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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第三章 寄奇怪解

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99/120

バーミンガム渦

雰囲気で読んでください。


 十時になって、シャーマン連合指定抹殺対象温矢くれむ対策室設立の挨拶を淡々とこなしたのち、メンバー同士で自己紹介する。魔物社会学の婀歴橋絵、計量術式学の写魏的乃及び上止葉友梨、生物魂魄学の共織矢回、シャーマニズム歴史学のローラ・ロッテンバーグは、僕の身内と言える。贔屓したと思われるのは嫌で、正直かなり悩んだけれど、やっぱり正式に加入させることにした。専門的知見の提供も期待しているが、それよりも意思疎通の円滑化が狙いである。しかし、日本出身のサムライガールズは人間性の面で狂っている。不安だ。

 彼女らの他は、史引及びロッテンバーグ両先生に推薦された中から選び、個人的に声をかけた者たちだ。役職がついていないのは学生である。理論術式学のポール・アンドレード教授、写魏や上止と同じ計量術式学のコレイア・オリヴァー教授及びネルソン・リチャード、術式生物学の鎧塚宏准教授、共織と同じ生物魂魄学の川渡(かわわたり)(まもる)教授及びベネット・アドルフソン、術式セキュリティ学のカール・ボーデンシュタイン准教授、シャーマニズム地政学のエレン・カシャップ准教授。ここには来ていないが、実働部隊としてイギリスの王国シャーマン軍並びに自衛隊の祓魔軍が協力してくれることになっている。

 全体の指揮・監督を執るのが僕、当瀬日文だ。ホワイトボードの前から錚々たる顔ぶれを眺める。一番後ろの席で、背筋をピンと伸ばし畏まっている零仁と轍破が面白い。


「優秀とは聞いているけど、まだ十七歳だろう? 大変だね。遠慮せずに命令してね」「もちろんですとも」


 初老の川渡先生に背中を押される。緊張していないと言えば嘘になるが、やれるだけはやると心に決める。ニヤリと笑ってみせた。


「そんな風に笑えるんだ。頼もしい」

「将来彼が偉くなった時のために媚を売っとくのが、ここでの最適戦略だな」


 オリヴァー先生とアンドレード先生がヨイショしてくれる。彼女ら彼らレベルの人間に持ち上げられれば、宇宙空間までジャンプするのも容易だろう。

 ホワイトボードに世界地図を貼り付ける。イギリスの主要都市と、ニューヨークのマンハッタン島に印がついていた。北アイルランドを除いたイギリスのみの拡大地図も隣に配置する。


「現在までに温矢くれむが出現したポイントです。言うまでもないことですが、ニューヨーク以外の都市の中枢部は壊滅的な被害に遭っています」


 導入から疑問提起までのストーリーを頭で描きつつ、喋り始める。すると早速、カシャップ先生が手を上げた。彼女はシャーマニズム地政学の専門家だ。


「はい」「なぜこれらの場所を襲ったのでしょうか?」

「くれむの目的は人間も魔物も滅ぼすこと。そのためには膨大な燃料が必要です。多くの人間の魂を抜き取ってエネルギーにするためでは?」

「それだけではない気がする」「場所自体に意味があると?」


 カシャップ先生が前に出てきた。「二ヶ月前に発表したばかりの手法で、査読は完了してないんですけど」と注意しつつ、自分のパソコンと部屋のコントローラーを繋ぐ。

 白いスクリーンに特殊なイギリスの地図が映し出された。気流分布図に似ている。南部の主要都市、つまりくれむが現れた地点に矢印が集中している。


「何の図ですか?」「霊的エネルギー……霊力のダイナミクスです」


 カシャップ先生は、動画の再生ボタンを押した。矢印が動き始める。細かな動きは刻々と変わっていくが、大まかな流れは時間を通じて一定だ。バーミンガム辺りを中心に、反時計回りに大きく長い渦を巻いている。ウェールズ北部にも小さな渦があった。スコットランドは南部以外、バーミンガム渦とは別のものに覆われている。


「低所から高所へと向かう際の流速が大きいようですね」

「はい。地面と近い場所では重力と反発する性質があるので。それよりも、バーミンガム渦の流れの方向を見ていただきたい。温矢くれむが都市を襲った順番と、大体一致しています」「確かにそうですが」


 顎に手を当てる。


「グラスゴーとスウォンジーはバーミンガム渦に入っていない」

「だからこそ着目したんです。この図を見た時にふと思いついただけの妄想が、形を持った仮説として浮上してきた」「どんな仮説ですか?」

「温矢くれむは、この霊力のダイナミクスを操ろうとしたのではないか」


 対策室が俄かに色めき立つ。席替えが通達された時の教室のようだ。刺激的な主張なのだろう。取り残された気分になる。シャーマンアカデミズムの存在を知ってからまだ日が浅い僕には、新規性や面白さなどの評価は出来ない。

 理論術式学のアンドレード先生が尋ねる。


「前に妄想で終わってしまったのは、刺激のための資源不足が理由ですよね?」

「もちろんです。研究倫理に反する覚悟があるならともかく」

「温矢くれむはここ『祓い場』で、初動のための資源を得た」

「根守のやり口を見て、魂の効率的な奪い方を学んだ可能性もあります」

「ダイナミクスを弄れれば、少なくともヨーロッパを破壊するだけの力は得られそうね。霊力から物理エネルギーを抽出するセオリーも実装出来るわ。まあ仮でしかないけど」

「渦の内側での刺激。外側からの調整。魂の補給。『白震』術式の存在を仮定してしまえばですが、すぐにでもダイナミクスコントロールのモデル化が出来そうです。素晴らしいメンバーもいることですし。当瀬室長、ご命令を」

「あ、はい。アンドレード先生、お願いします」

「私には実地での計測を命じてくださいな」

「あ、はい。カシャップ先生、お願いします」


 アンドレード先生とオリヴァー先生は写魏、上止、あとリチャードさんを引き連れ、机を固めて作業を始めた。カシャップ先生は婀歴に手伝いを頼み、イギリスへと向かう。

 何もしていないのにトントン拍子で話が進む。ポカンとするほかない。川渡先生に肩を叩かれる。


「カシャップ先生に一本取られたね」

「『好きにやってください、責任は取ります』って言えたらかっこいいですかね」

「ありがたいけど無理しちゃダメだよ? 僕たちは『白震』術式の解析をやろうか」「あなたも腹に一物抱えてそうですけれど」

「さあどうだか」


 残ったメンバーを集める。ローラに、彼女のおばあちゃんへとカシャップ先生の仮説を伝えておくよう頼んだ。川渡先生と鎧塚先生が中心となって、「白震」術式に関する議論が行われる。

 二十分経った時、ダイナミクスコントロール仮説検証グループから「ノーパソじゃ計算能力が足りない」という文句が聞こえた。リチャードさんだ。写魏が首を振る。


「精確性を求めたらデスクトップでも無理じゃね?」

「地形が複雑だから、ちょっとサボるだけで結果が変わりそうだわねぇ」


 僕がスーパーコンピュータを用意すべきなのか。史引先生に電話をかけようとした時、こちらの陣営に加わっていた、術式セキュリティ学のボーデンシュタイン先生が応える。


「十五階のメインコンピュータなら。あそこのセキュリティ設計に関わった時、計算機能の高さに驚かされたよ。入る権利があるかは知らないけど」


 写魏と上止(不法侵入者ども)が顔を見合わせる。二人して言った。


「入れるわ」「行こう」


 アンドレード先生たちを伴い、対策室から出ていく。止める隙もなかった。

 川渡先生へとボヤく。


「あれの責任は取りたくないですね」「甲斐性の見せ所だ」


架空の学問考えるの楽し過ぎる。

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