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Chapter-43

 朱鷺光の、居室。


 Webサーフを主目的にしたスリムケースのパソコンで、そのWebブラウザの検索欄に色々なキーワードを打ち込んでは、検索をかけていた。


 ふと、あるキーワードを検索欄に打ち込んでいることに気が付き、はっと我に返る。


『ストラト・フォー 人工知能 黒幕』


「何を……検索しようとしているんだ、俺は」


 頭を抱えるようにしながら、ため息を突きつつ、バックスペースキーでそれを消していく。


 真帆子に対する襲撃から2日が経過していた。


「ああ、やめやめ」


 朱鷺光は、パソコンをスリープ状態にしようとして、最後に、Webブラウザに映し出されたある記事を目にした。


「…………」


 朱鷺光は、その記事を見たまま、少し考えた後、スマートフォンを取り出し、アドレス帳からある電話番号を呼び出して、通話ボタンを押す。


 ブラウザに出ている記事は、『脳科学と人工知能のシンポジウム TOKYO』と出ていた。


「ああ、どうも、久しぶりです。ええ、来日されていると思いまして。ええ、よろしければ、食事など一緒に。もちろん、その後のお誘いはありませんが」


 朱鷺光は、電話の相手に、冗談交じりにそう言った。


「ええ、秋葉原UDXの駅前口の1階で。ええ、じゃ今から行きます」


 朱鷺光は、電話の相手にそう伝えて、通話を終えた。


 立ち上がると、古びたタンスを開ける。

 カジュアルだが、ドレスコードのあるレストランで入店を断られない程度の装いになった。

 それから、部屋を出る。


「あれ、朱鷺光、どこか出かけるの?」


 朱鷺光が、別棟の階段を下りて、1階の渡り廊下からリビングに入ると、ちょうど、洗濯カゴを抱えたシータと出くわした。


「よし、行くわよ、オムリン」

「了解」


 ふと、テレビセットのある方を見ると、ローソファーの前に、真帆子とオムリンが、ワイヤレスのガンコントローラーをそれぞれ手に、構えながら、合図をしあっている。

 どうやら、セガ・マークXでFPSシューティングの協力プレイをしているようだった。

 そばに、パティアがローソファーに腰掛けて、そのプレイの様子を見ていた。


「外、降ってるか?」


 朱鷺光は、シータの問には直接答えず、吐き出しの窓から外を覗くようにして、そう言った。

 空模様はぐずついている。パラパラと雨が降っていた。まだしばらくは梅雨空と言った様子だ。


「そうなのよー、まぁ、乾燥機様さまねー」

「んー、それじゃあ、シータがいなくても大丈夫か?」


 シータが苦笑しながら言うと、朱鷺光はトボけたような表情でそう言った。


「ちょっと、それ、どういう意味よ」

「いや、洗濯物取り込む係がいなくても大丈夫かなと、そう思っただけだけど」


 シータが、少しむくれたような様子になって、朱鷺光を軽く睨むようにしながら言う。

 すると、朱鷺光は、悪びれもせずに、そう返した。


 晴天であれば、母屋2階のベランダに、シータが洗濯物を干すのだが、今は、ガス乾燥機が、今朝方洗濯した衣類を乾かしている。


「いや、丁度いいから、シータ、俺のエスコートしてくれ」

「え? 私が?」


 朱鷺光の言葉に、シータがそう聞き返すように言う。


「あんまりオムリンを見せたくない相手だし、ましてパティアは、な」

「!」


 朱鷺光の言葉に、シータも何かを察したような表情になる。


「つーことで、ちょっと出てくるわ、帰りは遅くなるから晩飯はいらないぞ」


 朱鷺光は、リビングから、台所の方を覗き込むようにして、中にいるファイに対して、そう言った。


「了解しました」


 台所にいたファイが、返事をする。


「ちょっと、ちょっと待ってよ」


 シータが、慌てたような声を出した。


「ん? なんか問題あったか?」

「あるわよ、朱鷺光がそのカッコってことは、ドレスコードのあるところ行くかもしれないったことでしょ、私、流石にこのカッコじゃまずいわよね?」


 朱鷺光が聞き返すと、シータは、ラフなパンツルックのままの自分の格好を朱鷺光に見せるようにして、そう言った。


「あ、そりゃそうだな」


 朱鷺光は、今、気がついたというようにそう言った。




 キーを差し込み、イグニッションスイッチをONに倒す。

 DefiのタコメーターとAutoGageの電光式ブースト計がオープニングモーションをする。

 EF12エンジンが軽いセルモーターの後に始動直後の唸りを上げた後、アイドリングに入る。


「私のプレーヤーで音楽かけてもいい?」

「別にいいぞ?」


 朱鷺光が答えると、助手席に座った、余所行きのワンピース姿のシータは、シートベルトを締めてから、セガのロゴの入ったメモリプレーヤーを取り出した。

 プライズゲーム機の景品で、中身はKED製。

 メモリは内蔵式ではなく、コンパクトフラッシュ。

 小容量のバルクのCFカードを差して景品になっているが、大容量のCFカードを差すこともできた。


 そのプレーヤーのヘッドフォン端子にカセットアダプターのケーブルを差すと、普段サザンを流しているカセットテープを抜き取って、そのカセットアダプターを差し込む。

 その状態でシータがプレーヤーの再生ボタンを押すと、ZAQの『Hopeness』が流れ始めた。


 それが頃合いだ、というように、朱鷺光はドミンゴのマニュアルミッションのギアをつなぎ、発進させた。


「なにか……解ったことがあるわけ?」


 朱鷺光が県道をつくば市の方へ向かって走らせていると、シータがそう、訊いてきた。


「うーん、解ったことがあると言うか、気になることがあるというか」

「なによ、あのロボットの残骸から解ったことがあるんじゃないの?」


 朱鷺光が唸るようにしながら答えると、シータが、少し、呆れたと言うか、焦れたと言うか、そんな声を出してそう言った。


 ドミンゴは、荒川沖の駅のそばにある側とは別の国道に入る。


「例えば、あのロボットを操作している電波源とか」

「それはすぐに分かったさ。携帯電話とかの、公共の移動体通信網の電波を使ってるんだ」

「!」


 シータが促すように言うと、朱鷺光はそう答えた。

 それを聞いたシータは、少し驚いたようになって、朱鷺光を見る。


「それじゃあ……」

「独自の電波でも出してくれりゃ、淳志に総合通信局の不審電波情報でも当たってもらえばすぐわかるんだが、一般の公共の電波に紛れられたらどうしようもない」


 確認するようなシータの言葉に、朱鷺光は、溜息をつくように、そう言った。


 朱鷺光は左ウィンカを出し、常磐自動車道を桜土浦I.C.(インターチェンジ)から東京方面に入る。

 加速車線を4速で、ボルトオンターボのブースト音を立てながら加速していく。


「でもそれなら、IPとかから逆ハックできなかったの?」


 シータが、少し険しい表情をしながら訊ねた。


「それがさ、一応、雷対策はしてあったぽいけど、格闘戦の最中でしょうがなかったとは言え、オムリンが電撃浴びせちまったろ」

「ああ……」


 朱鷺光が苦笑しながら言うと、シータが顔を手で覆うような仕種をした。


「MACアドレス(その通信デバイスが製造されたときから固有でもっている個体番号)はなんとか解ったんだけど、IPアドレス(接続した時にネットワーク与えられる番号)とかの経路検索は無理だった」


 朱鷺光は苦笑したままそう言った。


「他にはなにか解ったことはないの?」

(メイン)駆動機構(アクチュエーター)はリニアサーボ方式。ただ絶対的な運動性能は大して高くない」


 シータが、何故か自分がふてくされたようになりながら言うと、朱鷺光は、そう答えた。


「運動性能は、って、最初の時はほぼ不意打ちとは言えパティア仕留めてるし、今回だって姉さんとパティア2人がかりで、やっと仕留めたようなものじゃない」


 シータは、驚愕した様子で、朱鷺光に訊き返していた。


「それなんだけどさ、一応、お前らには痛覚、ってあるじゃない?」

「そりゃ、まぁ」


 人間と同じように感覚を持つロボットを作る──朱鷺光がその為にオムリンを()設計してから、当然に存在しているものだ。

 あまりにひどいダメージを受け、動作自体に支障を来すような際には、パージすることも可能ではあるが。


「で、これって、副次的な意味として、ボディの健全性を保つって役割があるんだよ」

「うん? どういう事?」


 朱鷺光の言葉に、シータが訊き返す。


「物理的ストレス、例えば、痛いとか苦しいとか感じないと、それを排除する動作がなくなるじゃない?」

「うーんと?」


 朱鷺光が説明するが、シータはまだ良くわからないという感じで唸る。


「例えば、無理に関節をひねられたりしたら、それから逃れようとするだろう? それで、関節が破壊されることからボディを守ってるわけだ。生身の人間と同じようにな」

「あ、そういうことね」


 朱鷺光が更に言うと、シータは、ようやく理解した、というように応えた。


R.Series(お前さん達)はスタンドアロンだからな、最悪でもメインストレージだけは守らないとなんない。それがなくなったら修復不可能だからな。そのためにも、これは大きな意味があるわけだ」

「なるほどねぇ、で、それがどういう関係があるわけ?」


 朱鷺光が説明すると、シータが、そう訊き返した。


「あっちは、ボディの健全性は主演算とは直接関係ない、極論すれば使い捨てでもいい」

「! そうか、痛覚とかそういうのがいらないわけね!」


 朱鷺光が言うと、シータが、合点がいった、というように、声を上げた。


「データとしてフィードバックはしてると思うんだけどね、でないと、動いてるだけでぶっ壊しちゃうから。でも、お前さん達のように、人間と同じように痛がったり苦しがったりする必要はないわけだ」


 朱鷺光は、口元で微妙に笑いながら、そう言った。


「でも、それと運動性能とどういう関係があるわけ?」

「お前さん達は常にボディの健全性をある程度考慮して動作してる。それに対して、相手は反射でこちらの攻撃を避けはするものの、基本的に物理ストレスは無視して飛びかかってくる。つまり、一見よりダイナミックに動けるわけ」


「なるほど、それだと確かに姉さんでも苦戦するわけね」

「そういう事。そもそも演算系にかかる負荷からして違うからな」


 朱鷺光とシータがやり取りしている間にも、ドミンゴは常磐道を三郷方面へ向けて疾走していた。


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