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Chapter-12

「それにしても……」


 爽風が言う。


「ここも左文字家(うち)の城下町って言って良いんだし、どうせ使うんなら、KED製(うち)のロボット使ってくれればいいのにね」


 自分達を案内してくれた個体を含めて、店内を動き回るフラットヘッドシリーズを見て、爽風が、そう言った。


「まぁ、KED製(うち)の主力商品は、ウェイターロボットより、鉄道客のポーターロボットや、駅とかの一般施設での障害者介助ロボットだからな」


 朱鷺光が、そう言った。

 実際、グループの中核企業が、鉄道会社ということもあって、必然的にそうなるのだが、それだけではない。

 そのジャンルは、JR東日本という、超巨大な安定顧客が、存在するのだ。


「それに、神鳥谷精密も、一応うちとは資本関係、あるし」


 安定的上位株主ではなかったが、左文字JEXホールディングスも、神鳥谷精密工業株式会社の株式を、数%保有していた。元々、神鳥谷精密工業も、茨城(じもと)の企業なのだ。


「しっかしあれだな……出始めた頃は、スカイネットの再現だの何だのと言われてたけど、今やすっかり、普及しちまったな」


 弘介が、呟くようにそう言った。


「マスコミは、変に煽り過ぎなんだよ。MAaMモデルで、そんな高度なA.I.、簡単に再現できるもんか」


 朱鷺光が、苦笑しながら、そう言った。


 そう、現在普及している、こうした自律型ロボットは、MAaMをモデルにした、人工ニューラルネットワークコンピューターを使用している。

 KEDの製品も、例外ではなかった。


 だが、朱鷺光に言わせると、


「圧倒的に遅い! 処理能力不足!」


 と、なってしまう。


 事実、MAaMモデルで、知性と人格と呼べるものまでを再現したロボットは、まだいない。


 もっとも、従来型の、データベース型疑似ニューラルネットワークによる人工知能である、朱鷺光のR.Seriesのそれが、知性と人格を持っているのかということに対しては、朱鷺光自身は、間違いなくそう作った、と断言しているものの、世界的にも、異議も多いのだが。


「さて、俺は注文、決めてあるけど、お前らは?」


 朱鷺光は、弘介や爽風を見て、そう訊ねるように言った。


「あ、私も決まってる」

「俺も大丈夫だぞ」


 爽風と弘介が答えた。

 オムリンは、もちろん食物は、必要としない。


「よし、じゃあ、呼ぶぞ」


 朱鷺光が、注文用呼び出しボタンを押す。

 しばらくすると、ロボットではなく、人間の店員が、注文を聞きに来た。


「お待たせしました、ご注文がお決まりでしたら、お伺いいたします」

「チーズロースカツ定食2つと、ヒレカツ定食の大をひとつ、お願いします」


 朱鷺光が、オーダー端末を片手に対応してくる店員に、そう言った。


「了解しました、ご飯とお味噌汁は、いかが致しますか?」

「えーと……」


 訊き返されて、朱鷺光は、弘介と爽風に視線を向ける。


「3つとも白米のご飯に、豚汁で」


 爽風が、ぱっと反応したように、そう言った。


「かしこまりました。ご注文は以上でしょうか?」



「あー、食った、食った、と」

「満腹になったし、これで明日からのスタミナもついたな」


 食後、会計を済ませて店内から出ると、朱鷺光は腹を押さえながら言い、弘介が、それに続いた。


「さて、と……」


 朱鷺光は、出発するときと同じように、コルトの運転席に乗り込むと、助手席のロックを外す。

 そして、やはり同じように、オムリン、弘介の順で、コルトに乗り込む。


 すると、そこへ、ライダースーツに身を包んだ、爽風が、すでにエンジンのかかったRG250Γにまたがって、運転席に近寄ってくる。

 朱鷺光は、手動の回転ハンドルで、窓を開けた。

 爽風も、ヘルメットのシールドを上げる。


「私、ちょっとアイスクリームかなんか欲しいから、コンビニ寄るね」

「おう」


 爽風の言葉に、朱鷺光が返事をする。


「あ、俺もちょっと甘いもの欲しいかな」

「了解。じゃ、こっちもコンビニな」


 弘介の言葉に、朱鷺光がそう、反応した。


 爽風のRG250Γが先行して、朱鷺光のコルトが後から駐車場を出る。

 爽風は、そのまま大通りへと出たが、朱鷺光は、一旦裏道を走った。


 すると、コルトの目の前に、真っ黒なシボレー アストロが、割り込むように、入ってきた。


「なんだ、邪魔くせぇなぁ」


 助手席の弘介が、そう言った。


 次の瞬間、シボレーのミニバンは、急ブレーキをかけて、停車した。

 当然、朱鷺光も、急ブレーキを踏む。


「ぐえっ」


 シートベルトに、食べたばかりの腹部を圧迫されて、弘介が、くぐもった声を上げた。


「なんだよ、こいつら……喧嘩売ってんのか?」


 悪質運転者、そのつもりで、弘介は言ったのだが。


「どうやら、そうみたいだな」


 朱鷺光は、深刻そうな表情で、そう言った。


「え?」


 弘介が、キョトン、としている間に、朱鷺光はシートベルトを外し、車外に出た。


 すると、朱鷺光のコルトの、後ろ側にも、真っ黒なシボレー アストロが、停まっていた。

 周囲は、日が落ちて、裏道ということもあり、人気はなかった。

そこで、2台の黒塗りのアメリカミニバンに、朱鷺光達は挟まれた形だ。


 弘介も、そしてオムリンも、コルトから降りる。


「Dr.左文字、大人しくついてくるネ、身のためヨ」


 後ろのアストロから降りてきた、チャイニーズ風のアジア人が、いかにもなアジア訛りの日本語で、そう言うが、


「中共とも別に仲良かないが、罪をなすりつけようとか、ちょっとセコいんじゃないかな、カンパニー(CIA)さんよ」


 と、朱鷺光は、目元で険しくしつつも、呆れたように、そう言った。


「我々についてくる、怪我しない、それだけヨ」

「お断りだな」


 チャイニーズ風の男の言葉に、朱鷺光は、低い声で、しかしはっきりと聞こえるように、そう言った。


「ならば仕方ナイ、ちょっと痛い目、見てもらうネ」


 チャイニーズ風の男がそう言うと、アストロのリアゲートが開き、そこから、見覚えのあるゴリラのような二足歩行のロボットが、姿を表した。


 ──DR28号! やっぱり、繋がってやがったか……


 朱鷺光は、そう思いつつも、


「オムリン、ちょっと相手してやれよ。但し往来だ、速攻でやっちまえ」


 と、オムリンをけしかけた。


 2台のシボレー アストロから、それぞれ1体ずつ、DR28号……に、少し改良を加えているようなロボットが、それぞれ1体ずつ、合計2体、現れた。


 後ろのアストロから降りてきたDR28号改が、朱鷺光めがけて、突進してくる。

 オムリンは、コルトの屋根に手をついて、跳躍する形で、朱鷺光と、DR28号改の間に、割って入った。

 突進してきたDR28号改の、突進してくる巨体を、クロスさせた腕を顔の前面に出して、受け止め、押し止める。

 DR28号改は、そのまま、オムリンにパイルバンカーを向けようとしたが、それより速く、オムリンは、そのDR28号改の頭を押さえるようにして飛び上がり、両膝で、頭部に打撃を入れた。

 そのまま、DR28号改が次のアクションを起こすより速く、すでに手に持っていたスタン(電磁)スティック(警棒)を、DR28号改の、頸部の隙間にねじ込み、トリガーを押し込む。


「オムリン!」


 1体の動きを止めたオムリンに、もう1体のDR28号改が、左肩部のアレスティングフックつきワイヤーを、射出してくる。

 それは、オムリンの左脚を絡め取った。

 が、オムリンは、それとほぼ同時に、両足で、動きを止めた方のDR28号改を蹴飛ばし、もう1体の方へ向かって、跳躍する。

 瞬時に懐に飛び込み、その右肩関節部に、スタンスティックを押し込むと、トリガーを押し込んだ。


 DR28号改は、2体とも、ブスブスと煙を吹きながら、その場に擱座した。


「ちぃぃっ、このまま、済むと思わないアルヨ!」


 典型的な負け惜しみのセリフを吐いて、チャイニーズの男は、アストロの助手席に逃げ込んだ。アストロはそのまま、半ば強引にバックをかけて、向きを変え、走り去ろうとする。


「忘れもんだよ、お前らで片しておきな!」


 朱鷺光が言うと、オムリンは、DR28号改の残骸を一体、持ち上げて、逃走しようとしたアストロに、投げつけた。


 ドゴン!


 アストロは、後ろからDR28号改の残骸をぶつけられて。変形しながら、転がった。


「さて、と」


 朱鷺光は、コルトの前の方を塞いだ、アストロに乗っていた、黒いサングラスをかけた、ややいかついが明らかにモンゴロイドの男に、向き直った。


「あんたらもああなりたい?」


 朱鷺光が問いかけるように言うと、男は両手を上げるようにしつつ、ぶんぶんと首を横に降った。


「じゃ、とりあえず身分証くらいは、見せてもらおっか」


 と、朱鷺光は、手のひらを差し出して、そう言った。


 男は拳銃を手にしていたが、オムリンが威嚇のポーズをとっていたこともあって、すでに戦意喪失状態だった。


「…………、!」


 男が、素直に差し出した身分証を見て、朱鷺光は、一瞬表情を険しくした。


「なるほどねぇ……カンパニーにしちゃやり方が、ちょっと強引なわけだ」


 朱鷺光はニヤリとしながら、そう言いつつ、その身分証を、自分のズボンのポケットにしまった。


「ま、どうでもいいや。命までとってもしょうがないから、ここまでにしとくけど、後片付けは、しっかり、自分でやってくれよ」


 朱鷺光がそう言うと、後部座席に移っていた弘介に代わり、オムリンが助手席に、朱鷺光が運転席にのって、コルトを発車させる。

 呆然とする男を取り残すようにしたまま、朱鷺光はアストロを追い抜くようにして、そのまま、大通りへと出る道を、走っていってしまった。


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