41.遠くの「君」へ 8年目・11月末
・2017年11月29日(水)
……最近、つらつらと思うことがある。
わたしは、幾度もみる夢の中……メティスとクロノスの会話の中。
大きくなったミコトを映した夢の中。
以前のように「なんとなく」というわけではなくって、ハッキリともう気づいている。
その世界に、「今のわたし」はいないんだ。
その世界では、「今の誠くん」がいないんだ。
……いつから?
それは既に、いや「とっくの昔」にリアルの延長線上になっている。
リアリティをひっくり返せるだけの自信はもうない。
いったい、何のためにあの夢を見たのか、見させられたのか。もうそれすら分からない。
だって――結局は、変えられなかったんだから。
そりゃあ、これが戦略ゲーだったとしたら……勿論わたしだって挽回の目を狙いたい。
けれど、多分だけどさあ。
息をつく。もう、直感が言っている。
――「駄目」だって。
相手の最終目的に気づくのが遅すぎたんだ。
たまたま自己肯定をしすぎたんだ。
それがクロノスの目論見と合致するから、泳がされていたっていうだけだった。
それを、見て見ぬ振りした時点で終わっていた。
――『勝負しよう? クロノス』
……彼の中の神様に喧嘩を売った日。
後悔なんてもうしないけれど――ただ、あの頃のわたしって、すっごい元気だったなあと思う。
恋は盲目、だ。
彼のために何かをしたい。
困っているなら、助けたい。
それだけだった。
出会ってから今まで、ずっとそう。一貫してた。
わたしにだってメティスがついている。だから慣れている。
相手が同じような神様なら、何もできないことはないでしょ? ……そう、思ってた。この人のためならなんだってできるって。
それぐらい、一生懸命だった。
でも、そもそも、おかしかったわけだよね。
最初から、あの神様の「てのひら」の上だったなら――神様と人が同じ『盤上』で、同じ種目の勝負になんて、なるわけがない。
なかったんだよ。
前提がまず違っていたんだもの。
誠くんの中身を壊すこと。
彼自身が不自由を感じなくなること。
問題を解決しないこと。
問題を乗り越えて笑えるようになること。
彼自身が、幸せに、「リラックスして振る舞えるように」なること。
それらはぜんぜん、全部が、矛盾しなかった。
クロノスの中ではちっとも矛盾しなくて――ただ、わたしと誠くんの中では、絶対的に、かつ、決定的な矛盾を孕んでいた。
『人間』の中では矛盾している。力を加えている『神様』の中では矛盾しない。
だから悲劇性が生まれる。全く新しい概念が適用される。
だからこそ――ひとつの生き物の内部に、亀裂がはしったの。
右手くんは徐々に生まれて、徐々に膨れて――誠くんを飲み込んでいった。
家にいるときにしか、『主人格』は意識を保たなくなった。
わたしが最後のトリガーとなって、わたしがそこにいるという条件で――今の主人格は意識を保っている。
彼が足をもつれさせるのは、体の内部を侵略されるからだ。手足の神経に、矛盾した「違う信号」が届くからだ。
もうそれは止められない。
ああでも。なぜだろう。
未だに、仮想のプレイボードの向こうに「負けてる」ような気はしないのは。
夢で見た、あの「青い衣の少年」が――ふと、こちらを見ているような気がした。
それはクロノスだ。――髪の色も目の色も違うのに、出会った頃の誠くんによく似た雰囲気の、男の神様。
あたりまえか……。
他でもない誠くんを、地球への干渉の窓口にしているんだもんね。
メティスがわたしを通して「地球」を見るのと一緒で、魂の造りが同じじゃなければ――基盤が同じじゃなければ、過干渉は出来ない。
わたしもきっとどこか、メティスにそっくりなところがあるんだろうな。
ああ――お姉ちゃんみたいだ、って言ったこともあったっけ。
……そう、負けた気が、しない。
わたしにはまだ、女神さまがついている。
不器用で優しい、ちょっと天然な助言の神がついている。
彼女は夢に出てきた。未来をちゃんと生きていた。
ミコトを、どうやってか――見守ってくれていた。
わたしがいなくても、その女神は地球を見ていたのかもしれない。
わたしという「窓」がなくても、むずかしくても。
根性と気合で――接続の不安定な地球と、ずっとコネクトし続けたのかもしれない。
だからわたしは「夢を見た」んだろうか。
ずっとメティスと、心の底がつながっていたから――メティスと同じで、何かの糸と糸を、無理やりつなげていたんだろうか。
その夢の先はいつもミコトを映していた。
その世界の中心人物を、まざまざと――時折雑音を発して。
……ねえ、君に聞いてみたいよ、ミコト。
わたしのこれは何? 君も知らないのかな?
ああ、なんだか――嫌だなあ。
「ぱぷぷー」
「――もしかして立つのかな? よし、おいで」
今、わたしの目の前にいるあなたは、ずいぶん楽しそうなのに。
「っだー!」
ガッツポーズまでしてるのに。
「ちょっ、美郷さん今のみた!?」
「……ミコトがズボンつかんでるせいで、君のお尻が半ケツなのは見た」
「そこはみなくていい」
誠くんにつかまり立ちして、嬉しそうにしているのに。
……いつから君は、あの夢みたいな寂しがりやさんになるの?
……ミコト。
可愛いわたしたちの「世界の子」。
未来の世界を映す、どこかの世界の女の子。
「んまぅ」
その子は今、わたしを指差している。
彼は笑った。
「ん。ママなんか書いてるねえ」
……ふと、いま、思ったよ。
「……ねえ、ミコト。もうちょっと大きくなったら、何を書いてるのか見せてもらおうか?」
「……」
……君がちいさい時に泣いていたのは、名残かな?
今、そこで。誠くんとあんなにも仲良くしている、その残滓なのかな?
――『おうちはあったけど、誰もいなかった』
雛の亡骸を手にした、あの泣き声は。
――『だから、私と同じだとおもって』
――『……興味なかったんだよ』
ミコトの中には、「彼を慕う心」が残っていた。
わたしがなんらかの理由でいなくなっても、そこに「この日々」の名残があるなら――わたしたちは、無駄に息をしてなかったのかな。
幸せをむさぼっていなかったのかな。
……。
……あの後、調べた。
閑古鳥、または郭公。
ミコトが持っていたのは、投げ捨てられた「カッコウ」の雛だ。
『違う鳥の巣』で育てられるのが特徴的なその雛は、ほかの鳥たちと比べて数倍大きい。巣におさまるのがやっとだ。
だからこそ、大きくなるにつれ――『違う鳥』の子どもたちを地面に落としてしまう。当人……当鳥にそのつもりがあってのことかは、正直、誰にも分からないのだけれど。
「どいてほしい」その一心だったのかもしれない。
煩わしいと思ったのかもしれない。
何せ、物理的にそうしないと巧く育つことができない。
――――巣が、とても狭いのだ。
生きていくところがせまくて、息苦しくて、つらくて。
ほかの子を犠牲にその「カッコウ」が大きくなっても、育ての親は必死に餌を運び続ける。
……それはもう、「あとに引けない」ためだろうか?
理不尽の上に成り立つ愛情だ。心の底では、もしかしたらカッコウを憎んでいるかもしれない。
愛情はある。でも傷は残り続けて、苦しいかもしれない。
どくどくと音を立てて――時々、どうしようもないかもしれない。
カッコウの雛が死んでいた理由は単純だ。
その卵は、雛は……所詮、愛されるだけの価値はなかった。
――それでもカッコウにはいつか、羽ばたく権利があった。
誰かと結ばれ、愛されるだけの情熱はあった。
ミコト、あなたはカッコウの雛じゃない。
絶対ちがう! ――同じものじゃないよ。
どう生きるかはあなた次第だ。
わたしみたいにやりたいことやって、言いたいこと言って――好きに生きて、いいんだよ。
……わたしの真似していいの。その心が望む通り、生きていいの。
わたし自身は別に、いつ死んだっていい。
だって本当に「好きに生きてきた」んだもん。
『ずっと後悔しないように生きてきた』――こういうと、いつだって誰かから誤解を招くけど。
当然、自分から災難に飛び込むつもりなんてないけれど。
やけくそでもない。死ぬつもりなんてない。ネガティブなつもりもない。
……わたしは今までも、これからだって一番、歯を食いしばって前を向き続けている。
けれど、あえて言おう。
言っちゃおう。もう吐き出す場所がここしかない。
こんなの、今の誠くんには伝えられないよ。
だって、心配させてしまう。――愛とか恋とかってそういうものでしょう?
ままならないよ。後で怒られるのはわたしなのに。
それでも結局「彼の理想の誰か」で有り続けたいんだよね。
彼がわたしに合わせて自分を変えてきたように。
自分で、育ってきたように。
彼を支えて、抱きしめて、叱咤するわたしでいたい。
意地っ張りでいたい。泣きたくない。強くありたい。
後悔したくないだけだ。
そう。
いつだってわたしは、後顧の憂いがないように生きてきた。
――人はいつか、終わるもの。
あっけなく命は尽きて、だから後悔なんてしたほうが負けで。
未来に希望は持っても、重いものは持っていけない。
どこにも持って帰れない。
わかってる。
それが、モットーだもの。
……そうしてわたしは生きてきたし、そうしてわたしは誠くんと出会った。
恐らくは捨て鉢にも取られるそれをかかえて――それを彼に、出会いがしらに怒られて。
花を買った買い物帰りに理解されて、涙の味した栗のケーキを食べて。
そうしてここまでやってきたんだもの。
ぜんぶ、ぜんぶ知ってるよ。
でもね。
【もっと、やりようはなかったの?】
今更になって――幾度も、幾度も、そう思うんだよ。どれだけ「何か」がこぼれないように注意深く生きても、そう思うんだよ。
心を持っている限り、どうせ人は後悔する。
どれだけ注意深く生きたって、どれだけ神経質に生きたって、それこそどれだけ捨て鉢に――能天気に、何も考えないように生きたって!
キリがよく、なんていかないよ。
満足して死ぬ、なんて……所詮、夢物語だ!
「何か」が欲しくて走り続けた。
自己満足を目指して走り続けた。
手に入ったものを今だけ愛でて、引き摺らないように捨ててきた。
でも知ってしまったの。――捨てられなかったの、捨てられなかったものがあるの。
わたしには、今、この瞬間のこの世界が、どうしても捨てられないの。
仕方がないねって笑えないの。
生まれてきたばっかりの子供みたいに、大きな声で泣きたくて、たまらないの。
その世界でのわたしは、この日記を途中までしか書けていないのかもしれない。……それは、好ましくないよ。ううん、ちょっとどころじゃないんだ。
かなーり、好ましくない。
怖いんだ。このまま消えていいのかなって。
このまま、何もかも抱えたままで、死ぬのかなって。
……それって、本当の死じゃないのかな。
何もなかった。それは、死じゃないのかな。
本当に伝え切れてる?
わたし、何をだらだらやってきたの?
わたしが書きたいのは――伝えたいのは、こんなことだった?
……。
……聞いても仕方ないよね、わかってる。
……ねえ。
……。
……まだ、そこにいるかな?
これを読んでる君は、わたしに、愛想つかしてないかな。
今更後悔ばっかりでごめんね。なにも書けないわたしでごめんね。
本当に、無駄なことばっかり書いてきたなあ。
どうしようもなくタラタラと、無軌道に。
――でも、感動にあふれて書いてきたなあ。
これで、よかったのかな。
よかったの、よかったんだよ。――うん、そう思うことにするよ。
――――ああ、あとね、わたしね。
今更、言うべきことでもないかもしれないのだけど。
……誠くんが、大好き。世界で一番好き。
この期に及んで、わらっちゃうくらい好き。
どうしようもなく好きだし。ずっとそれは変わらないよ。
……君のことも、そうあれたら、よかったんだけどな。
もうちょっと君のこと、知りたかったな。
君が選んだかもしれないランドセルの色とか、かたちとか。
君がみていた雲の種類とか。門の前に生えてた雑草の話とか。
好きな男の子の話とか。
そういう、くだらないものを知りたかった。
取るに足らないものを、二人で話したかった。
夢でなく、ここで一緒に振り返りたかった。
……でも、たぶん無理だから。
無理だから、諦めるね。
(落書きがしてある。――返答だ。全てに対しての返答だ。届かない言葉の数々がそこにある。)
……最初。
……そう、最初にわたしが、この日記をお話風に書いていたのは……たぶん、なんとなく面白そうだからという理由だった。
普通に書くのが嫌だから。
思春期の終わりみたいな理由だ。
だけど、あの変な夢を見るようになって……その夢に出てくる少女が、どうしても身近に感じられて、なんとなくその子を意識して書き始めた。
いつかその子が、これを見る時が来るんじゃないかって、そんなことを漠然と、不思議と思ってしまった。
たぶんそれは、正解だよね。いつかあなたは、このページを見る。
……わたしはこの日記を、いつの間にかあなたのために――ミコトのために、書いていた。
いつか来る未来まで、誰かに大切にして欲しくて、持っていってほしくて。
ううん、放置されてたって構わないから。捨てないで。
届くべきところまで、置いといて。
……うん。想定した読者が少なすぎるね、笑ってほしいな。
そう、だから書いたの。書き続けたの。
わたしが思ったこと、わたしが感じたこと、書ききれないくらいの日常を、ずっとずっと書き続けてきた。そして……その子がミコトだとわかったとき、その思いつきは確信に変わった。
ミコトだったら、この日記を見る機会が絶対にあるはずだって。
だから、いつかきっと――楽しくこれを振り返れるよね。そう思ってた。
今は、ちょっとちがうかな。
長い目でみた手紙とか。きっとそのようなもの。
あの、「夢の世界のミコト」と……もっと、もっといっぱい話してみたかった。
だから、書いてるの。
あなたをみながら、書いてるの。
でもね。ミコト。
本当だったらあなたに、あなた本人に聞きたかったよ。
でも、この場で聞くね。
いいかな、いいよね。
わたし、それくらいのこと、してきたよね。
ねえ。言いにくいかもしれない。
でも聞いて。
――その世界のお父さん、どんな人?
(……返答はない。そこはまっさらだった。)
あなたは小さい頃、慎治さんに言ったね――「なんで、私としゃべってくれないの」――あれは確か、お父さんのことだった。当時のわたしは笑い飛ばしていたはずだ。もしくは、ふくれっ面をしていたはずだ。
いるだけマシだ、って。わたし自身と比べたはずだ。
でも、きっと違ったね。あなたにはあなたの悲しみがあった。憤りがあったし、反発があった。
わたし、たぶん、何も知らなかったんだね。
もしかしたらって思うんだけど、そのお父さん……人に対して、いつもイラついてないかな?
(……返答はない。書きようがない。そう言いたげな、消しゴムの跡)
優しいところ、あまり見せないね? ……冷たくて怖いんじゃないかな。
お家だと、ニコリともしないんじゃないかな。不愉快だらけの顔してるんじゃないかな。この世界に絶望してるんじゃないかな。
今、君のお父さん、たまにそういう顔してるの。
……でもね。
だから、彼なりにあがいてたんじゃないのかな。
(……。何も、書かれていない。)
……その人、無意識にあなたのことを信頼しているから、余計に笑わないんだよ。そう、今なら思う。たまにそんな視線を感じる。
わたし相手みたいに、猫をかぶる必要がないからだね。
ごまをすらなくてもそこにいてくれる――あなたがまだ弱い子だから。あなたがまだ、自立心のない子どもだから。ミコト自身が「慕ってくれてる」のを、無意識にどこかで感じるから。
……だからきっと、ばかみたいにあまえてる。
……何もしなくたって「傍」にいる。
そんな人、ほとんどいないじゃない。
……君以外に、あの人に、いてくれるわけがないじゃない。
だから――君のこと好きでもないくせに、いつか特別視していた、その名残が残ってる。
彼はたぶん、【何か】を待っていたんだよ。
ミコトに対して「説明のつかない感情」を覚える理由を、よくわからない「空白」を感じるわけを――ミコト当人から、知りたかったんだ。
……だから他の人に対してじゃない、少しちがう接し方をした。
演技をしない。嘘をつかない。
猫をかぶらない。全くの素を見せた。
――だから、あなたにだけは、「冷たく」接していたんじゃないのかな。
せめて、そうだったらいい。何かが残っていた――好きの反対って無関心だもの。1の反対が100になるって言ってるようなものだよ。1の反対はゼロだ。好きの反対が嫌いになるって、おかしいんだもの。
興味がないか、嫌いか。
……その、どちらかだけなんて。
…………おかしい人だね。こうみると。
彼がおかしくなったのは、わたしがいたからだ。
わたしが彼を好きになったからで――彼も、わたしを好きになったからだ。
恋をしたから。成長したから。大人になったから。
……なんでもない幸せを、「幸せ」だと感じるようになったから。
だから彼は壊れてしまった。
一度幸せになることが、一つの罠だった。
……でもね、気が向いたらでいい。覚えておいて。
あなたはちゃんと、望まれて生まれてきた。
愛されて、生まれてきた。
あなたが生まれたとき、どんなにそのお父さんが喜んだか。
――覚えてる?
あなたは読んだよね。遠い昔に感じたよね。
生まれた日に握った、あの大きな手のぬくもりを。
どんなにわたしも含め、誠くんも含めて――あなたに励まされて生きているか。知らないでしょう。
あなたが笑うから、あなたが泣くから。
わたし、今、あなたが持っているページの向こうで生きてるの。
希望を捨てずに前を向けるの!
「出会わなければ」なんて思いたくないよ。ひどい運命だったなんて思いたくない。……そんなもの、関係なかったよ。
ミコトがいて、よかったよ。
あなたがいたから笑えた。あなたがいたから変われた。
わたし達二人とも、あなたがいたから、ちゃんと生きてた!
……なんでもない日を笑いあう感性を持って、今を生きていた、
そう思いたい。
そんなエゴをわたし、最後に持ってた。きっと最後まで持っていくんだよ。
ごめんね。お願いばかりだね。まだわたし、何もしてないのに。
あなたに、何も。
……何も。
……
…………。それでも。
最後は結局、こう思ってしまうんだね。
どれだけ嫌われたって、つらくたって――君は「ここの後」に生きている。
思い出して。忘れないで。
人の気持ちなんて、こだわりなんて、いつか消えるものであったとしても。
目の前に不器用な、「愛を知らない何か」がいたら。
幸せになれなかった「何か」がいたら。
邪険になんかしないで。
憎んだりなんてしないで。
……でも、不満があるなら、ぶつけてあげて。
その名残を、潰さないであげて。
あなたの知らないお母さんからのお願いだよ。
そしてもう1つ、お願いがあります。
もし、ミコト以外にこの日記帳を見ている人がいるのなら――そこにいるあなたへ。
途中でわたしの筆が止まっているのを見つけたら、あなたの手で知っている続きをここに書いてください。なんでもいい。覚え書きだろうが、どんな文体だろうが。悪筆だろうが。読み解ければいい。
わたしはこのまま、消えたくない。
――まだ、何も伝えきれてない。
でも。近いの。
「足音」が聞こえる気がするの。
いつか、わたしたち二人がいなくなるなら。
せめて……記録だけでも家族に残してあげたいんです。
何事も無くというわけには行かないけれども、それでも凄く平穏で、平和だったときのわたしたちの記録を……ミコトへ。
――――2017年11月29日 時永美郷