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ルークは遠くを見て何かを考えながら、続けた。
「冷静か。
そうなる為の手段も余裕も、見つけられなかった、か。
君が言うその選択をする為に必要なのは、情報。
それを得る為に更に必要なのは、体力。
それを維持する為には、体調管理が必要。
精神を安定させる事が出来ないと、意欲的、つまり前向きになれない。
思考を巡らせる事ができない。
君の言う様な事を決定する判断力も、鈍る。
君も取り乱していただろう?今でもそう。
心拍も体温も上がってる。
焦って、感情的になってるな。
薬による症状もあるけど、それよりも、俺の言葉や自分の言葉が思う様に整理されなくて、気が立ってるな。
よって、自分の考える枠から一度出てみようとは思えない、か」
ターシャは、助手席で身を縮め、苛立ちながら黙りを貫いている。
それを横目に、ルークは尚も続けた。
「存在を大事にする。
どんな時も傍に居て、話を聞いてくれる。
我が儘も時には受け入れてくれて、支えてくれる。
認めてくれて、背中を押してくれる。
愛するという表現がそれならば、トップは部下に十分それをしてる。
何故なら、拠点内が上手く回ってるから。
だが、拠点外では成立しなかった。
その理由は俺にも分からない。
ただ、予測するに、そのファクターは、彼等にだけ存在する事は無いだろう。
なぜならさっきも言った様に、彼等も君が居る世界で、そこのルールに従って生きていた事がある。
それに背いてあの施設に居る。
壁やチームを作り、線引きをする事。
その中で繋がる事。
人はそうやって生きていくんだろう?
尖ったり丸くなったり。
気が長かったり短かったり。
沢山の特性がある中で、互いに上手く打ち解け合うには、まだまだ理解が足りないのか」
膝に顔を埋め、ターシャはじっと考えていた。
彼は偏った感情や、イルカなどと呑気な事を言うが、その最中に混ざり始める思考を、他所へは置けなかった。
それらはどういう訳か、発言を止めて来る。
ターシャはこれまで、己の思うまま、感じるままに生きてきた。
そうさせて貰っていた事もあり、それが幸福だと思っている。
彼に、何も分かっていないと口にした一方で、自分はどうなのか。
何の整理もつけられていない今、不安が増幅し始めた。
そこへ、ルークを起動させたというあの黒い男が脳裏を過る。
(…………クラッ…セン…?)
どこか引っ掛かる名前に思えたが、分からなかった。
非情な男だが、そんな奴が本当に、こんな落ち着き払った彼を生み出したというのか。
常に冷静で、傾聴し、口調が優しい性格は、先程までの焦燥を少しずつ緩和させていった。
「おーーーーい!
減速しろーーー!
そのまま突っ込むんじゃねぇぞーーー!」
一体何事かと振り向くと、ジェットスキーを飛ばす男が現れ、並走してきた。
見た目から、ライフガードを務める者か。
2人はコックピットのモニターに目を向ける。
そこには広く、陸地が表示されていた。
「島だ。あーあ、戻ろうと思ったのに」
「何それ…」
「知らないの?
海に浮かぶ大陸よりも小さな陸地の事さ。
家族が居るのか?」
居る訳が無い。
しかし、人に会える。
ターシャは大きく息を吐き、背凭れに体を預けた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。