11.過去への分岐点
「例え本の中じゃなくても、世の中は楽しいことだらけなんだ」。
……私はそう日記に付け足してため息をついた。
ようやくここ数日のことが整理できたかもしれない。
あれから、一週間弱。
何食わぬ顔でしれっとあの人の失踪届けを出しにいった馬越さんをよそに、私は日記を読み返しながら一言ものをつけたりしたり、消したりと……まるで作文の添削のようなことをしていた。
前述の内容だ。
父親がいなくなったにしては、なんだか変な終わり方だけれど。
私は苦笑する。……そう書くしかなかったのだ。
私が知ったあの男の一面は自分が理想としていたような、模範の父親ではなかった。
誰もが居なくなってせいせいするような、そんな人間だった。
だから、これでよかった。
……これで、よかったんだ、きっと。
未だ引っ掛かる何かをよそにそう自分に言い聞かせながら、私は自分の日記を閉じた。
紙を差し込むタイプのこの日記帳には、もう紙が挟まる余地もなければ書くスペースも残っていない。
そろそろ新しいものが必要かと思う。
ノートかなにかがあれば、続きが書けるんだけど……
そう思いながら私は日記帳同様、小説やノートでパンパンの本棚を見上げた。
と。
「何、あれ……?」
目線を下にずらしていく。
すると本棚の下。壁と本棚と、床の隙間に……何かが挟まっているのが見えた。
掃除をするにしても見落としがちなその隙間には、見覚えのない赤い手帳が挟まっている。
あれは何だろう? 買った覚えなんて一つもないけれど……
「……日記に、使えるかなぁ?」
中身に何か書かれていたら、きっと使えないんだけれども。でももし書かれているとしたら、何が書いてあるんだろうか?
そう思いながら床に手をつき、本棚の下に手を伸ばした。
そうして自室にありながらまったく見に覚えのない不思議な手帳をようやく掴み取ると、私は知らず知らずのうちに笑みを浮かべてしまっていた。
なんとなく、わくわくしていたからだ。
……もしかしたらこれもまた……
新しい不思議な何かへのキッカケなのかもしれないよね……?
「……あれ」
私はその時、ふっと気付いて呟いた。
「やっぱり何か、書いてある……?」
……それが、本当に新たな物語の始まりになるとも知らずに。
【(現時点での)キャラクター紹介】
・時永ミコト
聖山学園中等部3年3組、15歳。
身長156cm。外見としては長いポニーテールのような髪型が特徴。
基本的には大人しく自己主張の少ない性格で、学校でもほとんど友人を作らず本を読んでいる変わり者。時永と違い人間嫌いなわけではなくむしろ人間観察等は好きなタイプだが、それでも学校の人間と表面的な付き合いしかない理由は主にイツキとイヌカイ、特にイツキへの精神的な依存度が高いせいもあるかもしれない。
はじめての友達が人外でしたし優しいんです!この人しか目に入らないんです!
……みたいな状態なのかと。
イヌカイのことは年の離れたお兄さんレベルに思っているので友達というのともまた違う気がする。