一章 2話
日を跨ぎに跨いだけどなんとか投稿です。
「う、うーん……。……はっ!?」
俺は目を覚ました。どうやら寝ていたようだ。いや、気絶していた、というのが正しい、のか?
ここはどこだろう、辺りを見回す。
「……えぁ」
見回そうとしたのだが、見回すことができなかった。その答えは今目を合わせた生物を見れば分かってくれるだろう。
「グルルルル……」
最初俺はここが天国だと思っていた。だが、天国にこんな危ない生物いるわけないよな。
俺の目の前に直視したくない光景があった。視界に入る数で五匹、いかにも凶暴そうな狼があたりをウロウロとしながらも視線だけはこちらにしっかりと目を向け、逃すまいとしている様子が見て取れる。
俺の身体からはドッと冷や汗が噴き出した。俺の中のセンサーがこの場から早く逃げろ、と言っている。正直俺もできることならそうしたい。
何故何処だかわからない場所でいきなりこんな絶体絶命の状態に陥っているのか。神様のちょっとしたお茶目な悪戯心からだとしたら、そんな神様絶対に見つけ出してぶん殴ってやる。
しかし、今はこの状況をどうにかせねば。仮にここから逃げ出そうとしてコイツらから完全に逃げおおせることができるのか? 普通に捕まって喰われるんじゃないのか? ネガティブなイメージが頭をよぎる。
「ヴォウ゛ッ!」
「うわっ!?」
一瞬目を離してしまった瞬間、一匹の狼がこちら目掛けて飛びかかってきた!
なんとか身体を捻り回避する。態勢が崩れそうになったがなんとか持ち直した。その時他の狼をチラッと見て見れば、今にも飛び掛かろうとしていたのが確認できた。
あ、危ねぇ……。転んでいようものなら間違いなく襲いかかってきていただろうな。
額を拭い、一切の油断もしないようにゆっくりと後退する。しかしそれに合わせて狼共もジリジリと前進してきていた。
相対する狼との距離も変わらず、辺りの景色も変わらず、辛うじて道端に落ちている小石や岩を確認することで、自分がしっかりと後退していることを理解していた。
「くそっ、このままじゃジリ貧だな…!」
どうする、どうする…! せめて武器になるようなものがあれば戦えるのに! いや、でも万が一そんなものがあったとして戦えたとして果たして戦闘に勝利することが出来るのか。
……イカン、またネガティブになってしまっている。
相変わらず狼共は全く同じ距離を保ちつつ嘲るようについてくる。
「……ん?」
なんだろう、最後方にいる狼の挙動がおかしい。俺の方を見ているのだが、あきらかに別の何かに意識を取られているようだ。
一体なにを気にして——。
「おいマジかよ……!」
俺が先ほど通り過ぎた大きめな岩の陰。ちょっと大きめな割れ目ができているのだが、さっきは角度のせいで気付かなかったが、中に人がいた。それも小さな女の子だ。
俺から意識が外れそうになっている狼はこの人間を気にしていたのだろう。
一つ試してみようと思い、俺は先程より速度を上げ、後退を始める。人が確認できた岩から大体50メートルほど離れると予想通り狼共は俺を追うのをやめ、ピタリと止まった。そこからは速度を落としゆっくりと離れ始める。狼共はこちらを向き、警戒、威嚇はするがこちらに近づくことはなかった。
「やっぱりな……」
この狼共は割れ目にいる人間から俺を遠ざけようとしているのだ。それはつまり、俺よりも確保しやすい人間を食料として優先しているということだ。
その人間とは恐らくあの狼共に手傷を負わせられたか、若しくは子供——勿論俺よりも年齢の低い——だということだ。
さて、狼共の不審な行動の理由がわかったところで俺はどうするべきか。答えは簡単だ。
「悪いな」
脱兎の如く俺は駆け出した。勿論狼のいる方向とは真逆の方向に。
四匹の狼はまだこちらを警戒して見ているが、一匹の狼は俺が駆け出したのを確認すると一目散に岩の方へと駆け出した。
このあと起こる惨状を想像しかけるが目を瞑り現実から逃げるように速度を上げる。
申し訳ない、とは思うが俺が立ち向かっていったとしても大した戦力にはならないだろうし、これは妥当な判断だ。そう自分に言い聞かせる。
後ろを見れば狼はもう岩に辿り着いている。もうすぐあの割れ目に隠れる人物の悲鳴が聞こえてくることだろう。そう思い俺は耳に手を当てようとするが、それよりも先に絹を裂くような悲鳴が辺りに轟いた。
「きゃあああぁぁぁぁぁっ!!!」
「ッ!!」
女の人の悲鳴だった。それも子供の。
刹那俺は反転し、岩の元に駆け出した。さっきまで葛藤していた自分が馬鹿みたいだ! こんなこと少しは予想できることなのに! 俺は適当に理由をつけて逃げ出したことを酷く恥じた。
予想よりも早く四匹の狼へと接近する。しかし狼共は未だ動かずにいた。その間も女の子の悲鳴は続く。
俺が狼共の元へ辿り着くのにあと数歩という状況になると流石に狼共も黙って見ていることはなかった。
「ガルゥァアア!!」
「くっ!」
振りかぶる鋭い爪を間一髪でかわし、狼共の間をなんとか抜ける。勿論それを見過ごす訳もなく狼共が背後から迫る!
「ヴァウッ!!」
「いあっ!!」
脇腹に味わったことのない痛みが走る。まるで焼けるように痛い!俺はそのせいで足をもつれさせ、草の上に派手に転倒した。
「グウウゥゥゥッ!!!」
「うがぁぁぁ離れろぉッ!!!」
「ギャンッ!!」
俺は容赦なく俺の脇腹に噛み付いてきていた狼の頭に咄嗟に握った石を振り下ろす。たまたま当たりどころが良かったのだろう、なんとかすぐに引き離すことに成功した。
痛みを堪えつつ立ち上がる。正直気を抜けばすぐにでも倒れてしまいそうだ……。脇腹を抑え、背後を見ると狼が草の上をのたうちまわっている。見れば目から血を流していた。さっきの石が恐らく目を潰したのだろう。
だがそんなことで安心していられない。岩の元にはまだ先程の騒動で意識をこちらに向けているものの、狼がいるのだ。
悲鳴はやんでいるが、襲われていないから悲鳴をあげていないというわけではないのかもしれないのだ。もし、俺の予想通りならそれはその人の死を意味する可能性がある。悠長になどしていられなかった。
脇腹から流れる血を手でせき止めながら石の元へ向かう。今の俺の頭にあるのは『狼を岩から引き離す』ことだけだった。
正直もう自分が助かる気が一切しない。だからせめてそこにいる女の子だけはなんとか助けようと思った。それさえ出来なくては俺がこんな無謀な行動をした意味が本当に無意味になるのだ。それだけは絶対に阻止せねば……!
「おらテメェ、こっち向けや!!! ……ッ」
叫んだ際の振動がダイレクトに俺の傷を震わせた。僅かに身体がぐらつくもなんとか堪える。
俺の挑発に当てられたのだろうか、狼が迫ってくる。相手の狼の狙いは間違いなく俺の首筋を捉えている。一撃で勝負を決める気なのだろう。しかし俺はそれに抗う力を持っていなかった。
ついに眼前に狼の唾液にまみれた牙が迫ってきた。
やられる……!
そう思った次の瞬間だった。
「〝ライトニング〟!」
バシャァン!!
そんな声が聞こえたと思いきや、一瞬俺の視界が光で塞がれた後、爆音が落ちた。
「こ、これは……?」
恐る恐る目を開けた俺の目の前には、先程までの様相とは全く違う、変わり果てた狼の死体が転がっていた。
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