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Chapter-32

「あれー、オムリンが湯船浸かってる」


 爽風が気がつくと、オムリンが大浴槽に浸かっていた。


 ちなみに颯華は、超音波ジェットバスブースで泡を背中に浴びていた。

 と言うか、爽風もつい先程まではそちらにいた。


「オムリン達にとって、お風呂ってあんまり良くないんじゃないの?」

「そんなことはない。43℃前後なら適正稼働範囲内だ。防水も問題ない」


 爽風の問いかけに、オムリンはサラリと答えた。


「むしろ私達の液晶感応皮膜は、たまにこうしてじっくり流してやったほうがいいんだ」


 オムリンはそう言いながら、自分の右手で左腕の肌をすべすべ、とやった。


「それに、関節部の細かいところにオイルのカタマリができるから、これぐらいに加温して潤滑油ポンプの圧を上げるとこそげてくれるんだ」

「へぇ、お風呂に入って関節解すって、まるで本物の人間みたい」


 オムリンの答えに、爽風は、いくらか苦笑気味に、くすくすと笑ってそう言った。


「でも、うちではシャワーだけだよね?」

「いや、時々入っているぞ」


 爽風がそう言って再度、問いかけると、オムリンはそう答えた。


「あれっ、そうだったの?」

「もちろん、シータやファイ達もそうしている。だいたい、お前達が自室に引き上げた後だけど」


「知らなかった……」


 意外な事実を今更知った、というように、爽風はそう言った。


 それから、爽風自身も、寛ぐように一度手足を伸ばす。


「はぁー、やっぱりお風呂は気持ちいいねー」

「爽風ちゃん、ちょっとはしたないんじゃない」


 ジェットバスから上がってきた、颯華が、苦笑しながら、大の字になっている爽風に声をかける。


「いいじゃない、空いてるんだし」

「まぁ、流石に平日じゃねー」


 休日ともなれば日中から賑わうだろう大浴場も、今は人影もまばらだ。


「あら、どこかで見たような顔があるわね」


 大浴槽で爽風と颯華がじゃれ合っていると、そこに声をかけてくる存在があった。


「!」


 颯華の表情が、俄に険しくなる。


「え、どうしたの? 颯華ちゃん……あれ?」


 颯華の気配が変わったのに、爽風が、キョロキョロと、相手と爽風を比べるように見る。


「あ! えーと……」

「? あなた、以前どこかで会ったかしら?」


 爽風が、その顔に見覚えがあってはっとするも、名前と一致せずに首を傾げるようにする……が、相手も同じように、爽風を見てくる。

 すると、爽風は、両手の人差し指と親指を使って、両目の前に◯を作ってみせた。


「ああ、あの時の彼女ね」

「どうも、えーと……」


 相手の方は爽風の事を思い出したようだが、爽風はまだ相手の名前と顔が一致しない。


「真帆子よ、平城真帆子」


 相手は、苦笑するようにしながらそう名乗った。


「確かあなたは2年生……だったわよね、日本じゃ学年が違うと交流が薄いって言うけど、2人は同じクラブ活動でもしているのかしら?」

「いえ、颯華は私達の再従妹(はとこ)なんです」


 真帆子の言葉に、爽風は、そう言って颯華の方を見て、ギョッとする。


「颯華ちゃん、どうしたのそんなに怖い顔をして」

「あまり歓迎されてないみたいね」


 爽風が半ば唖然としながら訊ねると、その後ろ側から、真帆子がお湯に浸かりながらそう言ってきた。


「ウィクター・ドーンドリア大学……」


 颯華は、真帆子に睨むような視線を向けながら、その名前を呟いた。


「それがどうかしたの?」


 真帆子は、キョトン、として、颯華に訊き返す。


「平城先生が知っているかどうかわからないけど、朱鷺光さんのサーバクラッキングして、盗み出したデータで、R.Seriesのコピー作らせてるのよ」


「えっ!?」


 颯華の話を聞いて、今度は、真帆子の方が軽く驚いたようになってしまった。


「R.Seriesのコピーって……あれは、設計図さえあれば作れるってものじゃないわよ!?」


 真帆子は、驚愕の様子で訊き返すように言う。


「だけど現に……」

「ちょっちょっちょっ、颯華ちゃん、とりあえず落ち着いて」


 お湯から飛び出し、真帆子に食ってかかるような勢いで声を荒げかけた颯華を、爽風がなんとか宥めるように抑え、お湯の中に浸かりなおさせながら、


「この人、なんにも知らないよ」


 と、爽風は颯華に耳打ちした。


「言っていることは事実だ」


 颯華と、爽風もはっとする。

 その背後に、オムリンが近寄ってきていた。


「あなたがR-1?」

「R-1[OMURIN]だ。よろしく」


 爽風と颯華の更に前に出てきたオムリンに、真帆子が訊ねると、オムリンはそう言って、右手を差し出した。


「よろしく。結構可愛らしいのね」


 真帆子は、オムリンの差し出した右手を握り返しながら、そう言った。


「それは流石に先生が言えた義理じゃないと思う」


 颯華を抑えつけながらも、爽風はどこか呆れたようにそう言った。

 確かにオムリンの体格は決して大きくないのだが、真帆子は更に小柄だ。


「R-AIのアプリケーションはそれほど複雑なものではないし、肝心のデータベースは、今の私程度に成長させるためのディープ・ラーニングを、朱鷺光のWANワイドエリアネットワークディープダイバーを使っても5年、それがなければ10年は優にかかるだろう。それに富士通の、日本製のメインフレームが要る」


「そうよ、それをコピーできた、って人間がいるんなら、ぜひお目にかかりたいものだわ」


 オムリンの言葉に、真帆子は同調するような声を上げた。


 颯華は、まだ納得しきれていないような表情をしている。


「それに、なにか誤解があるようね、私達は何も、左文字朱鷺光博士と敵対しようって言うわけじゃないわ」


 真帆子が、苦笑しながらそう言った。


「そうなんですか?」


 爽風が問い返す。


「ええ、私達は人工知能をより完成度に高いものにする、その為に左文字博士の技術と頭脳が、私達に合流してくれることを望んでいるだけなのよ」

「なんていうか、あの兄貴を博士とか、技術と頭脳とか、言われるとくすぐったいですね」


 真帆子の言葉に、爽風は苦笑しながらそう言った、


「兄? ああそうか、あなたが左文字爽風さんだったのね。一度しか会ってないし、少し幼い頃の姿を写真で見ただけだったから、気付かなかったわ」

「え、そ、そうだったんですか?」


 真帆子の言葉に、爽風は脱力したように言う。


「それに」


 真帆子の隣で湯に浸かるオムリンが、言う。


「朱鷺光も何が何でもダメだと言っているわけじゃない」

「え? そうなの?」


 オムリン言葉に、颯華が呆気にとられてしまう。


「朱鷺光はあくまで疑似ニューラルネットワークが人工知能のイニシアチブを握ると考えているだけだ」

プログラム内蔵型(ノイマンスタイル)コンピュータの呪縛ね」


 オムリンの言葉に、真帆子が苦笑交じりに言った。


「朱鷺光の考え方は、すでにコンピュータの処理能力は人間の脳を凌駕している、だとすれば、技術的ブレイクスルーが人工知能をもたらすのではなく、現状のコンピュータのソフトウェアのひとつとして、人工知能もあるというものだ」

「なるほどね、自分の主張の譲れない線ってわけか……」


 颯華が、少し毒気を抜かれたような感じで、そう言って軽くため息をついた。


「まぁ、左文字朱鷺光博士も、この先私達の研究が進めば、いずれ理解と興味を示してくれるものと考えているわ」


 真帆子は、苦笑しながら、そう言った。


「そうだろうな」

「!?」


 爽風と颯華が、驚いたようにオムリンを見て、それから、目を合わせる。


 いつも、ニュートラルな表情をしているオムリンが、その時、少し艶やかに、微笑んだように見えた。


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