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遺体と共に降りた研究員2人は平然と安置室に入る。
病院で言う大部屋を思わせるそこもまた、不気味な程白い空間が広がっている。
8つのステンレス製の台が均等にサイドに並び、適当に空いた所に2体が着々と納体袋を移動させ、担架と共にあっさり捌けた。
そこにはまだ数体分の同じ袋が横たわっている。
大方、研究員の製作実験対象になるのだろう。
納体袋の真横に2人が着くと、そっと開く。
「まぁまぁまるでダミーが戻って来たみたいだわ」
自画自讃を含む発言に笑みが零れる女研究員。
その向かいで遺体を丁寧に確認する男研究員。
ペンライトを手に、肌全体、眼球、耳、髪の内側から頭皮、頭部と舐め回す様に見る。
それを横に彼女はスマートフォンで遺体解剖班に連絡を取った。
明日に早速作業に取り掛かる方向で、その動きの内容が見えない形で宙に時系列となる。
通話の片手間でふと、指で遺体の頬に触れた。
死化粧のパウダーが微かに付着するそれを眺め、摩擦でザラつきを消す。
「殆どの損傷は頭よ。
緻密な作業にはならないと思うわ。よろしく」
通話が終わると彼女は彼を振り返る。
その手元には黒のバインダーが握られ、瞬きも忘れ目を走らせている。
そこにはレイシャから送られてきた遺体データとプロフィール。
そして遺族との面会で収集した、もう少々深堀した彼女の性格データを書面化した物。
それとは別に、面会中の音声データもコンピューターに保存されている。
「ちゃんと、その子に戻してあげなさいね。
トップみたく、あんた好みの玩具にしちゃ駄目よ」
「俺は補佐官じゃない。
自由にさせてもらえる日なんてまだ先…
それどころか一生来ないかもな。
まずは通過する事だ」
遺体解剖班が明日より作業に入る。
それは、遺体に金属骨格を入れる作業も併せて実施される。
つまりレアールが説明した彼こそが試験対象者であり、明日から動き始めるのだ。
スケジュールを頭でシミュレーションしながら、彼は美しく眠る遺体に目を落とす。
「骨格は完璧?」
「当然。決まった初っ端で揃えたよ。
AIと睨めっこする時間を多く確保したかったからな。
毎日プログラミング作業に明け暮れて、それで明日から始まるって…
まぁ分かっていたが、更なる怒涛だ」
その顔からは以前よりも疲労が見受けられ、彼女は彼の手からバインダーを横取りしてドアに向かった。
「おい」
「アンドロイド製作にどれ程の時間と体力を要するか。
その様子じゃ偉く舐めてるわね。
落ちたくなきゃ、さっさと上がって寝なさい」
彼女は振り返り際に笑いかけては、ドアを大きく放って姿を消した。
彼は細々と息を吐くと、置いて行かれた発言にそっと納得する。
まずは与えられた時間で、どれだけパフォーマンスを発揮できるかだ。
睡眠時間は当然含まれているが、正直そこを少々削ってでも作業と向き合いたい程の意欲がある。
僅かに遺体を振り返り、頭で明日からの動きを再度見直した。
そして静かにその場を離れ、消灯する。
真っ暗な空間から徐々に床に射し込む光は狭まると、消えた。
MECHANICAL CITY
本作連載終了(完結)後、本コーナーにて作者後書きをします。
また、SNSにて次回連載作品の発表を致します。