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一章 9話

俺の言葉に耳を貸すため静まり返った程よい空間の中に、放たれた俺の一言がこだまする。


「………ハッ」


少しの間放心していたラファが我を取り戻すと同時に俄かに活気が息を吹き返した。


「え、いやいやいやっ恐れ入りますが普通に倒していたらまず50体も討伐できないですって!」

「いや、そんなこと言われても……、なぁ?」

「ちょっと、何でなんでこのタイミングでこっち向くのよ? 私関係なくない!?」

「え、でもアーリィさんはリンさんと一緒に行動していたのでは?」


ちょっとした会話の隙間にすかさずラファが疑問を口にする。


「私はリンとは別に行動していたから知らないわ。というか実は私も気になっていたのよね。ねぇリン、どうやってスライムを倒していたの?」


純粋な好奇心から来ているのだろうか、アーリィのパッチリとしたスカイブルーの瞳が心なしか普段の1割増しで輝いている気がする。

まぁ、この程度のことを話したところで何も問題はないだろう、ということで簡潔に説明した。


「あ〜っと、まぁ最初はスライムに身体を突っ込んでスライムの核を切ってたんだけど……」

「「「突っ込んで!?」」」

「でもそれじゃあ身体中ベトベトで流石に気持ち悪いからこういう風に刃を向けて大体スライムの天辺から少し右辺りからナイフを斬るように振り抜いて核を斬るようにしたんだ」


何とか身振り手振りで説明すると、アーリィが口を開く。


「……普通ね」

「ああ、普通だ」

「普通ですね」


ラファとアーリィそれに加えて周りの野次馬が口々に言う。


「だから言ったでしょう、普通に倒した、って」

「ええ、そうですね。なんだか疑うような物言いで大変失礼致しました!」


すぐさま自分の非を認めるようにラファが頭を下げた。


「いや、気にしなくてもいいですよ。本当は俺もあまりにもあっさり倒せていたので、なんだか自分が知らないうちにおかしなことでもやっていたのかと思ってたんで、『普通』だってことが分かって良かったです。」


と、あからさまにホッとした表情を作ると、ラファもどうやら気分を良くしたようだった。

……と、そういえば忘れてた。


「ラファさん、そういえばまだ出していない素材があるんですけど……」


スッと近づいてラファの耳元で囁く。え、何故堂々と言わないか? 決まっている、また騒ぎになるだろうと思ったからだ。俺がさっき出した素材とは別にまた同じくらいの量の素材を取り出したらまた色々と聞かれる羽目になるだろう。だからバレないよう対策を行ったわけだ。


「え……」


え?


「えぇぇぇぇぇ!!? まだあるんですかぁ!?」


どうやら俺のささやかな努力は実らなかったようだ。


「はぁ……」

「リン、まだ何かあったの?」

「ああうん、まだ出してなかった素材があったのすっかり忘れててね…」

「ふーん、じゃあさっさと換金して帰りましょ」


アーリィが帰りたそうにチラチラと出口を見ている。

それを見て俺は、まぁ騒ぎになったらなったでもう強引に帰ろう。と思っていた。

ラファがいそいそとカウンターの中へ戻る。


「では残りの素材をこちらにお願いします!」

「はい、じゃあこれお願いします」


意識でBOXの中を操作し掌に取り出す。


デロン


「え」


ボトボトボトボトボトボトボトッ…


「これと」


パサパサパサパサパサッ


「…………」


ゴンゴンゴンゴンコロコロ…


「あとこれですね、お願いします」

「…………」


あれ、おかしいな、ラファの反応がない。


「ラファさん? ラファさーん? あれ?」


ラファさんの視線がデロデロと大量にあふれた『スライムの破片』から一向にはなれない。一体どうしたのだろうか?


「アーリィ、すまんなんかラファさんがフリーズしてるんだけど——」


クルリと後ろを振り返ると。


「…………」


世界が静止していた。

え、ちょっと待って、なんで? 俺なんかした? いつのまにか使っちゃいけない技とか術とか使っちゃった系ですか?


「……あの…」

「あ、ラファさん! よかった動いてくれた!」

「リンさん……これは、一体なんでしょう?」


パクパクとぎこちなく何処か青ざめた表情でそう尋ねてきた。


「え、知らないんですか!?」


嘘だろ、これスライムの素材だぜ?


「申し訳ございません、存じ上げません…」

「いや、『スライムの破片』ですよ、これ」

「スライムの、破片、ですか?」

「そうです! これも換金できますよね?」

「え、こ、これをですか?」

「え、もしかしてダメなんですかね…?」

「え、ええ…、申し訳ございません」

「そうでしたか…」


えー売れないのかよ…。んーじゃあどうするかなぁ。戻してもBOX圧迫にしかならないし…。


「あ、じゃあ捨ててしまって構わないので、そちらで処分していただけますか?」

「えぇっ、これ…を処分、ですか?」

「ええ、お願いできますかね?」

「いやッ!」


ラファはその場でブンッと大きく首を横に振った。


「え?」

「あ、いや、そ、そうですね! こちらの支部では扱っていない素材ですのでイマイチ詳しい相場を私共は存じ上げないのです、で、ですから王都! 王都の方にある大きなギルドに持ち込んでいただければそちらには専門の方もおりますので買取できるかと!」

「あ、ああそうなんですね、分かりました、ありがとうございます! あ、ではこちらなら買取お願いできますかね?」


そう言って俺は『スライムの核』と『薬草』を指差す。


「は、はいっそちらでしたら買取させていただきます!」

「あ、じゃあお願いします」

「かしこまりました!」

「じゃあこっちは回収しますね」


そう言って俺は『スライムの欠片』に手をかざして回収していく。おおおもしれぇ、掃除機でスライムを吸ってるみたいだ。

数秒で綺麗に『スライムの欠片』を片付けるとようやく査定が始まった。

いつのまにか再び放心していたギルドの受付嬢たちも動き出し始めて査定を手伝う。



「うわっ」とか「すごっ」といった感嘆符ばかり聞こえ続けて10分くらい経ったのだろうか。


「リンさんお待たせしました査定が終了いたしましたので報酬をお渡しさせていただきます」


そう言ってラファさんはさっきの査定よりも小さな革袋をトンとカウンターに置いて中身を取り出し始める。

あの量じゃまぁ運が良ければ1万くらいいくかな。


「それでは報酬をお渡しさせていただきます。薬草が6束、スライムの核片が5個、スライムの中核が2個で202100メリルですので金貨が2枚、銀貨が2枚、銅貨が1枚です、どうぞご確認を!」

「「「はぁ!!?」」」

「うおっびっくりしたぁ」


いつのまにか背後の団体が復活していた。

もう絡まれるのは嫌なのでそそくさと報酬を受け取り颯爽とその場を離れようとして周囲を確認する。


——また固まってる……。


「じゃ、じゃあ俺はこれで〜…」


というわけで俺はそそくさと逃げるようにギルドを後にした。




帰る方向にしばらく歩を進めてから気付いた。


——あ、アーリィ忘れたわ。






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