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 しかし、その声には聞き覚えがある。怪物に囲まれていた時、たびたび聞こえてきたあの声だ。

「改めて、お疲れ様でございました、マスター」

 にこりと微笑み、ねぎらう彼女。その様子からは、何の悪意も感じ取れない。

 少し、彼女を観察してみる。

 まず服装だが、白を基調とした、いわゆるシスターのような服を着ている。別段派手さは感じないが、日常ではまずお目にかからないような格好だ。

 ケープから少し出ている髪は茶色で、ぴしっと真横に切りそろえられている。まるでまっすぐな刃のようだ。

 大きな茶色の瞳は、俺をまっすぐ見つめている。一点の曇りさえない。

 鼻筋もすうっと通っており、小さめの唇は、ふっくらしていて桜色だ。

 美少女といっても差し支えのない顔立ちだろう。

 だからこそ、怪しい。

 俺が住んでいるところは、会社の独身寮。

 女の子が訪問することなんてまずない。

 来るとしても、他の社員の家族くらいだ。

 しかも、なにかと素性にうるさいご時世。誰かが訪問すれば、部屋専用の電話に、管理人からの連絡がかかってくるはずである。

 ましてや、天井からいきなり降ってくるなんてあり得るはずがない。

「なんなんだよ……。何者なんだ、アンタ」

 訳が分からないので、とりあえず素性を聞くことにした。

 事と次第によっては、警察に連絡しなければいけないだろう。

「申し遅れました。私はツルギ。神様のご命令で、あなたにお仕えすることとなりました」

 怪しい。――うん、これは警察に連絡だ。

 床に置いたはずのスマホを探し、電話をかけようとした。

 だが――スマホの画面は、バッキバキに割れていた。

「あぁーっ!」

 思わず絶叫する!

 きっと、少女――ツルギとか言ったか、が落下してきたことによって、何かの拍子に割れてしまったのだろう。

 あぁ~……機種変更したばかりなのに……。

 仕方ない。ひとまず警察に連絡するのは後にして、色々聞いてみることにした。

 いざとなったら、連行して警察に突き出してやる!

「んで、お仕えするってどういうことだ?」

 怪しんでいることや不機嫌を隠さずに、ツルギに質問する。

「あ、説明がまだでしたね、申し訳ございません! 順を追ってご説明いたします」

 ハッとしながら、ツルギが答える。

 それは、どうにも避けようのない、まさに降って湧いたような災難の始まりであった。

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