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Chapter-28

「朱鷺光……すまん!」

「いや……別に再婚するのは良いけどさぁ……」


 頭を下げる父に、朱鷺光はやりにくそうに頬を掻きながら言う。


「なんで雪子お姉さんなのさ」


 小牛田雪子。

 左文字家が馴染みにしている酒屋の娘だった。


 田舎の常で、専門の駄菓子屋と言ったものはなく、八百屋や酒屋の軒先に駄菓子や食玩の類が置かれていた。

 朱鷺光もまた、たまに顔を出す場所であった。


 未だ30半ばの光一郎は、少し困ったようにしながらも、


「実は、結婚の約束をしたのは雪子の方が先なんだ」

「ちょい待ち、雪子お姉さん今年で18だよね? それ、いくつの時の話?」


 光一郎の言葉に、朱鷺光は呆れたような声を出す。


「雪子が6歳のときの話だな……」

「もしもしポリスメン?」


 朱鷺光は、まだフィーチャーフォンの携帯電話を取り出して、電話をかける仕種をする。


「要はあれだ、光一郎お兄さんのお嫁さんになるー、みたいな感じで」

「そうそうそう」


 朱鷺光が言うと、光一郎は苦笑しながら、その通り、と言った。


「別に再婚に反対はしないけどさ、歳近すぎて、僕母親って呼ぶの無理だよ?」

「解ってる、雪子もそれはある程度承知してるから……!」


 朱鷺光は盛大に溜息をついた。


「まぁ、でも、家族が増えて賑やかな方が、僕も楽しいしね」

「すまん、理解してくれて、恩に着る」


 光一郎は、そう言って、再度、頭を下げた。


「ただ、母さんのことは……」

「忘れん! 忘れるものか、当たり前の話だろう!」


 朱鷺光はジトーっとした視線を向けながら言ったが、光一郎が飛び跳ねるように身を起こしたので、吃驚して思わず椅子から転げ落ちかけていた。

 光一郎の表情は、真剣そのものだった。


「雪子を好いてないとは言わない……だが、みのるの事は、みのるとの思い出は一生忘れない」

「それなら、あとは僕がどうこう言う問題じゃないよね」


 真剣そのものの光一郎に、逆に圧倒されるように、朱鷺光は苦笑してしまっていた。



 そうして、左文字家に新しい家族が増えて、しばらく経った日のことだった。




「雪子さん、カップバターとってくれる?」

「はい、どうぞ」

 その日の朝、朱鷺光は、昭和末期頃のデザインの、ポップアップ式トースターでパンを焼き、朝食にしようとしていた。


 まだ、このあとに行われるリフォームの前で、リビング・ダイニングにはなっているものの、ダイニング部には固定式のダイニングテーブルセットが置かれていた。


『では、次の話題です』


 朝のニュースワイドショーが、速報的なニュースから、世界の話題的なコーナーに移る。


『こちら、東京ビッグサイトで開催中のニュージェネレーション・デバイス・エキスポに来ています。今回の目玉は、なんと言ってもこれ、ジェネラルハウジング・エレクトリック社開発の汎用ロボット、Cinnamon君です』


 朱鷺光が、食パンにバターを塗る手が、一瞬、止まった。


『Cinnamon君は高度な人工知能を搭載しており、これまでのコンピューター制御のロボットと異なり、柔軟で様々な作業をこなすことが出来ます。博士、お願いします』

『O.K.』


 博士、と呼ばれた、金髪碧眼の青年が、答える。


『C’mon Cinnamon』


 博士、テレビ画面の外で、そう呼ぶと、車輪を履いた下肢に人間型の上半身を持ったロボットが、くるりと博士の方を向いて、


『What are your requirements?』


 と、電子合成音だが、流暢な言葉で訊ねた。


『こちら、開発に携わったウィクター・ドーンドリア大学のアームストロング・アデウス博士です。博士、よろしくお願いします』

『Hello, nice to meet you. よろしくお願いします』


 画面の中のアデウス博士は、まずはネィティブな英語で挨拶をし、それからイングリッシュスピーカー訛りのある日本語でそう言った。


『人の命令を柔軟にこなすロボット……それが今回、量産前提で発表されたわけですが、なぜ、そこまでのことができたのですか?』

『それは、今から2年前、日本で開発されたあるコンピューターが原型になっているのだよ』


「朱鷺光ちゃん? どうしたの?」


 動きを止めてしまった朱鷺光に、雪子が何事かと声をかける。


『MAaMモデル……ご存知ですかな?』

『いえ、すみません、詳しくは……』


 アデウス博士の言葉に、テレビリポーターは戸惑ったような声を出す。


『MAaMモデルは、日本のMetropolitan Science and Technology Universeが開発していたコンピューターのモデルで、人間の頭脳を再現した、従来の概念を覆すものだったのだよ』


 アデウス博士はそう説明する。


「朱鷺光ちゃん?」


 朱鷺光は、席を立って、渡り廊下の方へと小走りに走っていく。


「朱鷺光ちゃん、学校はー!?」

「ごめん、今日、休むー!!」


『残念ながら、研究中の不幸な事故で、この研究のリーダーだった日本のエンジニア、Dr.ミノル・サモンジは帰らぬ人となったが……その研究の成果が、今こうして、実を結び始めたということだ』


 テレビの中のアデウス博士は、みのるのことについて触れた際、嘆くように顔を手で覆ったが、そこから立ち直るようにして、力強く言った。


 朱鷺光は、メインフレームの置かれた作業部屋へ飛び込むと、作業用のPCを立ち上げる。


 ──どこだ、どこを探せばいい?


 朱鷺光は、マウスとキーボードを交互に操作しながら、ネットワークを漁っていく。


 ──そうか、死亡診断書!


 朱鷺光は、そこに目をつけると、Webページから、Telnetでサーバーに干渉し、市役所のオンラインシステムを参照する権限を得た。


 ──2年前……左文字みのる……あった!


 それは、市役所の死亡届に添付された、死亡診断書のデータの移しだった。


「…………焼死じゃ、ない……」


 そこに書かれいてた死因は。


『急性ショック性多臓器不全』


 母さんは、焼け死んだんじゃないんだ! あの事故は、母さんのシステムが起こしたものじゃなかったんだ!


 朱鷺光は、まだ幼いと言っていい目に、その事実を、焼き付けていた。


 そして……


「クク…………」


 小学生とは思えない、狂ったような笑みが、その表情に浮かぶ


「アハハハ……ハハハハ……」


 日本で研究、開発されていたMAaM。

 MAaMを最初に提唱した母。

 そして。


 殺された母。

 仕組まれた事故。

 マスコミに流れたMAaMを否定する記事の数々。

 そして……にもかかわらず、アメリカで研究が続いていたMAaM。


 ──母さん、母さんは、アメリカ……いや、人工知能の技術を独占しようとした何者かに────


 殺され、たんですか?


 それが、事実だとすれば、俺がやることは、ただ1つ。


「復讐……してやる……」


 ──そっちが、ロボットで来るなら、こちらも、ロボットで。


 朱鷺光は、それを確実に、実行に移し始めた。


 ただ、復讐のために、己のプロジェクトを立ち上げたのだ。


 姿は、多少の設計の無理を承知で、母の若い頃の姿を使った。

 偽善者達、復讐すべき独善者達に、自分達が何者であるのかを知らせるために。


 プロジェクトコードも、最初にすんなりと決まった。

 復讐者(Revenger)、それがプロジェクトの名前となった。


 そして、朱鷺光の成果物である“R-1”は、着実に、完成へと近づいていった。


 昼間、素知らぬ顔をして学校に通いながら。

 それが終われば、復讐のための刃を、研いだのだった。


 ただ、非業の死を遂げたであろう、母を、母を貶めた全ての対象に、復讐するための道具(ツール)を、着実に、完成させつつあった。



 Run up Revenger-System No.0 W-A-N Deep Diver Ver2.0

 Running R-AI Application R-0[COMMASTER] Ver3.0


『朱鷺光。今からお前に、伝えなければならないことがある』


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