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曲面ガラスの向こうでは、骨格とダミーの製造班が6人。
アンドロイド3体の脇に2人ずつ配置されている。
剥がれた皮膚を交換し、器用に縫合されていく。
破損した骨格や眼球パーツの取り替えも、バックアップがある事でスムーズだった。
製造機の作動に伴い、一旦作業班は脇に捌ける。
その手前の作業部屋では、レイシャとイーサンによる激しいタイプ音が鳴り響いていた。
その手にはどこか焦りがあり、瞬きすら忘れ、周りの音など聞こえていない。
レイシャはまるでハッキングをする様に、真新しいコードを叩き込む。
それらは秒単位で数列走った。
向かいには新しい皮膚に覆われたレアールが、正面を向いて停止している。
レイシャの真後ろの席では、イーサンがジェレクのメンテナンスをやっと終える頃。
背面を向いた球体鉄格子の隙間に、金属アームの先端が入る。
頸椎の既定の位置に、予備バッテリーが入れ直された。
焼却時の皮膚の損傷と、首折れに伴う頸椎のパーツ交換が主だった彼の修理は、至ってシンプルだった。
格子から両アームが離れ、縦に張り付いて収納される。
イーサンがデスク下のペダルを踏んだ時、ジェレクの製造機は回転し、正面を向いた。
目の前の液晶に映る映像設計図を細かく回転させながら、修理箇所を確認する。
画面右横に立つ完成度ゲージは100%と元通り。
次に、追加の任務プログラムの送信状況も、脇のコンピューターで確認する。
液晶内で自動的にコードが高速に上昇していた流れが止まり、コンプリート表示が出た。
それをクローズし、別の新たなコード入力画面を立ち上げる。
イーサンは再び正面の製造機の大画面に向き直り、ジェレクのデータから別のRのデータに切り替える。
そして手元のキーボードの右上に位置する、丸く白い光を縁に灯すボタンを深々と押し込んだ。
再起動の指示が電流音を放って鉄格子に向けて迸ると、ジェレクを覆っていた格子が徐々に開かれる。
同時に開胸していた部分は閉じ、配線は巻き取られ、彼は解放された。
音が鳴り止むと、彼は身を起こす。
端で待機していた班の1人が別の新しい服を差し出すと、彼は無言で受け取り、颯爽と鉄格子から出た。
その後、入れ替わりで製造機に入ったのは、アマンダだった。
そこへ、ヘンリーがイーサンに近付く。
集中していた彼はそれに驚き、椅子を大きく軋ませた。
突き出されていたのはUSBメモリー。
「そのまま貼っ付けろ…」
イーサンは、彼の顔とそれを2度見して受け取ると、ヘンリーは席ではなくガラスの向こうの部屋へ姿を消した。
受け取ったそれを少々眺めてから、脇のコンピューターに挿し込む。
瞬時に表示された大量のコードや、ファイル分けされて保存されていた情報に目を疑った。
それは部分的に見て明らかになる。
内容は全て、保安官が行っていた技と判断の写しだった。
彼は直ぐ、それの送信準備に入る。
イーサンの背後で再起動音がした。
レアールが上体を起こした時、レイシャは下顎に手を付き、彼女に微笑みかけてみる。
ガラス越しに目が合うと、レアールは口元だけで妖艶さを浮かべてみせた。
画面は閉ざされ、レイシャは颯爽と離席する。
顔の皮膚を殆ど石畳に持って行かれたレアールだが、回収できた本人のものとダミー材料で何とか修繕が叶った。
顔面骨格全てを交換するには時間が無い為、口角だけ表現できるよう、新型骨格を部分的に取り付ける事に成功。
元々色気がある顔立ちの彼女。
口だけで充分、雰囲気を出せていた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。