ゴブリンというか、鬼だろこんなの
オレと優花はよく遊ぶ。幼稚園だけじゃなくて、退園後もマンションの公園とか、お互いの家とかでよく遊ぶ。なにしろ同じクラスで同じマンションだ。そりゃ仲良くなるよ。
ゴブリン。そう、「ゴブリン」と表示された小男に出会ったのは、優花と公園で遊んでいた、ある秋の日のことだ。
「ゆうやくん! 今度はこっちで山つくろ!」
その日はいつも通り、優花と公園の砂場で遊んでいた。
ふと、マンションの入り口を見ると、そいつがいたんだ。
くたびれた紺色のジャケットに身を包んで、手には大きな鞄を持った、いかにもセールスマンと言った風貌だ。
遠目に見て、ピンときた。こいつは何か良くない奴だって。
相手も何か感じるものがあったんだろう。マンションの入り口から出て行こうとし、オレたちのいる公園を一瞥した後、何かに驚いたように一瞬立ち止まった。
そして、二度見をしてからこっちへゆっくりと歩いてきたんだ。
オレが『魔王様』や優花、そして今、こっちへ歩いてくるそいつに何かを感じたように、相手もオレたちに何かを感じるのかもしれない。
ソイツはにこやかに、ゆっくりと向かってきた。
オレの鑑定スキルには距離に限界があるのか、まだ鑑定はできない。
顔の形がはっきりわかる位の距離、ちょうど公園の入り口についた辺りで“鑑定”が出来るようになった。その頃には優花も、こちらへ歩いてくる人影に気付いたようで、オレたちは2人揃ってソイツを眺める形になった。
> 鬼籠権蔵 男 38歳
> ゴブリン Lv 3
ハイきた。転生者確定だ……ゴブリンとは一体?
「やあ、お嬢ちゃん、お坊ちゃん」
ゴブリン扱いされたソイツは、にこやかにこちらに話しかけてきた。外面だけ見ればとても親しみやすい風貌だ。
オレも、鑑定結果が『ゴブリン』じゃなければ安心していたかもしれない。『ゴブリン』って、アレだろ? なんか鬼とか小鬼とか……そんな類だろ?
「こんにちは!」
オレは見知らぬ大人に会った、とても良い子の5歳児として完璧な受け応えをした。
ペコリと頭を下げる。腰からいく、最敬礼ってヤツだ。
同時に起動した“鑑定”結果を確認し、念のため腰を下げて良かったと心から思った。
あまりに激ヤバな背景情報に、思わず顔が引き攣ったからだ。
> 名前: 鬼籠権蔵
> 二つ名: 帰ってきた『児喰い鬼籠』
> 紹介: 首都圏を恐怖に陥れた連続児童誘拐殺人犯が帰ってきた! そのあまりの残虐性から報道規制をかけられた唯一の連続殺人犯は、よりによってこの世界へと転生した。新しい人生を謳歌し、準備も整った。今度は下手をうつまい。さぁ、そろそろ遊ぼうか。今、彼による2度目の殺戮ショーが幕を開ける!
> 前世: 連続児童暴行殺人犯。その行き過ぎた被害認知の強さから、何よりも幸せな子供が許せない。今世では、まだ犯行に及んでいないが、そろそろ……
どうやら、『魔王様』以外にもヤバい人物達が転生してきているらしい。オレの”鑑定”スキルは、視界の左上に新しいポップアップが光り輝く。
> クエスト発生「ゴブリンの洞窟」
クソっ。なんだこれ?
> 第一目標: 『ゴブリン』の撃破
> 第二目標: 生き残れ
撃破って、ここは日本だぞ!? そもそも5歳児になんとか出来る話じゃねえだろ!!
オレは思わず心の中で叫びをあげる。
「あれ? ゆうやくん。ゆうか、変なの見える」
隣で優花が声をあげる。なるほど、優花にも同じヤツが見えているのか?
と、『ゴブリン』が、オレたちの背に合わせるように、腰を落として顔を近づけてくる。
とても柔和な笑顔は、オレの横で消えた。
「オマエ……『勇者』に『賢者』か」
ドスの聞いた声が耳元で囁かれる。
あまりの恐怖に足が震え出した。大人と子供だ。『ゴブリン』氏が本気になったらオレたちは秒で死ぬだろう。
「……なんだ? わからないのか? 演技か?」
返事をためらっていると、『ゴブリン』は少々困惑したような声を出す。
「オレたちだけ、『勇者パーティー』がわかるのか? クソ。よくわからんな……」
こちらの無言を勝手に勘違いしたのか、独り言が加速する。
と、おじぎの姿勢で固まるオレの横から、優花のしゃくりあげる声が聞こえ始めた。
どうやら、身に感じる恐怖のあまり泣き出したらしい。
これを『ゴブリン』はこっちに都合よく解釈してくれたようだ。
「おっと、お嬢ちゃん……おじさん、怖がらせちゃったかな?」
途端に元の親しみやすい笑顔に戻ってこちらを宥めにかかる。
「おじさん、ちょっと勘違いしちゃったみたいなんだ! 怖がらせるつもりじゃないんだよ。泣かないでおくれよ」
外から見ると、泣いている子供をあやす、気のいい中年男性に見えるだろう。
「一つだけ! ごめんね。一つだけ、おじさんからお願いがあるんだ……おじさん、これからやる事があるんだ。だから……もし、他の場所でおじさんを見ても……うん。知らないふりをしておくれ!」
それだけをオレたちに告げる。
そして、去り際にこう言い残した。
「ほんと、知らないフリをしておくれ。もし、パパやママにおじさんの事を話したら……おじさん、キミたちを連れてっちゃうぞ!」
『ゴブリン』氏は、それだけ告げると、「いや、子供を泣かせてしまった。まいったまいった」と言わんばかりの狼狽えた笑顔をアピールしながら、オレたちの前から去って行ったのだった。
――
アレから優花はしばらく泣いていた。
何もわからなくても、異様な恐怖だけはよく分かったのだろう。
「ゆうやくんもパパママには言わないで!」
そう、オレにせがんできた。
よほど怖かったのだろう。
『ゴブリン』氏がこの後何をする気なのかもわからない。
この後、何が起きるかもわからない。
あの、残虐な背景情報はあくまでも彼の前世のものだ。今の世界で何をする気なのか、全くわからない。
ただ、今わかっているのは、『ゴブリン』氏とオレたち、『勇者』『賢者』はお互いに認識してしまったという事だけだ。
クソっ……せめて、相手のスキルだけでも”鑑定”しておくんだった。
オレは自分の手際の悪さに後悔を覚えるのだった。
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……面白いですかね? この作品。 自信がちょっとなくなってきまして。。。




