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2.旅先で 1年目、7月ごろ。


・2010年7月14日(水)



 ……季節は変わって、夏。

 あれから毎日のように顔をあわせていた時永くんとは、何でだか一緒にお昼を食べに行くのが日課になっていた。

 と言っても話すことといえば「あのゲームが面白そう」とか、「あのラノベがいい」とか……そんな話。

 別に男女一組だからといってラブラブな展開になるわけでもない。

 そんなノリの延長線上で近況報告してわたしがサークルの合宿で長野に行くことになったことを話すと、時永くんは少しだけ首を傾げて一言言っただけだった。


「おみやげ、楽しみにしてます」


 軽い感じではあったのだけれど……時永くんにそう言われたのを真に受け、宿に着いたわたしはさっそく、泊まっていたホテルの1階ロビーにあるおみやげブースへと向かっていた。


 ……さーて。

 何がいいだろう。どうせならめちゃくちゃ変なもの持っていこうかな。


  ――「あのー、美郷?」


「何?」


  ――「早くも、と言いたいのだけど」


 うん、何か変なことを言いそうな気がするし、メティスは放っておこう!


 あの、時永くんのブフォッと噴き出した素の表情は未だにレア中のレアだ。

 ……わたしはもはやあれに遭遇するためだけに時永くんと会ってるようなもので、それに彼は早くも勘付いたらしい。

 毎度必死にほっぺたをヒクヒクさせている。それがまた面白い。


  ――「……頭の中がなにやら、愉快なことになってるのは気付いてる?」


「そりゃそうでしょ、今度こそギャフンと言わせるために愉快なものを探してるんだから!」


  ――「……自覚ないならいいわ。可哀想に。縁って残酷」


 この神様は時々意味がわからないことを言うけれど、こういうのは突っ込んだら負けだとわたしの中の経験値が言っていた。


 ……そう、この人たまーに。

 ナチュラルにネタバレを食らわしやがるのだ。

 わたしの人生、その先の。


「……インパクトないなー……なんかないかなー」


 例えば遠足のときの天気だったり。

 仲良い子の裏切りだったり。


  ――「美郷ー、美郷ってば、おーい」


 未来なんて知ったってしょうがないし、多分ろくなことが書いてない。そんなもの気にしたってしょうがない。

 そんなことを思いつつ、ワクワクしながら探しても、なかなか良いものが見つからない。そう考えながら歩いていると……


  ――「美郷、あぶなっ」


 どんっ!


「おっ、と」


 ……前から走ってきた、割と小柄な男の子にぶつかってしまった。


  ――「あー……遅かったか」


 いや、まったくだよ、気づいてたんだったらもうちょっと早く言っても良かったのに!


  ――「あなたが無視してたんでしょうが!?」


 うーわ! 記憶にございませんね、ネタバレ女神!!

 と、いけない。

 とりあえず、目の前の男の子にはネタバレ云々は関係ないんだった……!


「ご、ごめん大丈夫?」

「あわわ! こここ、こっちこ……あわわわ!!」


 男の子の着ているジャージにはなんと、見覚えのある高校名が書いてあった。……たぶんだけど、今の家と同じ市内にある高校が合宿か修学旅行にでも来ているんだろう。

 この宿にはどうもそういう客が多いみたいだ。


 ぶつかった彼はすっとんきょうな声で叫ぶ。


「お、おおお、おムネを触ってもーたーす!」

「……モータース。いや、故意じゃないから大丈夫だよ、たぶん」


 ……どうしよう、メティス。今日はツイてないよ。


  ――「あれ、基本は妙な方向にポジティブを発揮する美郷がめずらしい。人とぶつかったくらいでそんなことを言い出すなんt」


 愉快なおみやげをさがしていたはずなのにさ。


  ――「え? あ、うん」


 まさかの……「愉快な人」に遭遇してしまったよ。


  ――「そっち!?」



「あーもう!!」


 そこにバタバタとやってきたのはその男の子の友達なのか、対照的に背の高い、前髪を上にあげた男の子だった。


「ちょっと目を離したら何してんだこのバカは。……ああ、どうもすみません」


 ヤンチャそうな見た目とはまったくの逆。

 礼儀正しく謝る前髪くんに、わたしは笑って返す。


「いいんだよ。わたしも前見てなかったし」

「え? あ……げっへへへ……奇遇だなぁ、実はオレも見てな、ぐッ」

「はい減点」


 ……すぱこんっと子気味いい音がした。


「いいか佐田、これ以上面倒起こすな。怒られるのは俺だ」

「今更真面目ぶったって遅いんだよ犬飼!?」


 頭をおさえて小柄くんがわめいた。


「お前は! 名実共に! オレの悪ふざけ仲間だ!」

「それは! 認めるけど! 山内にはもう怒られたくないんだわ俺!」

「……うるッせえ怖気付きやがって!」

「何だとコラ? お前あの温厚な山内に怒られたことある!? ヤバイぞあれ! というかそれでなくても今の態度は違うだろ。ふざけた顔で笑ってないでもう一度きちんと謝れー。どう見ても部外者だから相手ー」

「気にしなくていいよ」

「ほら」


 小柄くんはわたしを指差しながら言った。


「こう言ってるから()()()()の人」

「おっぱいの人言うな。あと走ってたのはお前だろうが。道路交通法で見たってお前に非があんのは間違いねぇじゃねーか、あぁん?」


  ――「道路交通法って」


 メティスの冷めたツッコミがわたしの頭の中だけで響く。


「でもだからって殴るかよクソ犬飼!? オレはただひたすらにだよ!? 相手のおっぱい見てたぐらいの話なんだよぉ!?」

「――いや余計に殴るわ、何言っちゃってんの佐田くん? ……あの、ホントすみませんでした。こいつには言って聞かせますから」


 パペットのごとく90度の角度で押さえつけられ「いてててて!」と声を出す小柄くん。前髪くんのまるで保護者のような態度に、思わず笑いそうになる。


「ホントにいいって」

「マジですみません……チクらないでください……ほら、さっさと歩けこのタコ野郎。撤退、ほら、ハウス」

「待てってば犬飼! 何だよ!?」


 ロビーの方にずりずりと引きずられていく小柄くん。


「ふっつーによくある展開じゃんか~! 今後のフラグだって~! ねえねえあのおっぱい見た? オレにきっと運命の相手がやってきたんだよぉ~! 添い遂げさしてくれよぉ~」


 うっわー。

 遠くにいるのに結構声通るなあ、あの子。

 というか、そんなにおっぱいおっぱい言われるような大きさしてる?


  ――「さあ? 普通よりやや大きいくらいじゃない? 地球の基準だと」


「うっせぇわい、胸の話題だの正面衝突したらフラグの確定だの、いい加減にしろ! どこぞのギャルゲかお前の脳みそは!」

「だってお前ー! 高校生活って短いのよ!? なんで!? どうしてオレには彼女ができないのっ」

「そういう言動が原因だろ」


 前髪くんの冷静な一言に、小柄な子がぎゃんぎゃん言った。


「犬飼程度に女の子ができて別れて時間が経ってモテ期が終了して」

「いや一息に言うな、そんな頭の悪い流れ」

「そしてオレにお鉢が回ってくるはずだったのに」

「妄想乙、ハイ妄想おっつー! ……っていうか今は演劇部の後輩用のおみやげとか考えるのが先だろうが部長さんや!」

「いや、ぜんっぜん持って帰る気ないから誤解なきように!? ……だいたい去年の津田部長が抜けて以降のあの、部員全員の腑抜けっぷりご存知でしょっ?」


 そっか、あの小柄くん、演劇部の部長なんだ。


「リーダーが卒業したぐらいで抜け殻みたいになってるやつらなんぞに色々買ってやるの、なんか超アホらしいんですけど! あいつら舞台がやりたいんじゃなくて単に今話題の女優さんの2世っていうか、なんか学園カリスマアイドル的なツンデレ女王の横にいたかっただけじゃん!?」


 ……横? カリスマアイドル? なんの話だろう。


「えーまあ、そりゃあそうだろうよ、人気を辛うじて二分してた谷川先輩が皆ご存知の『諸事情』とやらで一抜けピーしたんだから。つられて谷川派も、あのヤンデレ部長の体たらくっぷりに真顔になりつつゴロンッゴロン抜けまくったら、そりゃあ残りは訳のわからん熱狂的津田派しか残んねえだろが」

「はああ……」


 小柄くんがため息をつく。


「谷川派、ことごとく演者としてまともなメンツが固まってたよなあ……演劇部空中分解したの、絶対お前のせいだぞ犬飼」

「いやなんで俺だよ、ほっといても分解してたよあんなの。二大政党が出来てる時点でおかしいんだよ」

「……大体、逆立ちしたってオレあの津田部長並のカリスマ性でねーのもう既に分かり切ってるんだけど? なんでオレがあいつら率いなきゃいけないの? バカじゃないの!?」

「そりゃあねお前。……一周回ってバカにしか纏められませんよありゃ。だからこそお前が、お前の手で、後輩共の意識改革を今のうちにしとけっつってんだよ新部長。前部長とやるこたぁ変わらないよ。お前がこの一年でいかに「演劇楽しい」って後輩に思わせるかだよ」


 なんかよく分からないけど頷いた。この前髪くん、きっと絶対いい子だ。


「そんなこといったってさ犬飼くんや! もうオレが部長だと気付かれてるかも怪しいわ……空気だもんっ……!」

「空気ぃ?」

「空気だもん、エアーなマンだもん! 倒せないもん!」


 そこまでくると前髪くんも哀れに思ったのか――えらく中途半端なエールを送り始めた。


「あー……そんな悲しいこと言うなよ……風属性じゃないから自信持てよ、水属性の()()()()

「軟体変態!? 今の流れで軟体どっからきたの?」

「変態がどっから来たかは聞かないのねお前……そう……お前が今手に持ってるそれだよそれ。それが軟体だよ。……なんでぶつかっても頑なに右手から離れねえんだよそのタコ煎餅!!」


 さすがにわたしも噴き出した。

 っていうか気づかなかった!

 なんでそんなもの持って走り回ってるの小柄くん!!


「いやだっておいしいだろ! エビせんより好き!」

「知らねえよお前の煎餅の好みは!」


 目を輝かせながらタコせんを握りしめている小柄くんに、前髪くんが呆れた口調でまくし立てている。何だこの二人。漫才コンビか何かか。


「しかも今回俺が班長なのに何やらかしてくれてんだお前!? 昼飯時に一瞬行方不明になったかと思えばタコ焼き食ってるわ、タコ唐食ってるわ! フリーダムなんだよ、葛飾北斎かよ!」

「もー何意味わかんないんだけど、機嫌悪いの?」

「今更だよ! 機嫌くっそ悪いわお前のマイペースさで!」


 だんだん前髪くんがイライラしてきたのがもう、声だけで分かる。

 ――しかし、意にも返さないマイペースっぷりで小柄くんは言い返した。


「んなこと言われたって昔からラッキーアニマルなんだよ!! 一日一食タコ食わなきゃ気が済まねえんだよっ!!」

「いや得意げに言ってんじゃねえよ、もはやそれラッキーアニマル依存症だからねお前!?」


 ……もうなんか、色々突っ込みたいけど突っ込めない。何があったのこの子たち。どうしてそうテンポいいの。すっごい参考になる。


  ――「いやそこでお笑いの勉強しないで美郷。あなたどこ目指してるの!?」


「タコがらみで一体何があったらそんな数奇な人生を送ることになるんだ! てめえの過去には一体何が!?」

「あっ、さては羨ましいんか貴様!? タコに好かれるオレが!」

「好かれてんのお前!?」


 いや、もういい加減にして欲しい。笑いが止まらない。


  ――「うっわ地味に大ウケしてるこの子……!」


「何、嫉妬してるのはタコのほうじゃなかっただと……羨ましいのはおっぱいに激突したオレのほうか!」

「いやクソどうでもいいんですが」

「なんですって奥さん!?」

「誰が奥さんだ!?」

「おっぱいの良さも分からんのか君!」


 小柄くんが絶叫した。


「万年思春期の高校3年生がだよ!? 通りすがりのお姉さんのおっぱいに合体事故! 夢が広がるでしょっ!?」

「お前の下世話な妄想しか広がってないんだが!? もういい分かった! お前に良心を求めた俺が馬鹿だった……!」


 ダッと駆け出す前髪くんは漫才に飽きたらしい……あ、いや……あれは


「あっ、待てよ班長ー」


 話が通じなくて泣いている……?


  ――「いや、うん。それはそうでしょ……」


 メティスのゲンナリした声が響いた。


  ――「好き好んであそこまでクレイジーなやりとり続ける子とか、そうそういないわよ」


「ちぇー、楽しかったのに……」


 遠くでも、まだ騒いでるみたいだ。


  ――「追いかけるの?」


「……いいや」


 わたしは首を振った。


「……好き好んであんなクレイジーなやり取りする子、いないんでしょ?」


 時永くんを笑わせる参考にならないなら、いい。


  ――「美郷。あなた、よっぽどあの眼鏡くんの噴き出した顔が好きなのね」


「当然でしょ」


 わたしは笑いすぎて痛くなったお腹を休ませながら、呟いた。


「友達のスマイルが嫌いな子って、そんなにいる?」


  ――「……そうね。いないかもね」


 ……あの小柄くんだってきっと、そういう子なんだろうな。

 誰かを笑わせたくて堪らない。だからやりすぎちゃうんだ。


「……まあ、やりすぎて怒らせてもすぐ元通りになっちゃうんだろうけど、あの前髪くん」


 随分と仲良さそうな子たちだった。

 ああいうのが所謂、親友同士のやり取りというか。男の子たちって大抵傍からみてるとバカみたいで、でも楽しそうで。

 普通は……多分……そんな感じなんだろうなあ。


 ……そう考えてみると、『友達、なんとなくいなさそうな人間ランキング』とかあったらきっと真っ先にダントツナンバーワンになっていそうな時永くん。


 彼、意外とあんなふうに笑い合える友達がいたりしてもおかしくないのかな?


 ……いや、ちがうな。やっぱりおかしい気もする。そもそも想像がまったくつかない。誰かと一言二言話しているのは見かけたことはあるけど、何かお互いに業務連絡とか用事があってとか、多分毎回そんな系統。

 しかも相手の子も大概ちょっと話しにくそうな顔をしているしで……何だか、それも少し、問題というか。



  ――「美郷?」



 「人を寄り付かせない」とは、まさに彼のことを言うのだろうか。

 ……なんだろう。ぽつんと感が凄まじい。

 そういえば彼の方から、あまり「人に話しかけている」のを見た事がないような……。


  ――「なーに考えてるの?」


「ん? ううん……」


 何だろう、最近……

 時永くんのことばっかりだなぁ、わたし……


  ――「ぶッ」


「ねぇ、メティス」


  ――「なに?」


 ……噴き出したような音を出したのは意味が分からないけど、とりあえず。


「友達っていいよね」


  ――「なんなの急にぃ」


 言いたいことは、ちゃんと言ってみる。

 ……そういえば自称神様のメティスにはいるのだろうか。友達とか、家族とか。


「……あ」


 そういえば、と、ふと思った。

 そもそも――わたしだってそうだ。人のこと言えない。考えてすら来なかった。


 今まで……


 時永くんみたいに仲の良い子って……わたし、今までいたかな?

 こんなに気になる友達、今まで。


  ――「友達、ね」


 メティスはぽつりと言った。


  ――「まあそうね、私にも1人、そんな感じのがいたけど!」


「いやさっきから何勝手に頭の中覗いてるわけ?」


  ――「ごめんごめん。変なこと言い出すからどうしたのかなーと。いやー、相変わらず愉快でよかったわー」


 ちょっと楽しそうにいうメティスに、わたしは深くため息をついた。何がそんなにウケたのかわからないけど、楽しんでくれたなら何よりだ。

 ……うん。たまに、うっとおしいこともあるけど。()()()だ。

 だって……振り返ったらそこに、誰もいないより。

 きっとずいぶん、マシだもの。


「……まぁいいか。で、『いた』って」


 何で過去形なのかとか問う前に。


  ――「色々あるのよ。って言いたいところだけど、まぁたまには昔話もいいかもね」


 メティスは苦笑いしながら、返答を返してきた。……いや、うん。ただ、語りたいだけじゃないかなぁ。


  ――「随分昔の話ではあるのだけど、一応、幼馴染みたいな仲のいい男の子がいたの。私と同じ、『神』と呼ばれていた子でね」


「へぇ、その言い方……メティスのいるところって一応、神様以外もいるんだ」


 神様しかいないところを何となく想像していたわたしが言うと、メティスは苦笑した。


  ――「言ってなかったっけ? 私の世界でだって、普通の人間のがむしろ多数派よ。神は少ないの。特に生まれたときから神扱いされるような人はね」


「じゃあ、メティスは生まれたときから偉かったんだ」


  ――「そうね、親となんか完全に引き離されて……未だに顔も名前も知らないのよ。ことあるごとに持ち上げられて、ことあるごとに崇められて……ご機嫌取りをされて」


 メティスの語る神様は、ただの偉い人ではなさそうで……

 どれかっていうと、ただの()()()()みたいだった。


  ――「当時は本当に大騒ぎだったらしいわ。同じ場所で2人も神様の子供が生まれたって。奇跡と災厄、両方がやってくるぞって――勿論、ただの言い伝えだろうけれど」


「それは居づらいだろうね。……それで?」


  ――「特定の育て親のような人もいなくて、大人の人間が入れ代わり立ち代わり世話をしてくれるような環境だったから、思えばずーっと一緒だったのは、その男の子だけだった」


「うん」


  ――「外にはほとんど出してもらえなかったから、お天気関係なく、2人でころころと遊びまわっていたっけ……だから、ひとつの大きな建物の中でずっとかくれんぼや鬼ごっこをしていたことは……なんとなくうっすら、ぼんやりとは覚えてるかな」


 意外なような、そうでないような幼少期だ。人間としてはともかく、神様としてはよっぽど大事に、大切に育てられていたんだろうなとは何となく思う。


  ――「私はずっと人の背中に隠れて指をくわえているような子だったけど、対照的にその男の子は凄いやんちゃで、悪戯好きで。周りの人をよく困らせて遊んでいたわ。でも……」


「でも?」


  ――「最初こそ、可愛げのある悪戯ばかりだった。でも段々エスカレートしてきて、誰にも止められなくなった。……ううん」


 メティスは声のトーンを落とした。……どうしようもない事実を語るように。


  ――「自分でも、止められないんじゃないかなって思えた」


「うん……」


 肩を落としてげっそりとしたそれが目に浮かぶ。メティスの顔は知らないけれど、丸めた背中が、ため息をついたその様子が……


 その友達が遠くに行ってしまった、ついていけなくなったメティスの様子が。


  ――「そのうち、彼は自分を止める気もなくなったみたいだった。それが当たり前だと思い込んでしまったの。皆怒らないし、怒るどころか持ち上げるから……自分が一番偉いと思い込んでしまったのかもしれないわね。段々私とも話が合わなくなってきて、ついには私がそこを飛び出して。だから」


 メティスは柔らかい調子で、優しく言った。


  ――「きっと、もう友達だなんて呼べないわね」


「そっか」


  ――「だって、私が理解するのを諦めたの。私しかいなかったのに」


 その男の子の、一番そばにいたのがメティスだったのに。


「……耐えかねたメティスが、一方的に家出しちゃったんだ?」


  ――「まぁ、その後一方的に付きまとってきたけどね? 向こうとしては喧嘩したつもりはなかったらしいわ。胸が痛いわよ。だって私はあの子がもう嫌いなんだもの」


 ……縁が切れたわけじゃないらしい。


  ――「もう、話すら噛み合わないのにね。好きで()()()()()()のが余計腹立つのよ」


「よくドラマで言うよね。しつこい男は嫌われる~ってやつ」


  ――「本っ当にそれね、その通り。一度くらい言ってやりたいわそれ。クロノスの耳にはほとんど入らないとは思うけど」


 クロノスってその子の名前か。……あれ? 時永くんと名前の印象、似てる? 

 時間の名前だっけ、クロノメーターって時計、あったよね……?

 ――いや、うん。気のせいだ。きっと。


「じゃああまりメティスじゃ、お手本にならないねぇ」


  ――「残念でしたー。そういうことだから、人付き合いの経験談としては使えないわ。そういうのはむしろあなたの方が持ってそうだけど?」


「うーん……人付き合いの経験……って言ってもなぁ」


  ――「何よ、今までどこ行ったって友達ができたくせに」


「でもその場かぎりだよ、結局、引っ越したら連絡も取らなくなっちゃう。不思議だよね……」


 ……本当に不思議だ。

 わたし、時永くんとなら――離れても、別にいいかと思っちゃうんだ。

 だって連絡とるだろうから。普通に、縁はつながったままだろうなって、そう思えてしまうから。


 それも、ごく普通に……なんの疑問もなく。

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