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3.忘却の日々―②


「やぁ、おはよう」


 ……それはあの、「はじめて違和感を感じた日」から2日ほど経った日のことだった。


「あ……おはようございます」


 下駄箱の前でいきなり声をかけられてびびる。だって、こんな朝早くから親しげに声をかけられるなんて思わなかったから。

 確か、この先生の名前は……


「門が開くと同時に登校……偉いね、こんな朝早くから学校に来て勉強かい?」


 からかうように聞いてくるその人は、背が高めで眼鏡をかけている。

 確かこの人、説話担当の……時永先生だっけ。説話は好きだけど、担当してる学年が違うからあまりよくは知らない。


「……えっと……」


 昔はちょっと有名な人だったりもしたって噂だけど……まぁこうして近くで見てみると、割とイケメンだしまあ、有り得るよな。

 あれ……でもオレ……?


  ――「あぁ、こんにちは植苗くん」


 ……この人の授業、受けた事……ある?


「……。」


 時永先生は少し困ったような顔をして、次の瞬間。


「……いたっ」


 ぴしっと額が弾かれた。


「もしかして、早起きのしすぎで寝ぼけてるのかい?」

「……あ、いや、はい……実は昨日、ちょっと心理学の補習で宿題に出されたプリントを教室に忘れちゃって」


 なんだろう。今、何かを思い出しかけた気がする。――ちょっと、背筋がぞくっとするような笑顔を。


「取りに来なきゃ、と」


 時永先生はまじまじとこちらを見ていたが、やがて意外と子供っぽい笑顔で笑った。


「……そうか」

「え?」

「君が、植苗くんか」

「……え?」


 違う。何でだろう……

 何でオレはこの人に違和感を覚えてるんだ……?

 っていうかそれよりも。


「何で名前……?」

「やだなぁ、鞄に書いてあるじゃないか」


 ころころと笑う先生に思わずつられる。そっか……名前の書いた用紙をそういえば鞄のクリアポケットに入れてるんだっけ。いつも気にしないけど。


「それに僕らの間じゃ、説話の成績がすごい良い生徒がいるって評判だからね」


 説話の授業……


  ――「     」


 ふと思い出したのは、ある日の気温の暖かさだった。

居眠りする生徒。教壇の上から聞こえる、爽やかなテノールボイス……



「……植苗くん、説話さ、橘先生のところの授業クラスだろう?」

「えっ」


 ハッと気づく。……一瞬、()()()されそうになる記憶。

 でも、どうしてだろう。不思議と「思い浮かばない」。


「あ、れ……」


 具体的な情景がうまく。

 まるでそれが、「経験したことがない話」だったみたいに。


「あの先生、この学校には最初さ、現国の先生で入ったんだ。なのに途中から説話に入ってくれてね……素直にありがたいよ。おかげで僕も気兼ねなく休暇がとれるようになったし、体調が悪ければ早引きもできるようになった」


 「橘先生」……どんな先生だっけ……?


「だって考えてもみてほしい。キツいと思わないかい? いくら特別教科とはいえ、珍しい科目で人がなかなか集まらないとはいっても、ピンチヒッターがいないなんておかしな話だろう? 例えば僕がいきなり仕事帰りに蒸発したら一体どうするつもりだったのかとか、聞きたくなるじゃないか!」

「はあ……」


 ……いきなり蒸発、したら。





  ――「馬越、裏切っ……」

  ――「裏切った?」


 どこかで聞いたような会話が、頭に浮かぶ。


  ――「裏切る、なんて言葉は信用していた人物にするものですよ」





「……え?」


 すぐにかき消える記憶。まるで夢を見た後みたいに、形が掴めなくなっていく記憶。……今の、は……


「前は僕が休むたびに空きが出てたんだけどさ、代わりの人間がいるっていいよ、すごく楽だ」

「……。」

「って、君には関係ない話だったか、ははは。ごめんよ」


 ――説話の、授業。そういえば好きな科目の自覚はあるけれど、やっぱり授業風景が思い出せない。

 さっきふと思い出したのはなぜか時永先生の方だった気がする、あれはいつもの先生が休みでもしたのか、記憶がおぼろげだ。


「…………。」

「どうかした、植苗くん?」


 普段はどうだっただろう……どんな授業内容だった? 当てられたときの感覚は? 使っているプリントの内容は?


「……!」

「ん」


 鞄を開く。説話のプリントは入っていない。どこを探しても中身は違う教科のそれだ。普段の説話を思い出そうといてもなぜか霞がかかる。


「どうかした、違うものでも忘れた?」

「……いや、なんでもないです……」


 覚えているのはやっぱり断片的な会話だ。しかもどう考えても今話に出た「違う先生」の声じゃなくて、目の前の……


「あの、さっき。ふと思い出したんですけど」


 ――どうしたことだろう。喉が、変にからからだ。

 まるですごく緊張してるみたいな。


「なんだい?」

「オレ、あなたの授業――受けたことありますよね?」

「……あー。そうだっけ? ごめんね、一時期忙しい時期があったんだ」


 苦笑いして、時永先生は言った。


「もしかしてあれじゃないかな? ここに来たばかりの頃、授業風景の盗み撮りが流出して拡散されたことがあってさ。それがやたらと話題になったんだ」


 それは覚えている。というか今思い出した。確か、その内容がいかにも面白そうで……


「笑っちゃうだろ。――それをみたテレビ局からいきなり電話かかってきてさ、絵になるし面白いから特集組んでいいかとか、バラエティ番組に出てみないかとか言われて」



 ……見ていた。確かに。

 そうだ。きっかけになった盗み撮りの動画は何度も繰り返し見ている。

 あとそれがテレビに進出したとき。時永先生が普段何について話しているかとかのインタビュー。話題になっていると言われての困った表情。その後のちょっとした流行りっぷり。


 ……好きなタレントか何かみたいな感覚だったんだろう。実際すごく語り口が面白くて、親にせがんだ。

 「聖山学園に行きたい」と……


 そう、その時永先生その人は……今、目の前にいる。

 目の前で思いっきり、同じような表情で困った顔をして笑っている。


「――確かに何事も経験だとは思ったよ? 思ったけどさ、僕にそういうスキルなんかあるわけないだろ。ものの解説ぐらいはできるかもしれないけど」

「……でも先生、その。誰が見てもカッコいいし」


 なんで忘れてたんだろう。この先生がこの学校に入るきっかけだったんだって。あれ? でも、おかしいな。

 その記憶が確かなら、目の前のこの先生はオレの憧れだったはず……なのに喋ってて心がはずんでないのは……なんで……


「――カッコいい?」


 きょとんとした表情。さらに、ぶっ、と時永先生は噴き出した。

 噴き出す。あれ、こんな笑い方する人だったかな……


「ぷ、ぷぷっ……ああ、そうか、そういう子だったね。うん……そっか、それはどこが? もしかして見た目がかい? 冗談だろう! それだけでやっていけると思って声かけたんだったら、業界の人もちょっと目が曇りすぎてるってものだ!」


 どうしたんだろう……なんか、この先生……妙だ。

 「知っているものとイコールで結べない」ような。

 結んだところで、それが目の前にいること自体を「認めたくない」ような……


「見た目だけで売れるのはさすがに、写真やポートレート雑誌が戦場のモデルさんぐらいだろ! テレビで動いて売れるには、中身とかキャラクターが伴ってなきゃあ駄目だ」

「そう、ですかね……?」


 多分それに関しては伴っていた、ような……いや、でも。ものすごく何かが欠落もしていた、ような……。


「だって向こうが欲してるのはタレント枠だろ? 僕だとすぐに飽きられるのがオチだよ」


 ……違う気がする。


「それに僕、こう見えて子どももいるし、ほっとくつもりはないから時間がなくて、すぐやめちゃったし」


 あれ、そんなこと、前言ってたか……? いや、そもそも、すぐ辞め……あれ、分からない。「すぐ」って、どれぐらい……?


「――ノリすぎたかな。ごめんよ。混乱させたね」


 時永先生は少し笑って、呟いた。


「……ちゃんと自分の目で見ないと分からないこともあるもんだ。そう。君は――そういう子か」


 ……? なんだろう、この。



  ――「    」



 何かを思い出しそうで、すっからかんな……この感触は。


「でも植苗くん、補習っていうことはあれか……心理学苦手なんだ? ちょっと意外かな」

「そうですか?」


 分からないことが多い。そう思いつつ、昇降口を通り過ぎる。時永先生も同方向なのかついてくる……。


 ――どうしよう。なぜだろう。


 感覚が変だ。少し動悸がする。寒い。息が上がる。

 ……何もされていない。()()()()()()()()()()()()()()

 なのに「ついてこないでほしい」と考える、自分がいる……。


「――だって、説話の中にもたくさん人の深層心理が絡んでたりするじゃないか。教訓とか、特定の権力者に箔をつけるためとか、色々。僕はそれほど無関係な教科だとは思わないなぁ。むしろ関係が深い気もする」

「そうですかね……でもオレ、苦手なんですよ。専門用語とか、小難しい言葉ばっかりだし。考えれば考えるほど段々こんがらがってきちゃって」


 時永先生は苦笑した。


「説話もある意味小難しかったりするけどね。しかしこうして話してみると面白いなー、植苗くんって」



  ――「僕にとっては、逆に君が面白い生徒なんだがね?」



「えっ、あの……どこがですか?」


 なんだろう。


「どこがって言われても……」



  ――「どこがって言われてもねぇ。とにかく、面白いことこの上ないよ」



 なんだろう、この既視感……


「ああ……強いて言えば、その愉快な表情かな?」

「へ?」


 オレは予想した答えと違ったことに驚き、そして思わず安堵した。


 そう、違う。

 「あれ」と同じわけがないじゃないか。

 あれ。あれって、何だ……?



  ――「    」



 ……いや、いい。考えたくはない。

 まったく、なんで“前にこんなやり取りをした”なんて思ったんだろう?


 見かけることはあっても、授業をちらりと受けていたとしてもメインの先生じゃない。こんな風に喋ったのは初めてのはずなのに。

 ……なんで、そう答えるって確信があったんだろう。

 こんな具体的な予測が頭の中にポンッと出てくるなんて、今まではなかった。


「……そうそう」


 ニヤッとなんて笑わない。控えめに笑ったそれは、ひどく裏表のなさそうな。


「……そんなハトが豆鉄砲食らったような愉快な顔。なんか変わった受け答えでもしたかな僕?」


 ……少しおどけた表情だ。冗談めいた言い方も、朗らかさも。半端な既視感はどこにも存在しない。でも胃の中がまるで、消化不良を起こしたみたいに気持ちが悪い。


 ――なんだったんだ、いったい。

 そう思いながら歩いていると、ようやく自分の教室が見えてきた。


「……宿題片付けに来たんだったね」


 時永先生はそう言って、少し名残惜しそうに言った。


「これ以上僕がいると邪魔になっちゃうかな? ありがとう、お喋りに付き合ってくれて」

「あ、いえ……」

「早く来すぎてしまってさ、ちょっと気持ちがうかれてね。暇だったんだ。あっ」

「なんです?」


 すこしほっとしながら答えると、先生は首をすくめながら言った。


「そういえば君のクラスの補習担当の先生、確か()()()()だったろう?」

「えっ」


 ……犬飼、先生……


「あ、ああ、そう、でしたっけ?」

「ぼけっとしてるなあ。大丈夫かい? 彼、怒らせると怖いと思うよー? なんせバスケ部の鬼顧問! 彼の噂はそればっかりだ。……そう、間に合わなかったら」


 時永先生はこそ、と声を落とした。


「……彼らしい剣幕でカミナリとゲンコツ、落っこちるかもしれないね?」


  ――バスケ部顧問なめんな。これでも鬼コーチってあだ名があったんだぞ。


 ……あぁ、そうだ。確か、補習の先生ってそんな人だった気がする。

 一瞬違和感を覚えるも、そういえばそうだったと思いなおした。

 ……っていうか、どうして今まで()()()()()()()だと思いこんでたんだ?


「さて、ようやく頭が起き出してきたかな? 植苗くん」

「……ホントに寝ぼけてたみたいですねオレ」

「どう見てもそうだろう」


 とにかく、怖い先生ではあるはずだ。あぁもう、オレってばなんで宿題忘れちゃったんだよぉお……


「あ〜……」

「ぶっ……」

「何ですか」

「い、いや……その、そんな脱力したっていうか、情けないっていうか。そんな顔するイメージなかったからさ」


 イメージってったって、そんな喋った印象ないんだけど。だって授業もメインは違う先生だったはずだろ? 1人、脳内で沈没する。ああ、早くやらなくちゃ……ヤバい、死ぬ……ころされる……時永先生はあっはっはと笑った。


「じゃ、怒られないように頑張りなよ!」

「あ、はい!」


 気になることはあるけれど、時永先生ってなんだか結構()()()()()()()()()()()()()だな……


「あ、そうそう。」

「先生? あの……まだ何か?」


 またふと思い出したように声をあげた先生は自分を見つめる。


  …… 一瞬の表情だった。


 先ほどの冗談交じりの顔とは違う……真っ直ぐな、真面目な顔。

 しかし、その顔はゆるくまた微笑みに戻る。


「……君、学校の外でさ」

「はい?」

「僕と」



  ――「    」


 何かの一場面が脳裏をかすめる。

 ……背中。多分それは、去っていく、時永先生の背中。


「――僕と会ったこと、あるんじゃない? 覚えてないだろうけど」

「え?」


 確かに不思議な既視感はある。


「家に、遊びに来たとか……僕と、物の貸し借りをしようとしたとか」


 ――ちょっと待って。


「……花が綺麗だとか……確か、僕から誘った」

「何言って……」

「そうだね」


 どこかで、知っているような気はする。その話を。……でも。


()()()()()ならいいんだ」


 見覚えのある笑った顔。笑ったままの、強い口調。


「じゃ、また」


 そう言ってその場を立ち去った時永先生を……その時はなんとなく、呼び止めることが出来なかった。


 ……背中。手を伸ばした感触。知っている。どこで?

 届かない、いや。届いてはいけない。あの領域に足を踏み入れてはならない。

 でなければ、オレは失くしてしまう。

 何か大切なものを。大切だったはずの全てを。

 そんなもののような。そんなもの、だったような。


 ……なんだか。おかしい。歯車が噛み合わない。何故だか、すごく。


「オレ、なんで……?」


 どこかであの先生が、「怖い」。




   ――  ――  ――



「……よし、なんとかうまくいったみたいだ……」


 立ち去りながら、思う。体が重い。心臓がばくばくする。……廊下の角を曲がり、真っ先に説話資料室に入り込む。

 そうして誰もいないことを確認すると、時永はほっと胸をなでおろした。


「ミコトの仕業なのかクロノスの仕業なのかわからないけど、まさかあれほど互いがまったく会話を交わさずに済むようにうまいことポジションを決めてあるなんて思わなかったかな。っていうかなんで僕が彼のクラスの担当から外してあるんだ? しかも確認してみたら橘さんだぞ、彼の担当……」


 公立とは違い、私立の学校はリターン率が高い。つまり、卒業生が教師業を選んで先生になった場合……


「……自分の同級生に教わってて何も違和感ないのかあの子は……!」


 こんな事態が発生する。

 ……いや、これはミコトの世界だけでの話だろう。何せイツキの知っているこの学園とミコトの知っている学園には時間差がある。たまたま共通の知人がいただけで折り合いがつかなくなる、そんな突発的な事故だ。


 しかしやはり、ひどく緊張していたのだろう。

 ぶわっと長い独り言が彼の口から垂れ流される。……それを気にするような人間が今のところ、その場に1人もいないのが幸いだった。

 誰かに聞かれていたらそれこそ弁解が大変だし、へたすると噂にでもなって「ミコト」に感づかれてしまうかもしれない。

 今の彼女を刺激するのはさすがにリスクが大きい。何がどう転ぶか分からないのだ。次に全部無かったことにされたら、それこそたまったものではないのだから。


「……でも、あの2人に情報を与えれば結構容易に世界が改変できるって言うのが唯一の救いか」


 “情報を与えれば容易に世界が改変できる”。

 この世界の創造主であるミコトに対してならわからなくもないが……なぜ、創造主ではなくこの世界に飲み込まれてしまっただけの第三者、イツキやイヌカイに対しても当てはまるのか。


 ……実はその理由は、単純な話だがミコトの知識不足にある。


 基本的にこの世界はミコトの記憶や知識、経験などを基に成り立っているのだが、時永家の生活くらいならまだしもイツキやイヌカイの元の生活まではさすがのミコトも頭は回らない。日頃の読書で培った想像力にも限界はある。

 ……何故なら2人の細かい家族構成、2人の過去にいた友人すら、まったくミコトの知識には存在しない。ぽろっとこぼしたようなフリートークまで拾うのは限界があった。

 だからミコトは2人を世界に取り込んだ瞬間、2人の()()()()()()を『ある程度』この世界に反映するように設定したのだ。

 ……つまり。


「……彼らの認識とは少し違う情報を彼ら自身に教えることで、この世界に少しずつぐらいなら干渉出来る」


 ()()()()の方をどうにかしてしまえばいいだけである。

 だって今ならガバガバだ。無理やりミコトの世界に組み込まれたようなものだから、彼らもまだこの世界に染まっていない。

 慣れていない。つまり全容を把握できていない。

 ミコトの世界と彼らの自己認識……その接合点が曖昧で、噛み合わない。まだうまく合致していない。


 つまりこの世界との矛盾点……思い込みとの接合部を突けば勝手にボロボロとエラーが発生してくれるわけだ。


 当然、彼らの脳みそも矛盾を矛盾で終わらせるわけがない。埋め合わせの処理には少し時間がかかることになるわけで……そのどさくさに紛れて「都合のいい話」をいくつかつっこんでおけばいいだけの話なのだ。


 ……世界の改ざんを繰り返して、活動の足場を作る。空白や矛盾を埋め合わせて、ミコト同様に都合のいい()()()()()

 たとえここが彼女の箱庭であれ――てのひらの上であれ、出来ることからやっていく。


 その為には、きっと……


「えっと、次は」


 既に疲れた顔をしている時永はおもむろに机を探り、校内案内図を取り出して机の上に置いた。


「……犬飼先生を補習授業前にうまく研究室前で待ち伏せて……いや、もっと手前がいいか? うーん、こっちもうまく誘き出せればいいんだけど……」


 一瞬の間があり、ふと思いついたように時永は人差し指と親指を『職員室』の文字の下で交差させる。心理学研究室よりも手前の廊下。

 今思いついた方法は少し、わざとらしい気もするが……まぁ、大丈夫だろう。

 一度くらい失敗したって時間はまだ少しならある。

 とにかくやってみよう。


「……駄目だったとしてもトライアンドエラーだ。切り捨てるしかない。でないと今、植苗くんにした事が無駄になりかねないしね……」


 下手な鉄砲、数打ちゃ当たる……

 そんなことを心の中で呟き、時永は机の中に校内案内図をしまうと……少し息を整えて、またその場を後にした。


 ……ああ、緊張する。当たり前か。

 だって僕は彼らを追い詰めた犯人で、かつ。


「――こうして彼らに出会うのは、実感的には()()()に近いんだものな」


 知っているのと、実際会うのとでは感触が違う。……人となりは何となく知っている。ミコトに対したそれと()()()()に対したそれを、主に。

 だが、自分の問いかけに答えるその感覚は知らない。相手が自分をどういう人間だと解釈するか、知らない。


 そうか、僕は……


「はじめましてなのか、あの2人と」



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