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寄奇怪解  作者: オッコー勝森
第三章 寄奇怪解

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チャッピー


 昨日、つまり行方不明だった町代が妖怪京都に出没した日、くれむは世界のどこにも現れなかった。シャーマン用のSNSでは、「『覇人』に恐れをなしたのではないか」という楽観論が湧き上がった。が、当の灰學による証言からするに、とてもそうとは思えない。嵐の前の静けさだと感じる。

 町代の逃亡後、後処理は妖怪京都の警察に任せて、白々燐を病院に連れて行った。軽い脳震盪と診断される。命に別条はないそうだが、念の為に一日入院して様子見ということになった。午後三時頃に「お大事に」と言って別れ、三色かふぇに戻る。

 閉まっていた。灰學に電話すると、『デート中なんで。シクヨロ!』と返されて切られた。くれむとの戦闘について、もっと詳しく聞きたかったのに。今度会ったらぶん殴ると決める。


「仕方ない。宿でも探して、此度のレポートを早めにまとめとくか」

「妖怪京都に泊まるの? ならウチに来る?」


 リサちゃんに連れられて、姫毎分家の屋敷に赴く。分家当主に歓迎された。金髪ピアス。チャラそうな若い青年だったが、めちゃくちゃ優しい人だった。豪勢なディナーパーティが開催され、近所から人間と妖怪が集まってくる。徳のある人ばかりで、互いが互いに慕い合っているのが伝わってきた。人格者の周りには人格者が集まる。

 対して僕はどうだ。考えて凹む。


「よく軽傷で済んだな」


 宴もたけなわ、喋り疲れた頃合い、隅でジュースを飲む零仁(れにい)を発見した。彼女もリサちゃんについてきていた。

 零仁は不敵に笑う。


「120のアニキは知ってるだろ。あたしは打撃に滅法強いんだ」

「そうだった。で、隣の方がVOTEのバディ?」「うん」

「初めまして。轍破と申します。花の妖精です」

「あなたが一位の。僕は当瀬日文。猫又マクラのバディです。よろしく」

「よろしくお願いします。固い口調でなくてもいいですよ」

「分かった。あなたも畏まらなくていい。印象と違うな。失礼かもしれないが、あまり野望を持ってそうには見えない。名前が(いかめ)し過ぎるな」

「そりゃそうだよ。こちとら一介の妖精。綺麗な蝶と花を眺められたらそれで満足なんだ」「零仁の負けず嫌いに振り回されてるのか」「なんだよアニキ」

「そうそう。僕に分不相応な名前をつけたのもこの子」


 轍破は肩を竦める。


「元はチャッピーって名乗ってたのに」


 一晩明けた朝、祓い屋に強い興味を示していた零仁を伴って、異界「祓い場」の地に立つ。「寺ばかりだな」「外見と中身が違って面白いぜ」などと会話を交わす。教育棟に入った。「ホントだな」と零仁は目を輝かせる。

 エレベータに乗る。十二階で降りた。表札のない空き部屋の扉を開け、電気を点ける。ガランとしていた。机や椅子は、端にまとめて置かれている。

 ホワイトボードのペンを持った。書こうとするがインクが出ない。禊力を注いでみる。使えた。赤色だった。


「零仁。机の配置を手伝ってくれ。作戦会議室風にする」

「あん? アニキ、作戦会議って言葉の響きはかっこいいけどよ。体のいいボランティアとしてあたしを連れてきたのか? 祓い屋の仲間に入れてくれるんじゃなかったのかよ」

「今日なれるとは言ってない。資格を与えられる先生方が忙しいんだよ」

「ああ。温矢くれむって奴が暴れてるせいだな」「あれは906番だ」

「……は? なんだって? あの『最優個体』の?」

「記憶は失ってるがな。温矢くれむ対策の指揮は、実質的に僕が執る。表向きのリーダーは『祓い場』のお偉いさんだが。お前はそのサポート要員として連れてきた」「えー」


 零仁は不満を露わにする。そりゃ僕だって、他人に労働を強いるのは本意ではない。しかし906番の過去を少しでも知っている貴重な人材を逃すわけにはいかないのだ。運が悪かったのだと諦めて欲しい。


「ちゃんと手伝ってくれたら、資格試験の際に口添えしてやる」

「約束だかんな。あと現金報酬もくれ」

「高校は通ってるよな? バイトOKか?」「禁止されてるよ」

「飯を奢ってやる。三食いつでも」「それでいいよ。暇な時に高級料亭な」

「僕の手作りの方が美味いかもしれないぜ」


 轍破の手も借りて、机と椅子を並べる。作業はスムーズに進んだ。終わってから時計を見る。九時だった。十時になれば写魏たちが来る。個人で声をかけていたメンツとともに。「温矢くれむ対策室」の本格始動まで、あと一時間。

 零仁に尋ねる。


「あの後どうしてたんだ?」「あの後って?」

「九歳で離れ離れになっただろ。お前の異動で」「楽になったな」


 彼女は頬杖を突いた。


「勉強と試験と訓練漬けの毎日から解放されたぜ。代わりにメディカルチェックが増えたな。何本も注射を刺された。あと、意図的に壁に激突する車に乗せられたり、住宅震動実験ってヤツに参加させられたり」

「重要ミッションだな。そしてチャレンジングだ。主に倫理面で」


 021番の異常な丈夫さ、機能しない痛覚ゆえだろうが、正直ゾッとする。


「でもある日、狒緋(ひひ)と名乗る猿の妖怪に助けられてよ。部屋と戸籍をくれた。中学校に入れてくれた高校への進学も保証してくれたんだ。狒緋は、禊力椽転のやり方が書かれた冊子を残して去っていった。タイトルは、『出来なかったら諦めろ』」

「はは」「アニキは?」

「勉強と試験と訓練漬けの、変わり映えしない毎日だった」


 906番の背中を追い続けた毎日だった。


「外の世界で名前まで持ってる。てこたあ、アニキも妖怪に助けられたのか?」

「そうだ。三年半くらい前にな。九尾と名乗る狐の妖怪に一年半育てられてから世に放たれた。高校デビューだ」

「意味がちげーだろ。それ他の奴らはどうなんだ? 元気にしてるか?」

「死んだ」


 端的に答える。零仁は目を見開いた。


「大人たちの実験が失敗して、バイオハザードが起きた」

「023も?」「ああ」「そうなのか」


 023は、零仁と最も仲の良かった女の子だ。

 項垂れる。首をブンブン振った。頬をバチンと叩き、「悲しんでても仕方ねえな」と呟く。


「アニキの高校生活について聞かせてくれよ。やっぱテッペン取ったのか?」

「テッペンの定義による。学業やスポーツの競争ならいつも一位だ」

「そうじゃなくてさ。覇権を握ったかって聞いてんだよ」

「お米なら日常的に握っている」「かー。アニキともあろう者が情けねえ」

「他に握ったもの。そうだな」


 温かな感覚を思い出す。懐かしさと寂しさに囚われた。


「恋人の手とか」「恋人? 彼女が出来たのか?」


 零仁はチラリと、隅のダンボール群を物色する轍破へと視線をやる。意味深な仕草だった。


「死んでしまったが。殺された。不可解な事件で、犯人はまだ見つかっていない」

「冥福を祈るぜ。犯人の逮捕もな。でもさ。なあ。アニキって――」


 言葉を遮るように、温矢くれむ対策室の扉が開かれる。髪に山吹色の混じる女性が入ってきた。婀歴橋絵だ。「あ、もういる」と言って、そそくさと側に寄ってくる。


「えっと。こ、この方々は?」

「VOTE一位のペアだ。人間の方は、僕の昔からの知り合い。指定抹殺対象温矢くれむの対策に協力してくれる」「なるほど」

「湯刺零仁だぜ。よろしく」「婀歴橋絵です。あちらの男性が轍破さん?」

「おい轍破。隅っこでウジウジしてねえでこっち来いよ」

「ちょ、ちょっと待って」


 ダンボールの中から何か良い物でも発掘したのだろうか。様子を見に行く。泣いていた。「どうした」と小声で尋ねる。


「恋人さんが亡くなったという話が、悲しくて」「優しいんだな」


 そっとハンカチを渡した。


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