一章 6話
男性は徐にこちらに顔を向けた。
「この少年は?」
イメージに添った、渋い声は俺の第一印象を決定づけるのに十分だった。勿論怖い人だ。
「あらパパ、おかえりなさい! この子はね、ミヤマリン君って言うの」
「いや、リンです」
本当にミヤマリンで定着させられたらと思うと溜まったもんじゃない。なまじ呼びやすいだけにそこら辺は厳重に注意しておかねば。
「あ、そうそうリン君っていうの! 今ご飯に誘ったところよ! ほらほら早くパパも席について!」
「あ、うむ」
ニコニコとパパさんを急かす——
「パパではない、グリアスだ」
うお、なんだこの人俺の頭の中でも読んだのか!?
ま、まぁいいや、パパさんが、
「グリアスだ」
「なぁにパパどうしたの?」
「いや、なんでもない。気にするな」
……グリアスさんは——
「…………」
この人間違いなく分かってる! 俺がパ
「グリアスと、呼んでくれ」
……グリアスさんはアイーシャさんに急かされるままに席についた。
「よし! それじゃあ食べましょうか!」
ーーーーーーーー
賑やかな食事をどことなく第三者の視点で終えた俺は、食事後の片付けを手伝う為に席を立った。
「あら、リン君いいのよそのままで」
「いや、このぐらいやらせてください」
「ダメダメ! こういうことはお母さんの仕事なの! だからお母さんにやらせなさい!」
プンプンと頬を膨らませて怒るアイーシャさんにこれ以上物を言うことは出来なかった。
……グリアスさん、あなたの奥さん可愛すぎかよっ!
「……分かりました、じゃあお願いします」
「まっかせなさい!」
ドンと胸を叩くアイーシャさん。と、その時背後から声がかかる。
「リン、そろそろ教会に行くわよ!」
「え、教会?」
聞き間違いかと思い聞き返す。
「そうよ、《ステ玉》は教会にあるの。本来ならみんな5歳になる頃には一度は触れることになってるからね、触れやすい場所に置いてあるの」
「ああ、そういうこと」
「ん、そういうことよ。ほら、早く行きましょう」
「分かった」
言いながらアーリィは席を立ち、玄関に向かう。俺はそれを後ろから追うようにして向かった。
「あら、お出かけ? 気をつけていってらっしゃいね!」
「うん、行ってくるわ」
「わたしもいくー!」
玄関に向かう俺たちを見て、アイーシャとリラがそれぞれ反応を示した。
「リラダメよ。多分外にも行くと思うから危ないわ」
「えー!?」
「リラ、今度は連れて行ってあげるから今日は我慢してね」
「んー、分かった!」
「よしよし。じゃリン、行きましょう!」
「ああ、道案内お願いするよ」
そんなやりとりをして俺たちは家を出た。
「ほらここが教会よ」
「おー、……小さいな」
「そんなことないわよ、ここは大きな方の村だから結構大きい方よ」
「へー」
そんな俺たちの前に建つ教会は、アーリィの家よりふた回りくらい大きいくらいの大きさだった。
「ほら、ボケっとしてないで入るわよ」
「ああ」
そして教会の中に入ると、そこには驚く光景があった。
「広っ!?」
「何驚いてるのよ。まさかこんな常識も忘れたの?」
「いやっ、ほら俺記憶喪失だからさッ」
アーリィは焦る俺の様を見て力無く項垂れた。
「はぁ〜…、リンの記憶喪失はだいぶ重症みたいね」
「……ごめん」
「ん、まぁ文句言ってたってしょうがないしね! 良いわ、教えてあげる。教会はね、万が一の時に村にいる全ての人々が入れるように《拡張魔法》が掛けられてるの。それでね、《拡張魔法》って言うのは密閉された空間の大きさを基準にして一定量拡張する魔法だから街や都市なんかの教会だとあっと驚くほどの大きさになるの」
「ほえー、すごいな」
うん、流石ファンタジーだな! なんだか楽しくなってきた俺は教会から一旦出て、全景を眺め、再び教会に入る。
「うお〜、すげぇな!」
何度も出たり入ったり繰り返す。うほほぉすげぇなマジで!
「って何回やるのよそれ! そんな目的じゃないでしょ!」
「! おっとそうだよな、ごめんごめん」
「全く! (……何で私とおんなじことやってるのよ)」
「え? なんか言った?」
「な、なんでもないわ!」
「あら、お客さまですか?」
入り口で二人で騒いでいると、奥からそんな声が聞こえた。
「マリー!」
「あら、アーリィ? どうしたの? もしかして怪我したの!?」
「違うわ、このリンのステータスを、ってちょっと!」
「あああアーリィ、どこを怪我したの!? ここ? それともここ? 一体どこなの!?」
「やっ、ちょ、ちょっと! 大丈夫だってば、どこも怪我なんかしてないわよっ! って、あんっ…、どこ触ってるのっ、あっ……」
うーむ、けしからん、実にけしからん。突如出てきた典型的なシスター服らしきものを着込んだ茶髪にふわふわウェーブがかかった美少女がアーリィとくんずほつれしている。
「…………」
「やんっ、もう、良い加減にしなさいっ!」
アーリィは振り上げた手刀をシスター服の少女の頭に落とした。
「あいたっ!」
「全く、本当に大丈夫だから!」
「うぅ〜、本当にホント?」
「本当よ」
「なぁんだよかったぁ〜」
涙目で涙声な状態は本当に心の底から心配していたことを伺わせた。
「それよりマリー、《ステ玉》使いたいんだけど良い?」
「あ、うん、大丈夫だよ! ちょっと待っててね〜」
「ええ、お願いね」
ててて、と駆けていくマリーの背中を見送りながらアーリィは口を開いた。
「……さっきの見てた、わよね」
「勿論さぁ!」
「うん、後でその無駄に満面な笑顔を歪ませてあげるわ。……じゃなくて、あの子はマリーって言ってここのシスターをやってるの」
「まぁ、あんな服を着てたらそうだよね」
「まぁね、それであの子は見ての通りすっごい心配性でね、教会に来ると大抵ああなるの。警戒はしてたんだけど、あの子普段は非力なくせして他人を心配している時だけあんな感じで力が強くなるのよね」
「ああ、なるほどね。身長の差から言っておかしいと思ってたけどそんなになんだ」
「ホント、ビックリしちゃうわよね。幼馴染なんだけどあの謎の力だけは未だに——」
「おさななじみ!?」
嘘だろ!? どう見繕ってもアーリィの身長の半分くらいしか身長ないんだぞ!?
衝撃の事実に思わず語気に力が入ってしまった。
「え、そんな驚くことかしら?」
「いやいやいやどう見てもいいとこリラの幼馴染レベルだぞ?」
「この村で唯一高位治癒魔法の使い手なのよ?」
「アレで!?」
「お待たせしました〜、ってあれ、どうしました? はっ、まさか怪我しちゃったんですか!? 見せてください!」
「きゃあっ、マリー大丈夫だって、どこも怪我してないわ! ってだからそこはっ…!」
「うーん…(ジー)」
「ちょっと見てないで助けなさいってば! あっ、だからそこはっ…! はぁんっ——」
十分後
「ほ、ほらっこれが《ステ玉》よ、これに触れて『ステータス』って念じれば自分のステータスが分かるはずよ! ほらとっととやりなさい!」
「ふぁい……」
アーリィはあの後ずっと見てた俺が止めるまで揉みくちゃにされていた。今も顔が赤い。……え? 俺の顔も赤いって? 心なしか腫れているようにも見えるって? ほっといてくれ。
促されて中身が透けるほどに透明だが、淡く発光しているおかげで視認できる玉に恐る恐る手を触れた。
「(ステータス)」
言われた通りに念じる。すると——
「うおっ!」
淡い光が強烈に輝きだした!
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