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ラーメン大好き美少女と彼女を可愛がりたい僕  作者: 久野真一
第1章 ラーメン系ユーチューバーな彼女と僕の1日
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第2話 朝のひととき

 4月のそよ風の中、手を繋いで通学路を歩く僕たち。まだ、高校2年生になってそれほど経っていない。桜は散ってしまったけど、日差しが暖かくて、とても気持ちいい。


「ふわぁーあ」


 隣を歩くセシリーが可愛らしい欠伸をした。


「ごめんなさいキョウヤ。つい」

「セシリー、ひょっとしてあんまり寝てない?顔色悪いよ」


 僕の家に「一緒に行こ、キョウヤ」と誘いに来たのだけど。

 なんとなく眠そうなのが気にかかっていた。


「コメントに返信してたら、夜ふかししちゃったの」


 やっぱり。彼女の言うコメントは、Ramen Walkersの動画コメント欄のことだ。


「気持ちはわかるけど、一部だけ返信したら十分。キリがないよ」

「わかってる。でも、見てくれる人に応えてあげたいの!」


 ほんとにセシリーは、サービス精神旺盛だ。でも。


「寝不足は本末転倒だって。親父さんも心配するよ」


 こういう時に諭すのは僕の役目だ。セシリーの親父さんは甘いから。


「わかったわよ。今日はちゃんと寝るわよぅ」


 親に叱られた子どものような返事。子どもっぽいところも、彼女の魅力だ。


「うんうん。聞き分けがいいね」


 愛しさが湧き上がってきて、頬にキスをして、抱き締める。


「ちょ、ちょっと。だから、こういうところでは止めてってばー」

「そういう反応をしてくれるから、色々したくなっちゃうのだけど」

「《《二人きり》》の時だったら、いくらでもいいから!」


 もうちょっと虐めていたくなるけど、諦めて抱擁を解く。

 

「もう。いっつもイジワルなんだから」

「嫌だったらやめるよ?」

「嫌じゃないから、困るの!」

「はいはい」


 話を切り上げて、再び歩き出す僕ら。彼女をちょっと困らせるのが楽しい。


◇◆◇◆


「おはよう、皆ー!」


 元気な声でセシリーが教室に入る。


「セシリア、おはよー!いつも通り元気だねー」

「セシリアさん、おはよう。Ramen Walkersの新作見たよー」


 クラスメイトが出迎える。


「セシリーちゃん、会いたかったよー」


 飛び込んできて、ギューっと彼女を抱き締める女子生徒が一人。


「ちょっと(まい)。恥ずかしいっていつも言ってるでしょ!?」


 彼女の腕の中でもがくセシリー。


「だってセシリーちゃん、可愛いんだもん」

「だから止めてってば」


 頬ずりまでしだす舞。セシリーもちょっと嫌そうだ。


「舞、それくらいにね」


 舞をセシリーから少し無理やり引き剥がす。


「うー。キョウ君が私をセシリーちゃんから引き裂くー。ふんだ」

「人聞きの悪いこと言わないでよ」


 彼女の名前は新庄舞(しんじょうまい)。僕のもうひとりの幼馴染みだ。セシリーの次に付き合いが深い。彼女は明るくて、皆の人気者だ。セシリーを溺愛(できあい)し過ぎるのが困りものだけど。


「そういえば、今回のRamen Walkersも良かったよ!」

「それは恐悦至極(きょうえつしごく)。どこらが良かった?」

「色々あるけど、コメントするのを忘れてぼけーっとしてたところかな」

「わかるわかる。ああいうぼけーっとした所が魅力だよね」

「それと、キョウ君とのやり取りがいいな」

「そ、そっか。ありがと」


 率直な褒め言葉が照れくさい。


「相変わらずキョウ君はセシリーちゃんにだだ甘よね」

「それはもう。愛しの彼女だからね」 

「キョウヤは、もうちょっと慎んでほしい……」


 不機嫌を装って、セシリーがそんな事を言う。


「嫌なんだったら、止めるけど。でも、いいの?」


 わかっていて、尋ねる。


「別に嫌じゃないわよ。少し恥ずかしいだけ!」


 頬を真っ赤に染めて言うセシリー。

 白人の中でもとりわけ白い肌を持つ彼女。

 だから、羞恥(しゅうち)の感情が顔に出やすい。


「やっぱり、セシリーは可愛いね」


 ギュッと彼女の身体を抱き締める。


「もう。言った側からキョウヤはー」


 今度はセシリーは抵抗してこない。抱きしめられるままだ。


恭弥(きょうや)君とセシリアちゃん、熱々だよねー」

「恭弥君みたいに、ストレートに愛情表現されてみたい」

「セシリアちゃんみたいな彼女欲しいなー」


 様子を見た女子たちが絡んでくる。

 しかし、女子が女子の彼女を欲しいとは如何に。


「駄目駄目、セシリアは僕のものだからね」

「来た来た。「彼女は僕のもの」宣言」


 女子グループの1人の八坂遊里(やさかゆうり)が言う。

 髪を金髪に染めた彼女は、ピアスもしていて、派手な印象がある。

 僕は、実は高校デビューなのではないかと疑っているのだけど。


「羨ましいんだったら、八坂も彼氏作れば?」


 率直な意見をぶつけてみる。


「ほいほい出来たら苦労はしないっての。これだから彼女持ちは」


 八坂がヤサぐれてしまった。


「八坂ならよりどりみどりでしょ?五木(いつき)とかさ」


 少し離れたところで、べたっと机に突っ伏している五木を指差す。


「ん?なんか言ったか?」


 気だるげに反応したのは、五木耕平(いつきこうへい)

 180cmを超す長身に、スリムな体躯。そして、整った容貌。

 卓球で全国レベルの選手というちょっとレアな特技もある。

 というわけで、女子人気が高い。しかし、彼女は居ない。


「八坂が彼氏欲しいっていうから、五木はどうかって言っただけ」


「俺はパス。遊里は色々知りすぎてちょっと対象外だわ」


 五木のすげない返答。


「こっちだって、耕平なんてお断りよ!」


 八坂も不機嫌そうに返す。


「2人共素直じゃないよねー。ツンデレ?」


 興味津々のセシリーが割って入ってくる。


「ずっと一緒だったから、異性としてみられなくて……って奴じゃないかな?」


 セシリーの話に乗っかってみる。

 どうも、この二人、昔から一緒だったんじゃないかと僕は思っている。


「うーん。様式美よね。美味しいわ」


 大の日本好きであるセシリーは、こういうサブカルチャーのセオリーにも詳しい。


「ここから発展してくれると美味しいよね」


 なんていうか、甘酸っぱい展開に。


「遊里ちゃんがツンぽいから、何かの拍子にデレるといいんだけど。難しいかなー」


 さらに悪ノリするセシリー。


「そもそも、幼い頃のイベントがわからないよね。というわけで、どう、八坂?」


 と盛り上がっていたら。


「何が、「どう?」よ。勝手に、他人を話の肴にしないでほしいんだけど」


 八坂からの苦情。


「というか、こいつとは別にそれらしいイベントなんて無いわよ」


 なんて付け加えるが、実際どうなのやら。八坂の苦情にも、


「だって、他人の恋路は蜜の味って言うじゃない?」


 ニヤニヤと笑うセシリー。


「それ言うなら、他人の不幸は蜜の味でしょ?」

「ちょっとアレンジ効かせてみたんだけど」

「そんな謎アレンジ要らないから」


 八坂に、やってられねーとばかりに追い払われて、隣同士の席に着席する僕たち。


 舞をはじめとした何人かが、「セシリーちゃんは日本語が得意じゃないので、キョウ君が隣に居てサポートしてあげた方がいいと思いまーす」などと言った結果、今の席になった。彼女は日本語がぺらぺらなのだけど、どうしてこうなった。


 授業時間が始まる前の一時。隣を見ると、何やらセシリーが目を輝かせている。


「キョウヤ。今度、行ってみたいラーメン屋さんがあるんだけどー」


 スマホで見せてきたのは、ここから3駅先にあるラーメン屋だった。


牡蠣(かき)か。珍しいね」


 そのラーメン屋は、牡蠣をベースにしたラーメンを出すことで有名らしい。

 確かに牡蠣のあの味わいをスープにすると美味しそうだ。


「牡蠣ラーメンってまだ食べたことないよね?どう?」

「僕も行ってみたくなってきた。今週末にでも行こうか」

「じゃあ、決定ね。ああ、今から楽しみー」


 バンザイをして、全身で喜びを表すセシリー。

 今週末はラーメン屋でデートに決定。

 突発的にラーメン屋を開拓したいと彼女が言い出すのはよくある事だ。


 でも、彼女がラーメンに向ける情熱は本物だ。

 彼女を見ていると僕まで活力をもらったみたいで楽しい。


 そんなところも、僕が彼女を好きな理由かもしれない。

 なんてことを思ってみた朝の一時だった。

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