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Chapter-44

「んー」


 三郷料金所を通過したところで、シータが、常磐道に入ってから何度目か、運転席と助手席のシートの間越しに後ろを振り返った。


「やっぱりあれ、ついてきてるわねぇ……」

「そうなのか」


 苦い顔をして言うシータに、朱鷺光がちらりとルームミラーを見ながら言う。


「どいつだ?」

「シボレーのミニバン。ナンバーは……」


 シータが、それを口にしたところで、朱鷺光は再度ちらりとルームミラーを見た。


「距離をとったり詰めたりしてるのは良いんだけど、アメ車使ってる時点で自分たちですって、告白してるのと同じだって気づかないのかしらねぇ」

「広告料でももらってんだろ。一応は民間の企業ってことになってるし」


 シートに座り直しつつ、呆れたように言うシータに対し、朱鷺光は特段表情も変えずにそう言った。


「さて首都高そんなに混んでないのは良いけど、どこで下りたら良いかなと」


 朱鷺光が呟く。

 ドミンゴにはポータブルタイプのナビゲーションシステムが設置してあったが、今はそれにルートを設定していなかった。


「駒形がこっち側から降りられりゃ早いんだけどねぇ、あとはどこ行っても遠回りなんだよなぁ」


 そう言いながらも、珍しくもそれほど混んでもいない首都高を走らせる。


「あ、向島で降りちまえばよかったかな」


 向島出口の分岐を過ぎてしまってから、朱鷺光はそう呟いた。


「もうおっそーい」


 シータがツッコむようにそう言った。


「まぁ、浅草駅前のあたりは混むからなぁ、両国ジャンクション渋滞してないんだったらこっちのほうが速いけど……どこで降りるかな」

「ナビセットしとけばよかったのに」


 首都高のどこから降りるか考えている朱鷺光に対し、シータが苦笑しながら言った。


「ああ、浜町で降りちまうか」


 朱鷺光はそう言った。


 ウィンカを出し、首都高向島線本線から箱崎ロータリーに進入し────


 キキキキーッ

 ガシャァンッ


 朱鷺光のドミンゴが浜町パーキングエリアの前を通過している最中、後ろからスキール音と強烈な衝撃音が聞こえてきた。


 シータが慌てたように振り返るが、その光景を見て苦い顔をする。


「どったの?」


 シータの反応に、朱鷺光が苦笑しながら訊ねる。


「なんかトレーラーと接触してひっくり返ってるんだけど」

「えっと……例のくっついてきてたシボレー?」


 朱鷺光が訊ねると、シートに座り直したシータは真顔で頷いた。


「首都高慣れてない人間が慌てると事故の元だよなー」


 朱鷺光はそう言って、ため息をついた。




「トキヒロ、久しぶりだね」


 秋葉原UDXの1階で、朱鷺光は気の良さそうな中年の──朱鷺光の実年齢より一回りほど年上の男性に、明るく声をかけられていた。


「どうも、ご無沙汰してます、ドクター・アデウス」


 朱鷺光も、その男性に対し、気さくそうな感じで、笑顔で声をかけた。


「ハッハッハ、いつも言ってるだろう。アレックスで構わないよ」


 朗らかなアメリカ人というイメージそのもので、アレキサンダー・アデウスは朱鷺光にそう言った。


 秋葉原UDXの催事ボードに、5階のギャラリーで『脳科学と人工知能のシンポジウム TOKYO』が開催されていた事が表示されている。

 もっともすでにその開催の時間は過ぎていた。梅雨空の夕暮れ時で、外はもう行き交う自動車のライトが点灯している時間になっている。


「トキヒロが興味を持ってくれるのであったら、シンポジウムの招待状を出しておくべきだったかな」


 アメリカ人らしい訛りのある日本語で、アデウスはニヤリと笑いながら言う。


「いやぁ、ちょっとこっちも色々たてこんでて、それどころじゃなかったんで、まぁ気づいてたらこちらから連絡入れてましたよ」


 朱鷺光は少し恐縮するような格好でそう言った。


「それとR-2も一緒というわけか」

「どうも、久しぶりです。アデウス博士」


 アデウスは、朱鷺光から、その隣にいたシータに視線を移して、そう言った。


「ハッハッハ、R-2も私のことはアレックスで構わないのだよ」

「そうですね、では私のこともシータ、と呼んでくれるといいのですけど、アレックス」


 アデウスに対し、シータはニヤリと笑うようにしながら、そう言った。


「ハッハッハ、これはイッポン取られたというやつかな」


 アデウスは笑い飛ばすように言う。


「ところで、今回のシンポジウムではやはり、Project BAMBOOの件も議題に上がったわけですか?」

「Project BAMBOOについてすでに知っているとは、流石に情報が早いね、と言いたいところだけれども、トキヒロの弟がそのモニターの1人であるから、知っているのは当然ということかな」


 朱鷺光がそう質問すると、アデウスは視線を朱鷺光の方に戻しつつ、悪戯っぽくウィンクしながらそう言った。


「残念ながら今回のagendaでは生理脳科学の方がより大きなものとなっていてね、Project MELONPARKのTeamはobserverとしての役割しか果たしていないのだよ」

「ははぁ、なるほど、それで俺のところには、ぜひにとは招待状が来なかったわけですね」


 アデウスにそう説明され、朱鷺光は苦笑したようにそう言った。


「そうだね。生理脳科学においては、君は素人当然──まぁもちろん、人の思考段階を分析するのであれば君の理論は必須だがね、今回は生体としての脳の分析が主だったからね」


 アデウスは不敵な感じで笑いながら、そう言った。


「河岸をかえましょう──おっと、早速食事にでも行きましょうか。クルマをまだ駐車場に入れていないんで、あまりここに長居すると」


 朱鷺光は、言ってしまってから、アメリカ人にはあまり通じない言い回しだと気づいて、言い方を変えた。


「そうだね、せっかくだから君との夕食を優先するか。この後の片付けは研究室の人間に任せてしまっても問題ないだろう」


 アデウスはそう言うと、彼よりやや後ろにいた、カジュアルだがラフすぎない装いをした、明らかに学生といった感じの外国人の集団に、指示を出して、それから、そのうちの1人を連れて、朱鷺光のところに戻ってきた。


「トキヒロ、紹介するよ。ディートリンデ・マッケンジー。私の研究室の、日本のslangで言うところのhopeというやつで、Project MELONPARKにも深く携わっている」

「どうも、はじめまして──Dr.左文字」


 アデウスに紹介された、淡い栗毛に栗色の瞳を持つ女性が、そう言った。

 リアルな大学生ぐらいのように見えた。

 だが、朱鷺光自身とか真帆子とか実年齢と見た目が離れている人間が多いので、朱鷺光も自分の目を疑ってしまっていた。

 否、朱鷺光達にはそれよりも気になることがあった。


「随分、日本語が流暢なんですね、日本人みたい」

「ええ、よく言われます。私は12まで日本で育ったので」


 シータが意外そうに言うと、ディートリンデはそう答えた。


「なるほど……ああ、失礼、私はR-2[THETA(シータ)]」

「ええ、よく知ってます。Dr.左文字の製作した世界初の完全人間形態ロボット(ガイノイド)で、疑似ニューラルネットワーク型人工知能を搭載。その能力は当時、いや、今でも、Dr.左文字にしか作れない、自我がある、とされている人工知能を搭載したロボット」


 シータが自ら名乗ると、逆にディートリンデはシータを紹介するかのようにそう言った。


「なんか、そう言われると自分がすっごいものになった雰囲気」

「実態はメシマズネコミミメイドロボなのにな」


 軽く驚いたような様子で言うシータに、朱鷺光は苦い顔で混ぜっ返すようにそう言った。


「朱鷺光!」

「さ、行くんなら早く行きましょう、駐禁取られても面白くない」


 抗議するシータの声を余所に、朱鷺光はアデウスとディートリンデを促した。


 駅前口を出ると、その前にハザードを点けた状態のドミンゴが停まっている。


「トキヒロ、君も小さいクルマが好みなようだね」

「ええ、デカいクルマは好みじゃないです」


 シータがスライドドアを開け、アデウスとディートリンデをセカンドシートに促す。朱鷺光は運転席側に回り込み、そこに乗り込んだ。


「ああ、ベルト締めてください、道交法改正でリヤシートもシートベルト必須になったんで」


 朱鷺光が言う。その隣の助手席に、シータが乗り込んできた。


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