幸せへの大いなる第一歩
僕は思い切って行動に出た。西さんをデートに誘ったのだ。デートと言っても、同期の友人と西さんと後輩の女の子。つまり、大学生によくある先輩と後輩が遊びに行くそれだ。そのデートの日は夏の夜のごとく早々と過ぎ、特に西さんとこれといった話もできずに終わってしまった。僕はどうも臆病者だ。
しかし、臆病者の僕にも神はときに微笑んでくれる。夏の大定番、花火大会だ。僕は女性と花火大会に行ったことなどなかった。一種の幻想であるとさえ、感じていたが、それは突然にやってきた。偶然にもサークルの活動の後、近所で花火大会が行われるということで、皆で行こうという話が出たのだが、皆予定が合わず、行けるのは僕の同期の男と西さんだけだった。2人で行かせるわけにはいかないと思った僕はバイトを休み、花火大会に参戦した。僕は僕の出来る限りの全ての優しさと気遣いを西さんに捧げた。りんご飴を買い、焼きそばを買い、じゃがバターを買った。ビニールシートが無ければ、僕の持っていたタオルを差し出した。とにかく、アピールに夢中だった。
花火が始まった時、僕は花火なんて観ている余裕はなかった。西さんに夢中だった。
西さんは、
「花火は金色が好き。上品で力がある。」
と言っていた。
僕と同じだった。僕はそれだけで嬉しかった。そう言った彼女の澄んだ横顔を見つめているだけで、この世界から切り離された気分になった。僕と彼女だけの世界だった。音も時間もない、ただ金色の花火の光に映し出された世界だった。この瞬間を僕は未だに鮮明に覚えている。その世界は美しかった。
そんな花火大会の後に、僕はさらなる行動に出た。彼女を2人きりのデートに誘ったのだ。彼女は映画が好きで、僕も映画が好きだったので映画館に映画を観に行き、その後食事をした。この映画を観に行くデートを僕たちはこの後付き合うまでに5回繰り返す。幸せだった。陳腐な表現だが、僕の幸せの一つはまさにそこにあった。映画のチケットを予約し僕が買い、西さんにはポップコーンセットを買ってもらう。これが僕たちの映画館でのルーチンだった。最初のデートはポップコーンセットを二つ。二回目も同じ。三回目からはポップコーンペアセットを。五回目にはポップコーンセットを二つ。期間限定の味があったからだ。
三回目からはポップコーンが一つになっていた。彼女の手に触れてしまうこともあった。その度に僕たちは目を合わせて微笑みあった。その瞬間も堪らなく幸せだった。彼女の笑顔はアカデミー賞女優のそれよりも輝いていてリアルだった。
五回目のデートで違う味のポップコーンを買った僕たちは映画が始まるまでの間に味見をした。僕はいつも通り塩味バターなし。彼女はキャラメルが好きだが、今回はキャラメルとバーベキューのハーフ&ハーフ。味見をしたい僕だが、ポップコーンと荷物で両手が塞がっていた。そんな僕に西さんはその手でポップコーンを食べさせてくれた。僕は普段通りポップコーンを食べ、「これイケるね。」と言ったが、内心幸福と興奮で感情が洪水していた。その後の映画の内容は全く入ってこなかった。僕はただその瞬間のことを思い出し幸福になりながら、あることを考えていた。そう、告白についてだ。