後輩
西暦1930年9月
日が昇る少し前に俺は目覚める。
今日は海軍兵学校の始業式で、今日から俺は二年生になる。
第二学年の上位5人は特別待遇で、4席の俺の部屋は通常の二段ベッドの4人部屋ではなく、通常のベッドの2人部屋になっている。といってもベッドの他に勉強机と簡易的な調理スペースがあるだけの簡素な部屋だが、生徒は無料で食堂を利用するし、この部屋は週に一度の休日と寝るとき以外は使用しないので特に不自由はしない。
通常は同じ学年での相部屋なのだが、俺は三年生との相部屋だった。三年生が卒業したためここ1週間くらいはこの部屋を一人で使用していたのだがそれも今日でおしまいである。
教官殿によると次は一年との相部屋らしい。
まあ自分より序列が上の上級生や同学年よりかはやりやすいのだが。
前言撤回である。
三年の首席様でもいいから今からでも交換してほしい。
この学校は共学である。そもそも大日本帝国海軍には女性士官が少ないながらもいる。これは帝国海軍の師匠ともいえるイギリスの王立海軍が女性士官を採用していることを見習ってのことらしい。
まあだから女性が首席というのは珍しくはあるが、理解できる。
しかし…
「なぜ小官とこの方が相部屋に?」
目の前にいるのはどう見ても女性である。
「今年の第一学年の次席から5席は全員男性である。もちろん軍人を目指すものが女性に不埒な真似をするとは思えないが、兵学校に入ったばかりのひっよこが問題を起こす可能性がある。しかし女だからと慣例を破って特別な待遇をとるわけにはいかない。よって先輩との相部屋を経験し、性格が温厚な貴様を選んだという訳だ。」
チラッと教官殿の方を見たが、こっちを睨んでいる。俺に拒否権はないというわけか…まあ軍隊なのだからあるはずがないのだが。
「了解であります。教官殿」
ここで拒否してタコ部屋に移されてもたまらない。とりあえず了承しておく。
「それではよろしく頼む。」
そう言って教官殿は部屋から出て行った。
あの…二人だけにしないでくれませんかね……?
「あの…八神生徒。小官は第一学年の有村夏帆と申します。相部屋よろしくお願いします。」
礼儀正しく挨拶してくる。入学したばかりなのにしっかりしていて感心する。さすが首席。
「えっと…二年の八神佑真です。上級生といっても俺は4席だし…できれば部屋の中では敬語は使わないで欲しいな。」
「失礼しました!八神生徒。…………あの…先輩とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
少し顔を赤くしながら頭を下げて頼んでくる。
「え?うん…まあいいけど。じゃあ俺も呼び捨てでいいかな?」
「!?ありがとうございます!前に通っていた学校では先輩呼びでして…そっちの方が慣れていたもので… では改めて先輩!これからよろしくお願いします!」
了承をもらえるとは思っていなかったのか、一瞬混乱して、目をキラキラしてはなしてきた。
なんというか結構軍人にしては珍しいタイプだが、当初心配していたような事にはならなそうなので安心した。