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Chapter-35

 オムリンが、Telnetのコンソールに、文字タイプでコマンドを入力していく。


「オムリン、なにをやっているんだ!?」


 コムスターが問い質す。


「兄さん! 今の接続を経路検索してくれ」

「何」

「早く!」


 オムリンの、珍しく有無を言わせないかのような発言に、コムスターは一瞬戸惑うが、オムリンは更にそこから強く言う。


「わ、解った」

「こっちの経路は割られないように」

「任せておけ」


 オムリンがマウスを操作し、朱鷺光のパソコンの中からファイルを探り出すと、それを文字だけのコンソールから、相手のコンピュータに向かって送信した。



 翌日。


 左文字家の庭に、初代レオーネ エステートバン 4WDが入ってくる。

 その庭には、弘介のクルマである、朱鷺光が弄りまくったシビックも止まっている。


 そのレオーネから、淳志が降りると、左文字家の玄関に向かう。

 淳志が、インターフォンのボタンを押すと、呼び出し音に続いて、ガチャッ、と一度受話器を上げる音がしたものの、


『あ、淳志さんですね、今参ります』


 と、カメラ付きのインターフェンからファイの声が聞こえたかと思うと、すぐに受話器を戻す音が聞こえてきた。


 数分間、待っていると、内側から、ガチャッ、と鍵を外す音がして、玄関の扉が開いた。


「淳志さん、おはようございます」

「おはようさん」


 ファイの出迎えを受けて、淳志は左文字家の玄関に入る。


「直接、作業部屋の方に通してくれとのことでしたので」

「ああ、うん」


 淳志が、革靴を脱いで、左文字家に上がる。ファイが先導はしているものの、半ば勝手知ったる他人の家、という感じで、1階の渡り廊下に向かうためにリビングに入る──


「あでででででで、ギブギブギブギブ、ちょっ、やめっ」

「どーしてあんたはそうやっていっつも考えなしなのよ! 本物のバカ!」


 そこで、爽風が澄光に関節技をかけていた。

 誰かがゲームを対戦したりしているローソファーに、どっかりと颯華が腰を下ろしている。


「疲れたら代わるよー、爽風ちゃん」

「交代なんかしなくて、げっ、ギギギギギッ」


 颯華の言葉に、澄光は抗議の声をあげようとするが、そこで爽風が姿勢を入れ替えて関節を締め上げた。


 本来なら3人とも、学校に行っている時間の筈だ。今日は平日のはずである。


「3人とも、何やってんの?」


「ああ、淳志さん、来たんですね」


 爽風は、澄光の関節を()めたまま、平然としたような口調でそう言った。


「いや、学校は?」

「淳志さんから話を聞かれるかも知れないし、朱鷺光さんも話があるからって、今日は自主休講」


 淳志が苦笑しながら訊ねると、今度は、颯華がそう言った。


「ついでに」


 爽風はそう言って、更に締め上げる。


「このバカ弟に制裁中」

「ちょっ、あぎっ、警察官、暴行止めて、警察官っ」


「まぁまぁ、何があったのか知らないけど、とりあえず落ちついて話してみよう?」


 床を叩きながら、助けを求める澄光の言葉に、淳志がとりあえず、爽風を宥めるような声を出す。


「こいつ今回、オムリンにクラッキングかける片棒担いでたんだけど、落ち着いて本格的に制裁しても良いわけ?」


 爽風がそう言うと、


「ま、家庭内の子供のじゃれ合いに警察官が口を出すのもな」

「まぁ、そうかも知れませんねぇ」


 と、淳志はファイとそう話しながら、渡り廊下の方へと歩いていった。


「ちょっ、この、怠慢警官、やめっ、ぎぇぇぇぇぇっ」


 淳志が別棟の方に入る頃、澄光の断末魔のような声が、背後から響いてきた。


「よっ」


 淳志は自分で引き戸を開け、作業部屋の室内に入りながら、挨拶をする。


「おう、待ってたぞ」


 朱鷺光が、パソコンを操作しながら言う。

 メンテナンスデッキの方の椅子に、前後逆に腰掛けた、弘介もいた。

 朱鷺光の隣には、パティアが座っている。


「オムリンにクラッキングかけられたんだって?」

「ああ、ま、色んな方法思いつくもんだよ」


 淳志が訊ねると、朱鷺光はそう答えた。

 朱鷺光は、丁度淳志が来たところで一服、と、OAローデスクの上にあった龍角散エチケットパイプの箱をとり、1本咥えた。


「朱鷺光相手にクラッキングとか、ホント身の程を知らねーよな」

「とは言え、順番がパティアよりこっちの方、先にやられてたら、引っかかってたかもな」


 弘介が笑い飛ばすように言うが、それに対して、朱鷺光は少しだけ深刻そうに、そして呆れたようにそう言った。


「どうやってオムリンにクラッキングなんかかけたんだよ」


 淳志が、呆れたというか脱力したと言うか、そんな顔をしながら、朱鷺光にそう訊ねた。


「音だよ」

「音?」


 弘介が言うと、淳志は一旦そっちを向いて、鸚鵡返しに訊ねる。


「そう、スマホを使ってな」


 弘介はそう答えた。


「スマホなら、電波かなんか飛ばしそうなものだと思うんだが」

「スマホで使える電波帯で、オムリンになんかしたら、ログ洗われて一発だぜ」


 淳志が言うと、弘介は苦笑しながらそう言った。


「スマホのスピーカーから可聴範囲外の音波で、オムリンの音響センサーに作用させたわけよ」

「まさかこの時分に、音響カプラでもあるまいに」


 朱鷺光の言葉に、淳志はやはり、脱力したような、呆れたような顔でそう言った。


「いや、こういうときってローテクを見直すのは悪いことじゃないよ」


 朱鷺光は、禁煙パイプを上下にプラプラとさせながら、そう言った。


「それでオムリンを乗っ取る制御コードを打ち込まれたわけだが、こっちも設計がバレてるって時点でファイアーウォール、パティアも含めて強化しておいたからな」


 朱鷺光も、そう言って苦笑する。


「コード自体はオムリンのストレージに書き込まれてしまったが、それで制御を乗っ取ろうとした時点で、オムリン自身がその事に気がついたわけよ」

「選りにも依って、オムリン自身に『Library STAGE』のデータファイルを、直接向こうのサーバーに転送させようとしたんだが、それを使って逆ハックをかけたわけだ」


 朱鷺光がいい、コムスターの声がそれに続いた。


「でもさ、それならパティアを差し向ける前に、オムリンにその手を使えば、無防備な状態で乗っ取れたんじゃないのか?」


 淳志が、ふと気付いたように、そう言った。


「ここのサーバーから、実際にクラッキングをかけてデータを取り出したのは教授だ」

「え?」


 パティアが言った内容に、淳志は一瞬、理由がわからないと言ったような顔をした。


「教授が、朱鷺光とオムリンをソフトキルする手段を提供すると思うか?」

「ああ、そういうことか」


 パティアに、更に言われて、淳志は納得の声を出した。


 波田町教授は、あくまでオムリンに対してハードキルする(物理的に超える)ことを目的としていた。

 だから、そんな手段を自分から相手に提供するはずがない。


「それで、誰がどうやってそんなことをやったんだ」

「Project BAMBOOだよ」


 淳志の問いかけるような言葉に、朱鷺光はそう答えた。


「プロジェクト・バンブー?」

「あ、淳志はまだ知らなかったのか」


 淳志が小首をかしげながら言うと、朱鷺光はあれっ、というような感じで、そう言った。


「Project MELONPARKの試作A.I.を、選ばれたモニターと交流させるって内容の試験」

「そんなものがあったのか」


「それで、そのモニターってのに、澄光を選んだわけよ」

「ああ、居間のあれは、そういう訳だったのか」


 朱鷺光の言葉に、淳志はその場でリビングの方を見て、そう言った。


「それで、その澄光を、モニターに仕掛けたっていうのは何者なんだ」

「平城真帆子」


 淳志が、朱鷺光の方を向き直し、幾分真剣な顔になって言う。

 すると、朱鷺光は短く、そう答えた。


「UWDの脳科学研究室の研究員でコンピュータのエキスパートでもあり、現在取中高の情報処理課程の講師をする」

「思い切り臭うじゃないか!」


 朱鷺光が続けて説明すると、淳志はやや顔を険しくして、やや荒い声を出した。


「どうだろう」


 そう言ったのは、それまで沈黙していた、オムリンだった。

 弘介の脇、メンテナンスデッキに腰掛けるようにしている。


「おそらく、彼女を調べても何も出てこない気がする」

「俺もだ」


 オムリンの言葉に、朱鷺光も賛同の声を出した。


「まぁ、警察として取り調べたいって言うんなら、止めはしないけど……多分彼女、UWDの人間ではあっても、ストラト・フォーとは無関係なんじゃないかな」


 朱鷺光は、そう言いながら、パソコンを操作した。


「根拠は何だよ」


 淳志が訊ねる。


「私の名前の由来を知らなかった」

「え?」


 淳志が訊き返すと、オムリンがそう答えた。


 OMURIN。この名前の綴りは、アナグラムなのだ。


 並べ替えると────


「警察が追ってるのは波田町直也殺害犯の方だろう、彼女は渡航してきたのも事件より後だし、礼状も任意で引っ張るのも難しいと思うよ」


 ────MINORU、となる。

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