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ショートショート10月~

おちょうしもの

作者: たかさば

※このお話を読む前にお願い※


お酒は二十歳を越えてからほどほどに嗜みましょう。

お酒は飲みすぎてはなりません。

お酒は自分の体調を考慮し正しい摂取量をお守りください。



「…ああ、酒が飲みたい。」


「…心行くまで、酒が飲みたい。」


「…べろんべろんになるまで酒が飲みたい。」


「…酒を飲むヒマがない。」


「…仕事が、仕事が、仕事が、おわら―――――ん!!!」


至急案件の仕事が舞い込み、ただいまいわゆる修羅場真っ最中の私、現実逃避が許されない状況下、きっちり手元は作業をこなしつつ口は煩悩ダダ漏らし中ナリ☆


毎晩のささやかな晩酌を楽しみに生きていた私は…仕事という波に飲み込まれてですね!!!

どうせ飲みこまれるならば、酒に飲みこまれたいわけですがね、そういう訳にもいきませんのでね!!!


「ぐおお…描いても描いても底が見えない!!」


パソコンの前から一ミリも動けない私は、口を動かし頭をひねり手を動かし椅子の上で胡坐をかきかき絵を描き描き…たった一人で奮闘中なのでございますですよ!!

休む間があったら一枚でも多く仕上げたい、その心意気はですね、作業スピードを加速させてですね…


ぴこん!


軽快なメロディと共に…絶賛テンパり中の私の目の前に、メールが到着…したよ!!


こ、これは救いの知らせか、それとも地獄の知らせか…さあどっちだ!!


「わああ!!修正キター!!!しまった、レイヤー統合しちゃったよ!!どうすんだ!!ぐおお…!!」


焦るとろくなことがないんですよ、作業ミスがね、判断ミスがね、わんさか出ちゃってね?!

やらかしがちな私は、落ち着きを無くすほどに作業スピードが上がり判断ミスの頻度も上がるという非常に厄介な癖を抱えておりましてですね!

急がば回れ?私は急がば突き進めタイプでしてね!!!


「私…これが終わったら、酒に浸かるんだ、酒風呂に入って熱燗飲んで、外から内から酒にまみれて我を忘れるんだ…。ふふ、ふふふ、えへ、えへへ・・・!!!」


「ちょっと!!大丈夫なの!!」

「全然大丈夫じゃない。」


仕事部屋で一人籠って騒いでいる私を気にして、娘と息子が様子を見に来たわけだけど。


「ふふ、ごはん、君らで用意してお食べなさいね、私はつくってさしあげられなれなられれr・・・。」

「うん、仕事頑張って。こっちは気にしないでいいので。」

「チャーハン作って食べよう。」


もはや言葉すら正常に伝えられなくなってしまった私はですね、ただただ自分の仕事とですね、向き合い続けるしかないというわけですよ!!

・・・くう、やったるわ!!!



「あ、おつかれさまー!」


なんとか仕事を終え、精根尽き果て、疲労困憊の極みを超え、燃え尽きて煤さえ残らず、魂すら抜けかかった状態で…いや、80%くらいは消滅したかもしれないぞ…よたよたとキッチンに行くと、残業から帰ってきたばかりの旦那が牛乳をぐびぐびと飲んでいた。


「おつ・・・。」

「仕事終わったー?ご飯食べた?なんか食べるもんある?」


牛乳パックをぺしゃりと潰しながら、旦那が冷蔵庫を開けてあさっているが。


「なんもないよ…急な締め切りで買い物にも行けなかったし。」


もう精も根も尽き果てた。

あとは泥のように眠ることしかできまい。


「じゃ―さー、なんか食べに行こ!葉山さんの店でも行こっか!」


なに!!


「マジで!!すごい飲もう、めっちゃ飲もう、全部飲もう!!ヒャッホウ!!」

「俺はウナギ食おう!」


葉山さんというのはですね、旦那の仲良くしている人で、居酒屋を経営していらっしゃるのですよ!

最近飲みに行ってなかったんだよね、よし行こう!

あの居酒屋は老舗の和食専門店、刺身もうまいし煮物もうまいし揚げ物もうまいし、なんでもうまいのですよ!!


「あっ!ずるい!」

「なに、じゃあ一緒に行く?」


隣の部屋でゲームをしている娘が不服を申し立てていらっしゃるようです。


「でも夜遅いし食べに行くのはちょっとな…あ、そうだ!!明日の朝モーニング連れってってよ!」

「いまからスマブラやる。」


時刻は21:00、子供達は明日休みなので、今夜は夜更かしをするらしいぞ。


「よし分かった、行きたいところ考えといてね。」

「「いってらっしゃい。」」


子供達に見送られて、車に乗り込むと私のおなかがぐうと鳴った。


旦那はめっちゃ食べる癖に、実はお酒が一滴も飲めない正真正銘の完全なる下戸だったりする。

運転は旦那に任せて、私はべろんべろんになれちゃうんだよね!!

いやあ、ホントいい旦那持ったわ!!

普段いろいろとひどい目にあいがちだけどさ、お酒に関してはもうね、ありがたいというか助かるというか!!


あれほど意気消沈していたのが嘘のように足取りも軽く、レトロな雰囲気のドアを開けると懐かしの居酒屋店主のご尊顔がお目見えした!!


「あれ!いらっしゃい!!ずいぶん久しぶりだねえ!」

「やあやあ、どうもどうも。」

「自慢の酒をいただきに参りましたよ!!」


人気の店内は深夜だというのに混みあっている。

さすがの老舗っぷりだ、この雰囲気と美味そうなにおいとアルコール臭よ…!!!


「あれ!珍しいね、奥さん久しぶり!」

「どうも、お世話になってます!!」


「どうも、いつもご主人にはお世話になってます、杉下です。」

「ああ!!先日は大変でしたね、床下の様子はいかがですか?」


「こちら奥さん?はじめまして私・・・。」


やけに知人の多い旦那は席に着く隙すらもらえず、あちこちのテーブルで捕まっている。

知人のほとんどいないわたしにまで被害が及んでいるのだからたまったもんじゃないわけですけれども…まあいいわ!!!


私は頃合いを見計らって旦那から距離を取り、そっとテーブルに着き、一人メニューを睨んだ。


さあ…今日は何をツマミに酒を飲もうか。

前回来たときは刺身盛り合わせだったな。

ここは串焼きもうまいからそっちで攻めようか。

いやしかし気温の下がってきた今、一人鍋もまたよし。

しかしここは魚のうまい店だから、自家製の干物も食しておきたい。

ちょっと待て、自家製といえば漬物シリーズははずせないな。

まずは大好物の出汁巻きから行こうか。

サラダも食べたいな、まずは気分をしゃきっとさせておかねばなるまい。

料理長が満を持して発表した和風ラザニアも食べておかねばなるまい。

この店の名物大海老フライも食べておかねばなるまい。

釜飯は時間がかかるから先に頼んでおかねばなるまい。


「ドリンクはどうする?」

「おすすめの酒をお願いします!!」


私はアルコールは何でもいける口なのですよ。

突き出しを持って来てくれた女将さんに今日の酒を託す。


「あのね、これ、自家製塩辛。良かったらどうぞ。」

「おお!!ありがとうございます!!!」


女将さんの塩辛は絶品なのですよ!!

コリコリとした食感と、濃厚な潮の風味、日本酒がすすみまくる、白いご飯がすすみまくるまさに禁断の一品なのですよ!!!くちばしと頭の部分がね、これまたうまいんだわ!!


女将さんチョイスのお酒で塩辛をつまんでいると、旦那が両手にビール瓶を持ってこちらにやってきた。


「なんかあまったからどうぞってもらってきたー。」

「ちょ!!何でもかんでももらってくる!!…のんだるわ!!!」


正直今日はビールの気分ではないのだけれど、もらったなら飲まないわけにもいくまい。


「もう注文した?」

「女将さんの塩辛と突き出しで楽しんでおります。」


もらったビールの栓を抜き、手酌でぐびっといただく。

ああ、この苦味、喉越し…ビールは良い、よきにあるぞ!!

しかもタダで頂いちゃったからな、これはきっちり最後の一滴まで飲み干さねばなるまい!

勢いよく飲んでたらあっという間に一本空になったよ、まあね、たかだか一本だもんね、うふ、うふ、うふ…。


「注文お願いしますー!うなぎ定食と、スタミナ牛丼と、和風サラダに揚げだし豆腐、チーズボールに唐揚、イカの炙りにホタテサラダ、牛テールと焼き鳥盛り合わせに大エビフライ…。あ、あとコーラもー!」

「ちょっと!!真夜中だけど?!そんなに食えるんかい!!」

「相変わらずの食べっぷりですね、ありがとーございまーす!」


ああー、注文が通ってしまった。

私の注文する隙が無かった、こんなん余ったら困るし、私がセーブしないと駄目じゃん!!

まあいいや、旦那の頼んだやつツマミながら飲も♪


「奥さんはお酒飲まれるんですね、旦那さん一滴も飲まないから意外だなあ…。」


私と初対面のおじさまがニコニコしてやってきた。

徳利持ってる、フムフムいただきますとも!いつも旦那がお世話になってるのにすみませんねえ!!


「ええ、この人は食担当で、私はアルコール担当なのです。」


世の中というのは、意外とアルコールを勧められる場面というのが存在している。

立食パーティーの乾杯、懇親会のあいさつ回り、歓迎会の話題作りに、無口な人とのコミュニケーションツール。

旦那は一滴も飲めないが、やけにお酒を注がれがちで、コップにビールが注がれるたびにすべてこっちに回ってくるのである。

テーブルで間違えて注文したアルコールなんかもこっちに回ってくるのだ。

ワインは赤しか飲めないとかさ、甘いチューハイだったからいらないやとかさ。

さすがに飲みかけはお断りするけど、手付かずだったらまあ、飲むでしょ!!

つか、飲んであげなきゃお酒も報われぬて!!!

酒として生まれたからには、酒のみに飲まれてなんぼじゃ!!


「おまたせしましたー!」

「おおキター!!ぐびぐび!!」

「あっつ!!ハフハフ!!このチーズうま!!」


旦那の注文したものが続々とテーブルに並んでいくぞ!!

おかしいな、二人で四人掛けのテーブルに着席しているというのに全然机の上に隙間がないやんけ!!

見渡す限り、食いもの酒食い物酒食い物酒食い物つまみ氷ボトル酒空のグラス空のジョッキ空の徳利揚げ物焼き物生物野菜果物デザート酒カクテルええとこれは何だ、ああ食べ終わった皿タワーか!!


も~さー座敷陣取らないとだめだわこれ。

よし、次に来たときは座敷にずらりと並べて…うひひ!!!


も~さ―わたしってば酔っぱらってもしっかり記憶残るタイプだからさー!

今日のこの天国っぷりはきっちりと覚えておかせていただきますの事よ!!ぐふふ!!!


「ふー!食べた食べた!!も~そろそろ帰ろっか!!」

「マジで!!いいね!!よし帰ろう今すぐ帰ろうではさよーなら―!!」

「あはは!!ありがとーございました!!また来てね!!」


いやあ、食った食った!飲んだ飲んだ!!

旦那ってば結局注文追加してさあ!!

明らかに食い過ぎだってんで、私が横からちゃっちゃかちゃっちゃか摘まんで喰らってやったわ!!

おかげで深夜なのにおなかがパンパンだっつーの!!


つか、旦那の腹がでかくなり過ぎてハンドルがめり込んでやんの、ぎゃははははは!!!


「もー!飲み過ぎだってば!!」

「あんたは食い過ぎだ!!ぎゃはははは!!!」


笑ってたらあっちゅーまに家に着きましたとも!

いやあ、文明の利器ってのはすごいねえ!歩いて15分が5分で着くよ!!

ヒャッホウ!!ビバ文明!!ビバ頭の良い人ー!!!


「たっだいまー!!」

「おかえり。」

「おかえり。」

「まだ起きてたの?」


子供たちは…まだゲームをしてたな!!

いやあ分かる、わかるよ!!私もその昔かまいたちの夜にはまって完徹とかしたもん!!

ハマるゲームってのはさあ!!睡眠欲を吹き飛ばすのですよ!!


「わかる、わかるよ!マジ分かりみ!ゲームは楽しす!!ぎゃはははは!!!」

「君らもう寝た方がいいんじゃないの…。」

「うん…お休み…。」

「おやすみなさい…。」


あれ!!なんだ意外と情熱薄いな!!

私なんかさあ、風来のシレン24時間ぶっ続けで遊び倒したり平気でしてたんだけど!!

まだまだオタレベルが低いな!!

ふふ、所詮まだまだ子供よのう!!!


「おやすみ!!いい夢見ろよ!!」

「俺も腹いっぱいだからちょっと横になろ…。」


はんっ!!

どーせ旦那はこのまま朝までぐうすかぷーだよ!!!

まったく本当にだらしないったりゃありゃしない!!


「あたしはシャワー浴びてこよー!!」


さすがにさあ、ちょっとほろ酔いだからね、お湯に浸かるのはよろしくなくてよ。

熱めのシャワーでさっぱり汚れを落とさせていただきますですよ!


ふんふふんふふー――ン♪

なんだかよくわかんねえ鼻歌も自然と出てきますがな!!

いやああたしってホントめっちゃ音程よくない?

いつか歌手デビューできんじゃないの!!


ちょーご機嫌な私はですね、シャワーを出てですね、髪も乾かさずにですね、ベッドにずどー――ン…。


・・・。


・・・うう。


・・・頭、いてえ。


「おかーさん!!昨日ひどかったよ!!!」

「ひどかった。」


なんだ、休みの朝から娘と息子が突撃してきた…。

も、もう少し、お静かに願えませんか…。


「ごめん、ではお休み…。」

「ちょっと!!モーニング行こうって話は!!!」

「牛皿定食食べたい。」


そんなことを言っていたような気もする、うん、確かに言った。


「じゃあ、行きますか…。」

「お父さん今お風呂入ってるよ!!」

「でたら行こう。」


私は、のそりのそりと・・・出かける、準備を、始めた・・・。


なお、フィクションなんだからね((((;゜Д゜)))

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― 新着の感想 ―
[一言] お酒を飲んでいる時は楽しいですね。どんどん飲めてしまいます。 酔っ払っている時は楽しいですね。声がつい大きくなってしまいます。 もう二日酔い、二日酔いってのさえなければもっと楽しめるのに。…
[一言] |д゜) フィクション……? 食って、酒飲む! いいすね。酔いつぶれてもねぇ〜たまには、ね。
[良い点] >あの居酒屋は老舗の和食専門店、刺身もうまいし煮物もうまいし揚げ物もうまいし、なんでもうまいのですよ!! めっちゃうまそう [気になる点] なんてリアリティ溢れるフィクションなのでしょう…
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