[14]
乗船し、船体が大きく左右に揺れる中、バランスを崩しながら狭い通路を進む。
「運転して早く!
そしたら知らない事全部教えてあげるから!」
言い終わりに鍵を手渡された彼は、ターシャを横目に一瞬、怪訝そうに睨むと、コックピットに座る。
「ちゃんと教えてくれよ?それに遠くは行かない。
折角だし運転を試すよ。
そしたら後の実験が省けて効率がいい」
エンジンが入ると、ターシャの鼓動は高鳴った。
脱出できる。
つい彼の肩を掴み、また感謝を伝えた。
だが、彼は僅かに首を傾げ、彼女の顔をじっと見る。
先程と表情が違う事を、不思議に思っているのか。
ボートは後退する。
ターシャは後方に広がる景色に目を輝かせ、真上に上がりきったゲート、そのまま再び、ボート前方を見る。
刹那、発砲音と共にコックピット付近で火花が散った。
ターシャの悲鳴が重なり、操縦席の彼はその出所に向いて目を瞬かせる。
「おい新型!戻れ!何やってる!」
やっと発見したと言わんばかりに、血相を変えた部下2人が拳銃を向けていた。
ターシャは声を上げ、床に伏せる。
ボートの後退速度はみるみる上がり、部下が慌ててゲートを締めようとするが、間に合う筈もなかった。
怒号と共に銃弾は更に放たれ、ボートのフロントに穴が開く。
「飛ばして!飛ばして早く!」
旋回し、真横になるボディーに数弾入る。
「やっぱり出るべきじゃないよターシャ。
危ないだろう?」
「出なきゃ死ぬわよ!」
「だから、死にやしないよ。
足止めしようとボートを狙ってる」
「銃よ!?銃!殺すに決まってる!
さっさと飛ばして!」
ボートの向きは完全に変わり、大海原が正面に広がる。
プラットフォームでは、更に弾が連続で火花を上げた。
それを確認した彼は、ふと正面を向き直り、ある事を思い出す。
「解除……次は…これか…解除…まだあるの?
…こうか…解除……あああった…数値最低…
こっちも……これでいいか」
彼はどこか一点を見ながら呟くと、一時自動運転に切り替え、席を立った。
俯せのターシャを軽々と跳び越え、足早にプラットフォーム手前まで向かう。
「何してんのよ!」
プラットフォームまで出て棒立ちした彼の両側に、弾が2発弾かれた。
射程圏が遠ざかり、銃弾が届きにくい所まで来ている。
彼は、上がり切ったゲートに目を細めた。
屋内に立つ部下達に赤枠が付くと、ほんの僅かに左へ傾き、右目に意識を集中する。
その動きと共に、瞳は音を立て引きあがり、黒い小さな立方体パーツが機械音を立てて出現。
それは前に少々剥き出すと、まるでペンの替え芯程の細さをした青白い閃光が、短く放たれた。
それは瞬間的で、部下達はゲートを見上げたままフリーズ。
真上のゲートから、白煙が細く立っていた。
「最悪…」
部下は完全に小さくなるボートを目に重く呟くと、横で報告を上げる声が飛び込んだ。
「Rayがあの餓鬼とサウスから逃げた!
指令送って戻らせてくれ!」
ターシャは何が起きたか分からなかった。
攻撃が止んだ事に安堵するも、こちらに戻って来る彼を恐る恐る見上げる。
「何したの…」
彼はまた彼女を軽々跳び越え、コックピットに戻りながら言った。
「ちょっとビックリさせてみただけ。
怪我はしてないよ」
定位置に腰掛けると、再びハンドルを握る。
「早く教えてくれよ。
戻らないと。
皆怒ってる。
あーでもイルカ見つけたいな。
居たって報告しないと」
先程の事など他所に、外に出たら出たで呑気に楽しもうとするのか。
縁から顔を出し、海をキョロキョロ見渡している。
ターシャは口が塞がらないまま、不思議な彼を眺めた。
そして、未だ胃の辺りが気持ち悪い中、助手席にフラフラと移る。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(11/29完結予定)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。