ライラの手紙・1
拝啓 ハリソン・ミラ・ウリザーグ様。
お久しぶりです、ハリソン様。
とは言っても、きっとあなた様はわたくしのことなんてもう憶えてもいないでしょう。
ですので、この場を借りてあらためて自己紹介したいと思います。
わたくしの名はライラ・クライン。
先日あなた様が一方的に婚約を破棄した挙句、領地を接収し、国外に追放したクライン家の長女です。
ここまで言えば、どうしてわたくしがあなた様に手紙を送っているのかもうおわかりですよね?
まずはわたくしとの婚約を一方的に破棄しやがりました件について、文句を言わせていただきたいと思います。
婚約を破棄する前までは、あなた様は散々わたくしに「愛している」だの「君がいないと生きていない」だのと、ほざいてらっしゃいましたわよね?
アレはいったいどういう気持ちでほざいていたのですか?
チョロい女を騙す手練手管というやつですか?
だとしたら、ええ、悔しいですけど、あなた様にドハマりした身としてはお見事と言う他ありませんわ。
手練手管の後に(笑)を付けようと一瞬でも考えてしまったわたくしが、惨めに思えるほどに。
そんなクッソチョロいわたくしに婚約破棄を言い渡した瞬間は、さぞかしご気分爽快でいらっしゃったことでしょう。
それにしても、ああ、思い出しただけでも腹立たしい。
あの時ショックなど受けずに、あなた様のご尊顔に拳をめり込ませなかったことを後悔しなかった日はありませんわ。
今度お会いする機会がありましたら、是非ともわたくしの拳を受け止めてくださいまし。
それからクライン家の領地の接収と、わたくしたちを国外に追放した件ですが。
ひょっとして、この国の政を司る方々は、やべぇおハーブでもおキメになっていらっしゃるのでしょうか?
わたくしの父が、いつ、どこで、領民を虐げるような真似をしたというのです?
わたくしが言うのも何ですが、父ほど領民から愛されている貴族は見たことがありません。
あなた様に訊きますが、わたくしの父が領民を虐げていたなどと本気で思ってます?
天地神明に誓って「イエス」と言えます?
言えないのであれば、不敬を承知で言わせていただきますが、今すぐクライン家にかけた不当な罰を解きなさい。
罪をでっち上げ、罰を与えるなどという横暴を許していては、国が滅んでしまいますわよ?
とまあ、書きたいことはまだまだありますが、第一王子というご多忙の身にあるあなた様にあまりに長ったらしい手紙を送りつけるのは心苦しいので、これくらいで勘弁して差し上げますわ。
言い訳という名のお返事、心待ちにしています。
ライラ・クラインより。