューターには、小さくターシャの性格データと別情報が出されている。
一時期、彼女がファッション業界で有名になり、ほんの小さく記事になった時のものだ。
離席していたレイシャが戻ると、ガラス越しに部下と目が合った。
「終わった様よ」
ヘンリーがそれを振り返ると、部下2人は道具を積んだワゴンを撤収し、そのまま別扉に消える。
彼が手元の再起動ボタンを押し込んだ数秒後、ビルは体を起こした。
「前々からある、無人島開拓した所。
そこに居るわ…」
ビルがジェレクと同じ格好をして入室して来る最中、ヘンリーはレイシャに頷く。
緊張した顔をそっと背けると、ビルに近付いた。
落ち着かないのも当然だった。
彼等だけで、向こうで人間と対面させるのは初めての事。
段階を遥かに飛び越えた行動だ。
拠点内のアンドロイドが新型になっていない。
組織はまだまだ、その目標に向けての途中段階にいる。
綿密にモニターするシステムは、備えていなかった。
「……隙があったら…」
そう言ってヘンリーがビルに手渡したのは、黒のコンパクトデータコレクター。
細長く、USBの様にも見えるが、違った。
ジャックの形状からするに、保安官に分散して仕込まれた急所の内、予備データ基盤にインサートする事で、中のデータが放出される仕組みだ。
ルークは新型初号機。
最悪な試験起動により、ヘンリーを含め誰も彼を想像できなかった。
ヘンリーは、どこか一点を見て思い出す。
今回、シャルやビルの時より大きく向き合い方が違った。
確かなのは、情報収集を優先してしまう事。
そこは承知していても、脱走をする事までは考慮していなかった。
悉く連鎖するエラー、そして侵入者ターシャの行動に、彼は独り、油汗を滲ませながら微かな笑みを浮かべる。
「今朝の様な動きはするな……
連れて来るだけに留めろ……」
ビルは、ヘンリーから手渡されたそれを左の胸ポケットに仕舞い、ジッパーを閉めた。
ヘンリーは再び、アマンダと真剣に向き合うイーサンの背中を見る。
友達との再会。
彼は、それに何を思うのか。
先程までの手付きは、すっかり止まっていた。
ヘンリーはその背中に近付くと、そっと肩に右手を乗せる。
集中してしまっていたイーサンは、また飛び上がりながら振り返った。
その拍子に合ったヘンリーの目は穏やかで、何も言わずにただ、首だけで出動を促した。
イーサンは製造機内の彼女に向き直り、数秒見つめてから、再起動ボタンを押し込む。
アマンダは滑らかに起き上がり、そこから軽々と出た。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。