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トラックにひかれて、神様にあって、転生した先は日本でした

 トラックに轢かれて死んだ。


 よくある小説の出だしでも、自分の身に降りかかると笑えない。都内で普通のサラリーマン生活を送っていたオレは、まさかのテンプレじみた事故にあって死んだのだ。彼女は数年いないが、数少ない友人と両親は悲しんでくれるだろう。

 

 だがどう考えても理不尽だ。自宅マンションを出たらエントランスに無人のトラックが突っ込んでくる?


 こんなのあんまりだろ。

 


 ふと気づくと、オレはよくわからない空間にいた。暗黒でも光明でもない、強いて言うならどこまでも透明な空間だ。


 で、オレが目の前にいた。裸だ。


 

「とりあえずは、謝罪させてくれ。すまない」


 

 いきなり謝られた。だが謝意は感じない。


 混乱と怒りに任せた返事をとりあえずはしようと思ったのだが、どういうわけか言葉が発せない。


 

 ……というか、今、オレ体あるのか? 目の前のコイツをオレはなにで見てるんだ? そもそも見てるのか? 正直、目で見ていると言うより感じてると言った方が表現が正しい気がするのだが……気持ち悪っ!


 朝っぱらから迫り来るトラックへの恐怖、無人の運転席への混乱、そして衝突の痛み。気づいたら謎空間と謎感覚だ、どうなってんだこれ!



 激しく混乱し始めたオレだったが、どういうわけかすぐに落ち着いてきた。


 意識すると目の前のオレが何かしている。何されたんだ、オレは?


「落ち着いたところで単刀直入に言おう。オレは神さまみたいなもんだ。正確には全然違うがこの際どうでもいい。

 そしておまえは選ばれた。理由はない。

 おまえはこれから、人類を救うために転生する。転生して魔王を倒さなきゃならない。魔王が倒されないと人類が滅亡する。

 ここまでいいか?」



 全く良くない。情報量が多すぎる。


 こっちは普通のサラリーマンだぞ? 「昨日の飲みの領収書処理しなきゃ」くらいしか、今朝まで考えてなかったんだぞ?


 

「気持ちはわかる。オレも逆の立場だったら怒る……いや、訳わかんねえか。

 あいにくだがマジで時間がねえんだ。オレの主観時間で後3分くらいしかねえ。だから説明続けるけど、おまえはこれから転生する。"鑑定" ……あー、ステータス見られるチートスキル付きでだ。

 ほら、最近流行ってるだろ?」


 

 なんつーか、ラノベで良くある設定そのものだ。もう少し情緒はあった気がするけど。


 

「だろ? 流れは大体分かるだろ?

 ステータス見て、伸ばして、魔王を倒す。

 それで人類はハッピーだ。お前が負ければおしまいだ。

 時間がねえ。追加の情報は何とかお前が見つけられるように手配はして見てる。

 悪いとは思ってる。時間がねえ。なんとか魔王を倒してくれ、あと…」


 

 いきなりコンセントを抜いたみたいに視界が暗黒にそまった。


 おい、何がなんだかわかんねーぞ?


 いや、わかるけど理解はできねーぞ!? オレの体感では、朝起きて家の前で死んでから5分。つまり起きてからまだ15分くらいだぞ!?

 

 魔王ってなんだ!?

 鑑定ってなんだ!?

 転生ってなんだ!?


 異世界か? オレは異世界転生デビューするのか!?


 


 混乱しているオレを尻目にいきなり世界が明るくなり……



 

「おぎゃー」


 オレは産まれた。


 

「ハイハイハイ。元気な赤ちゃんですねー」


 

 ……日本語が聞こえる気がするんだが、自動翻訳ってやつか??



――



 半年が過ぎた。


 未だに視界は定まらず、耳の調子もおかしく、身体も自由に動かない。腹が減ったら泣き、排泄したら泣き、特に理由がなくても泣くしかないが、時間だけはあるので整理は出来た。


 生まれた時の言葉からもしかしてとは思ったけど、ここ、日本だわ。西暦何年くらいかは全然わからないが。


 両親の仲は良さそうだ。死ぬ前のオレと同年代だな。精神年齢がおっさんのオレとしては、同年代の女の子のおっぱいを吸うのもどうかとは思う。だが、赤ん坊の身体だとそんなこと考える余裕もない。


 腹は減るのに、たしかに母乳くらいしか消化できる自信はない。最近、やっと離乳食にありつけたが、まさかオレがごっくん出来ないとは思わなかった。


 まだ、ハイハイすら出来ないオレではあるが、両親の会話からある程度の事はわかった。


 ここはおそらく並行世界の日本だ。未来というには目にうつる家電やファッション、その他諸々がちょっと古い。


 しかし、テレビのニュースでやってる内容に心当たりがなさすぎる。政治家も芸能人も知らないやつばっかりだ。




 チートスキルとやらで貰った "鑑定" はすげえ。思わずビビったし、にやけた。



 まずはオレの両親を紹介しよう。


> 相川達彦 男 31歳

> 市民 Lv 7


> 相川涼子 女 28歳

> 市民 Lv 6


 いい感じの仲良し夫婦でオレから見てもうらやま……いや、微笑ましい。


 詳細なステータスは見ようと思えば見られるが、どうもオレが見たい内容によって形式がバラけるみたいだ。


 例えば、親父……達彦父さんのステータスを、普通にみると


> 相川達彦 Lv.7

> HP: 35, MP:11, STR: 7, VIT: 4, AGI: 6, INT: 11, DEX: 3, WIL: 10


 となる。


 どうも不器用そうなステ振りだ。DEXの値が低すぎる。弓職は無理だな。

 

 これを、例えばスポーツ。野球ゲームのステータスとして見たら、どうだろう。


 そうと思って “鑑定” を発動してみる。


> 相川達彦 31歳 右投右打

> パワー:33, 走力: 28, 守備: 17, 肩: 22, スタミナ: 18, ミート: Lv1


 こんな感じになる。ゲームっぺえ。

 

 ステータスの見方を変えるだけで個人情報はダダ漏れだ。資産状況から健康診断数字まで丸わかりになる。両親の恋愛遍歴も見られたが……これはまぁ、みるもんじゃねえな。


 ステータスがこうやって見られる以上、俄然きになるのは「魔王」とやらだ。これがいかにもなファンタジーだったらまだわかるんだが、ここはどうみてもちょっと前の日本だ。魔王なんている気がしねえ。


 だが、 "鑑定" スキルは十全に動作し、「魔王を倒さないと人類が滅亡する」なるお告げはもらっている。何がなんだかさっぱりわからないが、「魔王」はいる前提で臨んだ方が良いのだろう。


 オレが倒す必要があるのかとも思うが、ほっといてまずい状態に追い込まれるのも良くはない。そんなわけで、今日も身体を鍛えるべく、オレは寝返りをうつのだった。



――



 3歳になった。


 なんというか、幸せな家庭の愛は偉大で、オレは安心感に包まれながら育った。


 身体に思考が引っ張られているのかそれとも親の愛情が偉大なのか、ろくに演技なんかしなくてもオレは幼児として振舞えている。


 それが良いことかはわからんが……



 聞き分けが良い子であるオレには弟ができた。オレ自身も歩き回れるようになり、新聞も読めるようになった。なるほど。今は2005年。なんというか懐かしい。


 そんなわけで今日もオレは歩き回っている。そう、すぐに疲れるのだ、この身体は。


 運動しては眠り、食べ、眠って運動する。まるで原始人みたいなライフサイクルだが仕方ない。


 新聞は読んでも、知らない人物ばかりだしな。そのくせちょくちょく知ってる企業が出てきたり、国や町の名前は同じだったりするのが気になるが。




 ところで、オレはもうすぐ幼稚園にはいることになる。体感年齢で三十路を超えたオレがおゆうぎをやると思うとなんだか微妙な気分になるが、まぁ、仕方がない。


「ゆうやももうすぐ幼稚園か。いっぱい友達作るんだぞ!」

「うん!ぼく、お友達つくるー」


 父親へ元気に返事する。なんていい子供なんだ、オレは。


 こんなありふれた、ある日曜日の夕方。どこにでもある平和な若い夫婦と子供の会話。ここに水をさすような不快な出来事なんてあるのか? いや、ない。


 もし、あるとすれば……そう。それはテレビから流れるこんな声


「さて。次のニュースです。世界的な大富豪であった故ジェームズ・アースランナー氏の遺産をめぐる裁判で、遺産の全額はひ孫のルーク君が相続することが確定しました」


 ふと画面を見てオレは直感した。

 マジかよ。こいつ、魔王じゃん。

ここまで読んでくださりありがとうございました。


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