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#08. Reboot 脱出
「消火器!」
レイシャが放った途端、火災報知器が鳴り響き、
スプリンクラーが一気に作動する。
「停電よ…この様だもの……
電源の確認に行ってもらってる」
上層部の持ち場は、より闇を深め、ダークチェンジしている。
静寂の中に立つ液晶は、黒い鏡と化していた。
曲面ガラスの僅かな光は、そこに眠る彼の目に被る様に放っている。
一時的な停電の復旧は早かった。
周辺機器はチラチラと点滅を見せながら、次々と再起動していく。
動き始める拠点内全ての機械類は、音を立てた。
同時に、鉄格子に伸びる導線を白光が複数走り抜け、彼の背面に消える。
起動を表す機械音が鳴り始め、液晶にはソースコードが流れる様に浮かび上がった。
その後、画面は映像設計図にシフトする。
彼のボディを映し出す図面は、回転しながら表示された。
甲高い金属音が、部屋で鳴り響く。
瞬時、彼の両腕に青白い電流が細く放たれ、背後に吸い込まれる様に消えた。
開胸された奥に眠る基盤は、青、白、金の小さな光を規則的に灯し続ける。
直に、胸部を守る為の格子が左右から閉じると、基盤ごと固くガードされた。
その後、内側に織り込まれていた皮膚が盛り上がり、開いていた胸は完全に覆われ、切り口を塞ぐ。
青白い眼光が一時、強く放たれると、内側に織り込まれていた目元の皮膚が上がり、眼窩が徐々に埋められる。
眼球分のスペースが開いたまま残った時、瞼が下がる様にスカイブルーの目が下りると、本物の瞼が閉じた。
その動きから顔全体に流れる様に、眉間に皺を寄せ、戻る。
瞼が小さく痙攣し、きつく目を瞑っては頬を引き上げ、また戻る。
口角が上下し、口が開閉すると、彼の顔は静止した。
彼が眠る場所は、椅子型診察台と呼ぶには歪な形状だった。
手足が乗るだけの幅をした金属プレートが、小さな座面から伸びている。
広い背凭れではなく、ただ肩が支えられたら十分な程度の鉄棒もまた、座面から2本、頭部に向かって伸びていた。
その伸びる2本に、真横から別の短い2本が交差し、そこに頭部が預けられている。
頸椎、胸椎、腰椎、その他関節部分にインサートされていた導線は、球体鉄格子の根元に滑らかに巻き取られ、回収された。
人1人分のスペースだけが開いていた鉄格子の正面は、徐々に左右に金属音を立てながら、より広く開かれていく。
肌は白く、開放性骨折の影響で激しく損傷していた傷は、美しく縫合され、ほぼ分からない。
両足先が動く。
導線から完全に開放された彼は、ゆっくりと目を開けた。
真上から差し込む照明に、目を細めて僅かに逸らす。
まるで、眩しがる様だ。
そのまま顔を上げ、瞬きしながら辺りをゆっくり見渡す。
どうやら1人の様だ。
手に力が入り、青い目が見開かれると上体が起き上がる。
広く開かれた正面の鉄格子を眺め、プレートから足を下ろして立ち上がる。
背の高い彼にはそこが狭く、頭頂部を鉄格子にぶつけた。
2秒程か、そのまま立ち尽くしていた所でふと屈み、目を顰める。
動作から見て、まるで痛がっている様だ。
表情が戻ると、そこから出る。
更に正面に、広々と真横に伸びるガラス壁。
そこに両手を付くと、薄っすらと映る自分の姿を凝視する。
ほんの僅か、右に首が傾くと、1つ、2つと瞬きした。
そのまま右を向くと、ドアを見つける。
フラッと素足の音を立てながら、それを目指した時、壁に掛かる数着の白衣を見つけた。
その後、体に目を向ける。
何も着ていない事に、目を大きく見開いた。
移動は早まり、その白衣を取ると滑らかに羽織る。
ボタンを全て閉じ、両手を広げた。
袖の短さを目にし、不思議そうに首を傾げる。
他の数着に目を移すと、瞬間的に白枠が浮かび、消える。
どれも大きさは変わらないと判断し、交換を止めた。
彼は、直ぐ傍のドアを開け、上層部の部屋に消えた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。