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はじまり
「ママ...」
慰霊碑に刻まれた名前をなぞり、少女は呟いた。
街の中央に設けられた《安らぎの園》には、五年前に行われた魔族による大規模な侵略作戦時の死者を祀る慰霊碑が数多く並んでいる。
中央に存在する小さな慰霊碑を囲うよう、板状の慰霊碑が円状に広がっており、城下町出身の約一万二千名の名前が刻まれていた。
少女は、中央の慰霊碑の前で花を抱えながら座り込み、言葉を続ける。
「私ね、クイルと一緒にパパを探しに行こうと思うの。しばらくこの街には戻れないと思うけど、心配しないで」
返事はない。
だが、まるでその言葉に母親が動揺したように、あたりの花々が風に吹かれ、ざわつきを見せる。
「大丈夫だよ。二人ともこの街の誰よりもよりも強くなったよ。ママとパパの子供だからね」
少女は恥ずかしそうに「へへっ」と軽く笑う。
そして、しばらくの沈黙の後、一呼吸おき立ち上がると、パンパンと軽くスカートのシワを叩いた。
「それじゃ、行ってきます」
そう言い残すと、後ろへ振り返り西門の方へと駆け出した。