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2.再会のゴング



「へえ、驚いた。2人とも谷川さん知ってたんですね」

「「あんたもか……」」


 呆れが多分に入ったイツキとイヌカイの言葉。

 そう、最近なんとなく解りかけてきたが、この時永――基本、分かりやすい嘘つきだ。「どこがどう嘘なのか」の細かい部分は分からなくても、変なところでらしくない白々しさが出る。

 今の発言は『()()()』と言いつつ『()()()()』のルビが上に振ってあるのが、うっかりみえるくらいの胡散臭さだった。


「ええ。彼女はその、大学のときの友達で。……で、谷川さん? 犬飼さんは今の僕の同僚で、植苗くんは」

「はっはーん……同僚ってことは、暫く合わないうちに元くんも先生? いっやぁ、感慨深いなぁ!」


 時永はおや、という様子で谷川を凝視した。

 ――()()()()()()()

 谷川はするりとイツキに目線を移す。


「ねえねえイッちゃん、この犬飼先生さー、変なことしてない?」

「変なこと?」

「ほら、授業サボって視聴覚室でテレビゲームしてたりとか!」

「えー」


 イツキは意外そうな目でイヌカイを見た。

 「やるの?」という疑わしい顔だ。


「ご、ごごごご誤解だ! 谷川先輩!? あの、大変申し訳ないんですが高校時代の黒歴史を生徒に教えるのはやめてくれませっ……あだだだだだだだ!」


 時永とイツキはあらためてその後ろに目線を向ける。

 二人して「どうせイヌカイだから死にはしないだろう」とたかをくくっていたのだが……。


「……ただの関節技か」


 その失礼な認識は間違いなかったらしい。やっぱり大丈夫そうだ。


「……なーにが黒歴史だバーカ!」

「痛い痛い痛い! 何だっつーんだいきなり突然!!」

「視聴覚室の立てこもり事件、割とノリッノリだったくせによ~! ねーポチカイくん!?」


 ダメージが通りづらいイヌカイとしては、あるあるネタの「痛いフリ」。

 それはともかく、精神的なダメージなり、反応は別だろう。

 イヌカイは今にも耳を動かしそうな表情で振り返る。ニヤッと笑ってパッと放した手。長袖のフリース。その下に着込んだ黄色いシャツ。


「お前、は……」


 一見パッとしない男。ええ、その名も。


「ハァイ! タコに目がないタコ人間! 好物タコ焼き技タコ殴りのあだ名はタコさん! 佐田秀彦精神年齢28歳! 以後お見知りおきオクトパス!」

「……存在全てにツッコませろ」


 げっそりした様子でイヌカイは呟いた。

 ――ああ、分かってた。分かってたさ。この困った先輩がいるなら、こいつもその辺にいるだろうよ。未だに仲良さげだし。


「どんだけタコ好きなの!?」

「ヘイチェケラッチョ、良い反応だ少年!」

「何がチェケラッチョだ。テンション高すぎんだろお前」


 中肉中背の短髪男はニヤリと笑う。

 濃いキャラクター性とは裏腹に、正直ついさっきまで谷川近くにいたことにすらまったく気づかなかったほどの影の薄さだった。

 イツキはハッとする。……これか? さっき言ってた存在強度って。


「ってーかポチカイくん元気ぃ!?」

「ぎゃああああ」

「今何やってんの、環境破壊!?」

「ああああ!! いや、生きてりゃ生きとし生けるもの環境破壊しまくってんだろうが!? おい、一言発する都度頭ぐりぐりすんな、放せ馬鹿、おいこら!」

「はっはあ、なんかがっちりしてんな、相変わらずなんかやってんの、うん?」

「やめ、やめろ……死ぬ、死ぬから俺の毛細血管が!」


 イツキは「ははん」とした顔になった。……なるほど、知り合いだから強く出れないんだ。イヌカイ、たぶん今の馬鹿力で本気で振り払うと怪我をするから。


「なんだその生ぬるい視線!?」

「いや別に」


 イツキは半笑いで目をそらす。

 すると……。


「……そう、だよな」

「?」

「ああ、いや待て、タンマ」


 イツキはぎょっとしてそれを見る。

 ……突然、イヌカイが目頭をおさえたのだ。


「お――おいおいどうしたよ~、何泣いてんだバカー、うんー?」


 時永は苦笑した。

 そのまま、目を丸くしたイツキにそっと耳打ち。


「緊張の糸がとけたのかもね」

「?」

「本来の犬飼先生に戻ったんだよ。13年間、ずっと彼は非日常に身を置き続けたわけだし。植苗くんの前でずっとつっぱってきたわけだ」

「……あー」


 合点がいったイツキは頷く。そういえばこの声、聴いたことがあった。

 イヌカイが時永邸で掃除しながら聞いていた、夕方のラジオ。あれは……。


「……オレより、戻りたかったんだもんなイヌカイ」


 未練とか、後悔とか、そういうものより――もっと単純な感情だったかもしれないけれど。


「い、いや、なんだ……その、お前もいたことにビックリしてな……ってかうるせーよバカバカよぉ。バーカバーカ! お前こそなんだバーカ!! 千回岩に叩きつけて弾力なくすぞコラーあ!」

「うっわ! ……やだなーお前、昨日の世界のタコ料理特集みてたの? どこでオレの仕事スケジュール把握してるわけ? どこのヤンデレファン?」


 千回叩きつけるのはギリシャだね、などとどうでもいい時永のプチ情報を聞きつつ、イツキはぽつりと呟いた。


「……未だに情緒不安定なのかな、この人」

「……まあ、環境のせいだろうね」


 『ってことはあんたのせいだよ!』。ぐりんと振り返り、そうイツキは目で訴える。

 すると意外なことに時永も視線を返した。『うん知ってる』的なアイコンタクトだ。

 いや「うん知ってる」じゃないから。


「……え、えっと……その、だな……」


 顔をぐしゃぐしゃと拭いつつ、一歩引いてこそこそ喋るイツキと時永にようやく気付いたらしいイヌカイは口を開く。


「……2人とも、谷川先輩とは面識あって、佐田とは面識ないのか?」


 時永は首をすくめた。


「ああいや、僕は一応谷川さん繋がりで面識あるんですが……ね?」

「そっすね。時永さんも久しぶりーっす」


 へらへら笑いながら佐田はいう。


「また車に轢かれてやしないかと思ってたけど、どうやら大丈夫そうで? これで安心して明日もタコが食えますよ」


 時永は苦笑を返した。


「……ほっといても食べてるでしょ、君」

「バレましたー?」

「君はそういう性格だ」

「ムぅぅッ、あなたがオレの何を知ってると!」

「いや特に何も。謎の海洋生物だとしか」

「海洋生物!?」


「はいはいストップ、ストーップ。話すんだったら立ち話じゃなくてどこかお店か何か入った方が良くない?」


 置いていかれ気味だったイツキの言葉に、男三人がハッと存在を忘れていたように呟いた。


「「「……しっかりしてるな最年少」」」

「……。あんたらがおかしいんです」


 紅一点、谷川はクスッと笑う。


「全く変わんないね、()()()()!」




  *   *   *   *




 ……と、いうわけで。


「おい、やめろ佐田、ジョロウグモの垂れ下がった枝をこっちに持ってくんな」

「犬飼こそデッカいバッタこっちに投げつけたろうが」

「見てカナヘビ」


 時永が呆れたように呟く。


「なんで野生動物捕獲合戦になってるんです、いい大人が……」


 イツキが列の後ろから注意を飛ばす。


「はいはい、じゃれ合わない、歩道狭いんだから。あと時永先生は手の中のテントウムシ放してから文句言おうね!?」

「なんで植苗くんがしきってるの」


 協議の結果、イツキ・イヌカイ・時永のトリオと谷川・佐田コンビの5人は少し離れたラーメン屋へと向かうことに決めた。

 イヌカイ以外の全員がその店を知っていて、かつこの辺りでゆっくりできそうな場所ということで真っ先に話題にあげたせいだ。


 イヌカイだけは「えっ、ラーメン屋でゆっくり!?」という反応だったが、基本ランチタイム以外は閑古鳥が鳴いているというイツキの情報でとりあえず納得したらしい。


「採算合うのかよ」

「仕事ってより趣味だからあれ……」

「あと僕、結構()()()ましたからね」

「時永くんがお金落としたって言ったら億ぐらい落としてそうな気ぃする」

「何でですか」


 ……そんなやりとりがあって、暫くの移動時間。

 最寄駅からの坂道を登りながらイツキは言う。


「っていうか……時永先生が大学時代、じいちゃんとこの常連だったなんて初耳ですよ」

「僕もまさか、植苗くんがあの店主のお孫さんだったなんて思わなかったよ」

「世の中、どこで繋がってるかわかりゃしねぇな」


 そう言いながらため息をついたイヌカイは佐田をチラリと見やった。


「で、相変わらずタコキャラなんだな? 自己紹介から趣味からバスマットの柄まで存在全て」

「……タコキャラってなんだろう……」


 イツキのもっともな疑問。

 時永はさも、分かりきったふうに頷いた。


「もうあれは気にしたら駄目だ、植苗くん。感じるんだよ」

「……宇宙を?」


 佐田は胸を張る。


「そりゃもう。演技とタコにオレは永遠の愛を捧ぐね!」

「そんなものに捧ぐよりも、まずは早いとこお嫁さん見つけなさいって。そろそろ親が泣き始める時期なんじゃないの?」

「えー痛いトコつくな先輩」


 谷川がしれっという。


「ウン、君は存在全てが痛いから……」

「その『存在全て』シリーズそろそろやめて!?」


 ラーメン屋が見えてくる。

 いや、なんでこんなことになってるんだろうか。

 イツキは大所帯を見ながら暫し悩んだ。


「……あ。イツキじゃないか。どうした?」


 ――昔より、ドアベルの錆びた音。

 中はやっぱり、うまい具合に閑古鳥が鳴いていた。暇そうにしていたラーメン屋店主はイツキの後ろにいた4人をみて少し目を丸くした。……まさか、この組み合わせで来るとは思わなかったのだろう。


「突然で、悪いんだけど」


 なぜか気恥ずかしい気持ちになりながら後ろを指したイツキの言葉に、店主はため息で返す。


「……ま、別に良いが……何にするんだ?」

「んじゃオレ醤油ラーメンっすー! あとサイドメニューのピリ辛タコキューね!」


 佐田が一番に手を上げる。


「……じゃ、俺は味噌ラーメンで」

「あたしはとんこつ。っていうかおやっさん久しぶり」

「なんだ谷川か……元気か?」


 店主が伝票を片手に聞くと、谷川は笑って答えた。


「元気元気。最近忙しーの!」

「そうか、無理するんじゃないぞ。キャパシティ越えるといきなり熱出してぶっ倒れるのがお前の特徴だからな」


 イツキはハッと気がついた。……覚えがある。小学生のときに当時大学生だった谷川を見かけなくなった際、祖父に声をかけたのだ。



  ――「ユキ姉ちゃん今日はいないの?」


  ――「ああ、今日明日はお休みだな」


  ――「なんで?」


  ――「文化祭があったからだろ。キャパシティ越えると熱出してぶっ倒れるのがあいつのクセだ」



 ……イツキは納得した。やっぱり、目の前の祖父が精巧な偽物で、「本物」ではないというのはそういうことだろう。

 見た目、声、性格、ちょっとした癖……どんな情報も自分、イヌカイ、ミコトのどれかの既存の記憶から拾われているということだ。


「で、あんたはどうする?」


 注文票片手の店主に普通に聞かれ、時永は少し考えて答えた。


「……塩ラーメンお願いします」

「あいよ。彼女も好きだったよな」


 時永は苦笑いをかえした。


「そうですね、来ては塩ラーメンばっかり食べてた気が」

「彼女はどうしてる?」

「…………。」


 苦笑いしたまま、首を振る――それを見て察したらしい店主は少し間を置いて続けた。


「あー…………。まぁそんなこともある。で、イツキは?」

「半チャーハン」


 イツキがそっけなく答えると店主は頷き、ピッチャーの水を出してすぐさま奥へと引っ込む。イヌカイはそれを確認すると谷川と佐田を交互に見た。


「で。……何で2人揃ってあんなところにいんだよ」

「近くに大きめのコンサートホールがあるだろ」


 自分のお冷やを注ぎながら佐田は言う。


「そこでオレ達の劇団が舞台やることになってさ」

「あれ? 谷川先輩って確か、演劇やめたんじゃ……」

「最近また始めたの☆」


 お冷を慣れた手つきで全員に回しつつ、谷川がニヤッと笑う。

 それを見たイヌカイは少し考えこむ。


「何ー?」

「いや」

「そういえばユキ姉ちゃん、演劇部やってなかったっけ」


 胡椒、ニンニク、生姜の後入れセットを真ん中に置きつつ、イツキがさらりと会話に参加する。


「よく賄い食べながら練習してたよね」

「イッちゃんよく覚えてるねぇ」

「コンサートホールって……もしかして駅の南にあるアレですか?」

「そーそー、大通りの突き当たり」


 ……ああ、あれか。

 イツキは納得した。――駅前から南に伸びた大通り。その突き当たりにある【パルテノ】は確かに、この辺りでは一番大きなホールだ。ライブハウスや劇場の少ないこの界隈では唯一の「演劇っぽい場所」だった。

 あれを除いてしまうと確かに、周辺大学や聖山の講堂を一瞬借りる程度しか選択肢が思いつかない。


「あんな大きなところで舞台公演……なかなかに強気というか、豪勢ですね」

「豪勢っていうか本当にないからさ、この辺」

「それに埋まるなんてサラサラ思ってないしなー、ドタキャンとかもよくある話だし?」

「……席埋まらなかったところで何も思わなさそうだよなお前ら……」


 イヌカイが呆れたように言う。イツキが氷を噛みながら口を出した。


「設備とかは別にいいんだけどさ。問題は内容だよ。どうせ来いっていうんでしょ」

「……。そうだね、どんな話を?」

「うーん。どう言えばいいんだろ、独特だからあれ」


 ……何をやる気だ、記憶にある演劇部の空気と同じならこの感触、絶対コケるぞこれ! イヌカイは今の段階でろくでもない空気を察知し水をあおった。

 佐田がじとっとした顔をする。


「……何だよその顔」

「別にー」

「何だよその『100パーセントコケるわお前』みたいな顔」

「そこまでひどい顔した?」

「したした」


 と、その時。

 テーブルにラーメンが次々と置かれた。……まあ、まずは積もる話よりも食事だろう。


「普通にうまそうだな、ラーメン」

「そりゃうまいよ。作ってるの、オレのじいちゃんだし」

「そういう植苗くんはラーメン頼んでないけど?」

「いっただきーぃ」


 ぱん、ぱりっ。

 割りばしの乾いた音があちこちから聞こえだす。

 シンプルな塩はさておいて、味噌はトッピングが凝っているので手間がかかるはずだったが、思っていたより早い。時計を見つつ、イツキが苦笑いしながら呟いた。


「……暇だからって作り置きしてたなじいちゃん……」




  *   *   *   *




「知ってるか? こいつ高2ん時授業中にヘリウムガス吸って授業受けてさー?」

「そうそう。その噂、あたしの学年にまで轟いてたよ」

「ちょっと待て佐田、誤解を招く言い方はやめろ。まず俺一人なわけないだろうが」


 その後、完全に事態はややこしい方向に向かいつつあった。麦茶を飲みながらしかめっ面で時永は頭を回転させる。


 谷川と佐田の共犯で、イヌカイの黒歴史暴露が加速しまくっていたのだ。そしてイツキには止める気もない。むしろイツキからしてみれば相棒の弱みを握れる面白い時間だったらしく、どんどん火に油を注いでいた。


「お前もやっただろ。というか生徒の前でバラされる俺の気持ちも考えろよ。一応先生の威厳ってのがあるんだよ? わかる?」

「威厳とか一番遠いワード言うなよ犬飼、どうせカケラもないんだろーし」

「か、カケラも……なっ、なんだとぉー?!」


 あー、先生っぽくはないですよねー。と、そんな会話に適当な相槌をうちながら考える。

 これは……向こうがそろそろ手を打ってきたと考えればいいのか?


「元くんって学校だとどういう感じ?」

「なんていうか、堅物?」

「か、かたぶッ……!?」

「ふざけてはいるんだけど、頭、かたい?」

「ぷははは! 堅物ってキャラじゃねえ!」


 先ほどから谷川と佐田、双方に妙な違和感がある気がしてならない。


「いや爆笑すんな、いいだろ別に! 俺だって真面目なときは真面目にやるんだよ!?」

「――犬飼先生、何、あれ真面目だったわけ?」

「いt……げほん。あー、植苗植苗? 何を言おうとしてるのかね君、ちょっと待ちなさ()()()()()

「あーそうそう、有名なエピソード思い出した」

「時永並に白々しいのよお前」


 ……うん、僕が何ですって?


 真顔でイヌカイの鳩尾に手刀を突き刺したイツキは谷川を見る。


「ねえユキ姉ちゃん」

「何?」

「交換条件。オレがこれ教えたら犬飼先生と付き合ってた頃の話とか教えてくれる?」

「うっわーやめて! 谷川先輩マジでやめて! 俺もうどんな顔して教壇に立てば!?」


 時永は半分うわの空で麦茶を飲む。

 ……確かに自分、イツキとイヌカイに対しての記憶は保有しているようだが、どうもそれだけではないあの言葉。


 ――「はっはーん……同僚ってことは、暫く合わないうちに元くんも先生?」


 ……数時間前、谷川が口走った言葉だ。

 確かに、と時永は首をひねる。

 自分は「先生」と呼ばれる立場にいるわけで。

 ああ、細かいことを言えば、特別講師だなんて中高の枠組みではない教科を教えるために招いたゲスト的なものだ。

 教員免許がなかろうが、とりあえず就くことは可能なのだが。

 ちなみに「犬飼先生」も同様の立場である。


「……うーん」


 しかし、ここで思い出してみると、妙なことに気づく。

 谷川と自分が最後に出会ったのは、「大学の卒業式」。それも、「人を教える立場に立ちたい」などと言った覚えは全くない。


 「これから何をするのか?」。

 そんな問いかけに、何も返さなかった。

 ――「秘密」、と言ったのだ。


 『時永くんは先生とか似合いそうだよね!』なんて、未来予測じみた会話くらいはあったのだが。それにしたって何か違和感がある。


「……だったのよ!」

「えー! うっそぉ!!」

「もーやめて!谷川先輩! 俺のライフはもうゼロよ?!」


 そして、もうひとつ。

 【時永 誠】は実をいうと、この世界ではそれほど有名でもない。

 この世界の基となった地球では、『キャラが変に濃い』せいでタレントとして死ぬほどブレイクしたようだが、ミコトの中では「()()()()()()」になっているようだった。いや……時永自身もそれは全力でなかったことにしたかったので、そのへんはほっとしているのだが……。


「谷川先輩ホント勘弁してくださ……」

「あっ、それでねー」

「ねえええ聞いてよ先輩―! ねえ。ナチュラルに俺を縛りつけといて話を続行するのやめてくれる?」

「演劇部の先生が買収されてね」

「その話はマジでやめろ」


 だから。――そう、だからこそ、近況を知っているのが納得いかない。

 人づてで聞いた? ……いや、それもまた違う。

 付き合いの悪い【自分】だ、落川や七生とも卒業後には完全に縁が切れている。

 ……自分のその後を知る友人なんて殆ど存在しない。そもそも自分に友達なんていない。

 っていうかいるわけがない。あの状態を自分で客観的に見て。


「で、ユキ姉ちゃんはその時どうだったのさ」

「そりゃもう割とときめいちゃって、最初この元くんねぇ……」

「ぐあああああああああ!!!!!」

「へー、そんなことがー」


 突然、目の前に現れたこの2人は、どうして知りようのないことまで知っているのか?

 考えられることは一つ。


「も――やだ――――!! 皆して俺をいじめるうううううう!!!!」

「犬飼あんま大声出すなよ。ひっくり返った水は戻らねえんだから」

「誰がひっくり返してんだ誰が!!」

「あと生徒さんには聞こえてるっぽいぞ」


 ここまで察した自分も、きっと知りようのない知識をいつの間にか使っている。……つまり、「同じ」なのだ。

 彼らは自分のように……クロノス等、外部の人間から自由に情報を引き出せる立場にいる。

 そこまで考え――時永は肝心なことを、いつの間にか察してしまっていることに気づいた。



「……なるほど」


 そう。……つまり彼らは敵なのか、味方なのかということを。


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