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今日も平然と、厭味ったらしく時間をいつも通り流していく街。
平日のスクランブル交差点は、大量の車やバイク等で埋め尽くされている。
まるで蟻が群がり餌を運んでいる様だ。
そんな忙しない道路の脇には、飲食店や雑貨屋、他にも沢山の店が並び、通行人を見る見る引き止めている。
春真っ只中。
季節に応じて作られた、柔らかで温もりのある装飾が、店内や店頭を実に美しく彩っていた。
カフェテラスが立ち並ぶ歩道に沿って、1台の車が混雑する交差点にジワジワと合流し、過ぎ去って行く。
真昼につき灯は点けられていないその店は、ダークグリーンの短いショップカーテンを微風に靡かせていた。
その真下に設置された複数のテラス席には、昼休みを過ごす1人の若い女性が腰を下ろしている。
テーブルの中央に立てられたパラソルの影で、まるで永久に冴えなさそうな表情を浮かべていた。
何処と無く一点を凝視し、物思いに耽っている。
白く、細過ぎるその手には、すっかり冷め切り、口も付けられていないコーヒーが入った紙コップが佇んでいた。
明々と広がる春景色の街など見向きもしない彼女の顔からは、一切の温度すらも感じない。
つい指でその肩を突いてやれば、簡単に倒れてしまいそうな蛻の殻状態である。
心底怠い体は、強制的に取らざるを得なかった休暇の効果を全く発揮していない。
親友が死んだ。
1週間でそこから立ち直るなど、できるものか。
ふと彼女は、コーヒーから手を放す。
そしてゆっくり目を閉じると、今の彼女には全く似合わない軽やかな春風が街並みを縫い、カーテンやパラソルを靡かせた。
首半ばまでのカッパーブラウンの髪。
緩くかけられたパーマがそっと揺れ、僅かに陽光に触れた際に赤みがかる。
それが瞼をくすぐると、薄っすら開いた。
そのヘーゼルの瞳は、誰が見ても分かる程に悲しみに満ち、震えている。
ターシャ・クローディア。
わずか19歳にしてデザインの腕を買われ、大手ファッションデザイン会社に抜擢された。
社内では最年少のスタッフ。
デザイナーを勤めているというのに、アイディアのセンスが消滅している。
何も、浮かばない。
それどころか他の仕事にすら手が回らず、ミスが続いている。
しかし彼女の身に起きた事を、周囲が理解していない訳では無い。
彼女が犯したミスを、何も言わず、優しく処理してくれるそれが堪らなく痛い。
ただ悔しく、情けない。
そして今みたく、知る人の居ない何処かへ逃げ出したくなる衝動に駆られる始末だ。
とうとう髪を乱暴に掻き毟り、眉間に皺が寄り息が強く放たれる。
こんな心境でありながらも時間は気にしていた。
地獄の時間の再開ギリギリだ。
席から勢いよく立ち上がり、背凭れに掛けていたナップサックを右肩に、半ば焦燥した足取りで人混みを切る。
互いに笑い合いながら通過する人々。
狭い画面を見下ろしたまま歩く人々。
同じく昼休みを終え、会社に足早に向かう人々。
「…………邪魔…」
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。