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第44話 「キラキラリ――――――――ン」

 シンと静まり返った室内。誰もが次の言葉を探していた。

 そして、わずかな雑音が耳に入る。

 雑音は最初は小さく、やがて誰の耳にもハッキリとわかるような大きな音に変わっていった。

 どんな音か例えるならヘリコプターのプロペラ音だな。

 だが、こんな場所でそんなものは来るわけない。一体何なのだろう。


 この異常な状況に誰もが動けずにいる中、ペンシル祭は大きな声で駆け込んできた男に質問する。

「何なの一体! 敵って誰!?」

 なんだよ、お前も知らないのかよ! じゃあ、誰の敵なんだ?

 ペンシル祭は男に耳を傾け、詳しい事情を聞いている。

 するとペンシル祭が僕に顔を向けた。

「多記君、敵に心当たりは?」

「あるわけないだろ!」

「でも、この人は敵が『多記君』と叫んでいると答えているけど?」

「んな、馬鹿な……」

 僕が思い当たる節がないか考える。

 う〜ん、さっぱりわからん。

 その間にも外から聞こえるヘリのような音はガラス窓を小刻みに、やがて割れんばかりに揺れさせた。

 そして、窓が不意に眩しく光る。

 光に驚いた人達の小さな悲鳴が上がった。

 っていうか何の光なんだ?


『タッく〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!』

 今度は外からエコーがかった拡声器からの声らしきものが聞こえた。

 は? 今、『タッくん』っていったよな。

 自然に僕へと周りの視線が集まっている。

 待て待て、「た」がつくあだ名なんて他にいくらでもいるだろ。

 とか思っているとまた声が聞えた。

『多記く〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん!!!』

「ぼ、僕!?」

 どう考えても僕を探している声じゃないか。

 しかも、この二人の声は聞き覚えがある。

 この声の主は――

 次の瞬間、僕にライトが窓越しに直接照らされる。

 うわっ! まぶしっ!!

『いた〜〜〜っ!!』

 同時に二人合わせた声がこだまする。

 すると突然室内が暗くなった。

 室内は軽いパニック状態に。

 何が何だかわからんぞ!


「突入っ!!」

 なにか怒鳴り声がした。

 と同時に窓側からもの凄い破壊音。

 数多くの悲鳴が室内に響く。

 とてつもなくヤバイ予感がする!!

 窓ガラスが割れる音がして、何かが室内に放り込まれた。

 ゴトリと床へ何かが落ちる重い音がする。と、そこから煙が噴出した。

 その煙をすった者は急に咳き込み出し、目を押さえる。

 まさか、催涙ガス?

 こうなると完全に室内は混乱の度を極め、右往左往とする人たちで身動きが取れなくなる。

 加えて周りが暗いので加速度的に恐怖心が膨らんでいく。

「落ち着きなさい!、落ち着いて皆、この部屋から逃げなさい」

 必死のペンシル祭の声なんかも悲鳴にかき消されている。

 しかし、脱出することだけは伝わったのか、出入り口へ人が群がる。

 な、流される〜! 押しつぶされる〜!

 もう、これからどうなるんだ〜〜〜〜〜〜〜〜!

 僕の混乱が頂点に達した時、タイミングよく拡声器から再び聞きなれた声が聞こえた。

『じゃじゃ〜ん、呼ばれなくてもいざ鎌倉。琴和リンただ今参上!』

『リンちゃん、ここ鎌倉じゃないよぉ』

「琴和リンだと!?」

 確かにでかい琴和リンの声と小さくツッコミを入れる声。なんでここがわかったんだ!?

『煙いから、これなんとかして〜〜〜』

 再び、琴和リンの声が聞えたと思えば、急に僕らに向かって強風が吹き始める。

 暗くて状況が良くつかめん。周りも混乱状態になっていて、どうにもならないし。

 だが、リンがこの件に絡んでいる以上、ここを逃げるわけには行かない。

 なんとか暗闇にも目が慣れてきた僕は流れにさからってわずかだが室内へ戻る。


 人の塊から何とか抜け出し、ヒザをついて息を整える。

 後ろを振り返るとまだ出入り口には人が群がっていた。

 その騒ぎを人事のように見つめる。

「多記君も抜け出せたようね」

 声のする方へと顔を向けると、僕を覗き込んでいるペンシル祭がいた。

「ペンシル祭、なにが起こったかわかる?」

 すると、ペンシル祭は呆れ顔で鼻から軽く息を吐き出し、腰に手を当ててた。

「まったく、なにかと思えばやってくれるじゃない」

「なにが?」

「お迎えよ」

 するとペンシル祭はこうなってしまった張本人へ顔を向ける。

 つられて僕も目が動く。

『も〜、暗いのも嫌』

 またもや拡声器の声が聞えると、無線機で交信しているような声が聞え、すぐに室内に明かりがつく。

 ようやく室内の状態がハッキリした。



 室内は多くの人が脱出し、残っているのは数人になっていた。

 また、窓枠についていた鉄格子は取り外されていた。

 さらに窓ガラスは割られ、すっかり跡形がなくなっている。

 加えて、いつの間にか大きな扇風機のようなモノが数台こちらに向けられ置いてある。なるほど、さっきの強風はこれか。

 そして窓の前には数人の屈強な男たち。

 服装は上手く言えないが、よくテレビなんかでテロ対策の訓練なんかやっている自衛隊ような感じか?

 その男たちの中央には見慣れた姿があった。

 頭の高い位置で髪を二つに結んだツインテール。

 華奢で背が高く、服装はピンクのヒラヒラが随所に付いたドレス。

 さっきからわがまま発言ばかり繰り返してるコイツは――

「琴和リン!」

「やっほ〜、タッくん迎えに来たよ〜!」

 僕をハッキリ見つけたリンは何度か飛び跳ね、自分がいることをアピールした。

 いや、アピールしなくても分かるから。

「まさか、お前たちから来るとは思わなかったよ」

「はっはっはっ、友情ぱわーは無敵なのだ!」

「それにしても派手なお迎えだな」

 おそらく僕は苦笑していたに違いない。

 まぁ、なんにしてもこれで帰ることが出来るわけで。よかった、よかった。

 僕はヒザのほこりを払い立ち上がる。

 ペンシル祭にも勝ったし、誇らしい気分で帰れそうだ。


「ちょっと待って」

 ペンシル祭が僕の邪魔をするように立ちふさがる。

「どうしたんだよ」

 するとペンシル祭のメガネのレンズがキラリと光った気がした。

 嫌な予感。

「こんな殴り込みまでかけられて簡単に返せるわけないじゃない」

「そんなー、勝負に勝っただろ!」

「いや、な〜んかこのままだと”負けた感”がするのよね〜」

 ペンシル祭の目つきが、おかしい。

 この状況にとうとう変になってしまったのか?

「アンタ、負けを認めたんじゃないのかよ!」

「何でもかんでも負けを認めるほど落ちぶれちゃあいないわ」

 ペンシル祭は「へへっ」と言いながら親指を突き出して自分の下唇をなぞった。

 いつの間にか僕の周りを数人の男が囲んでいる。ペンシル祭の手下か?

 余計なところで負けず嫌いを発揮するな!

「それに……」

「なんだよ」

 わずかだがペンシル祭が口ごもる。

 モゾモゾとした口調で僕にしか聞えないような声で話す。

「アナタにはもうちょっといて欲しいかも」

 なんだそりゃ!?


「そう来なくっちゃ! でも、必ず悪は滅びるのです!」

 うわぁ、なんだかリンが嬉しそうだよ。

 もしかして僕が素直に帰っていたら「つまんない」とかいって追い返されたかもしれない。

 と、考えている間にリンは背中にかけていた長くて黒い塊を頭上に挙げた。

「じゃじゃ〜ん、これな〜んだ」

 皆の視線が長くて黒い塊に集まる。なんとなく銃身にみえるな。

 先にはなんだか電球によってチカチカ光っている星が見える。

「魔法の・銃・だ・よ」

 やっぱり銃かよ!!

 リンは宣言してすぐに自分の右肩正面へ銃を当て、銃身を左右に振る。

 軽い発射音の後、無数の玉がこちらへ飛んできた。

「キラキラリ―――――――――――ン」

 って乱射かーい!!

「きゃあああっ!」

「うあああああっ!!」

 玉が当たったと思しき人はみんな痛いと言ってのけぞったり倒れたりした。

 ピンクのヒラヒラ付きドレス、星型がついた銃。

 きわめて考えたくない結論だが、まさか、魔法少女のつもりか!?

 無差別発砲とは、なんて邪悪な魔法少女なんだ!!

 そしてその銃身はいつの間にか僕にまで向けられた。

「キラキラリ―――――――――――ン」

「痛たたたただだだだっ!! あたってる! 当たってる! あ゛だってる!」

「ほへ?」

「リン!! お前、僕にまで撃つんじゃねぇよ!」

「男は黙って銃・殺・刑!」

「ふざけんなっ!!」

 玉が当たった背中をさする。

 どうやらBB弾が床に転がっていることから、あれはエアガンらしい。

 でも、相当痛いぞ。皆も倒れながら当たった場所をさすったり、抑えたりしている。

 ペンシル祭がうずくまって悶絶している!

 一番至近距離にいたからな。そりゃ痛いわ。

 っていうか、良い子は真似するなよ。


「リン、さすが。エアガンぶっ放す姿もカ・イ・カ・ンですわ!!」

 なんだこの二世代ほど前のギャグは!?

 涙目を擦りながらいつの間にかリンの隣に立っている、長い黒髪の女性が目に入った。

 その女性は僕へ薄笑いを浮かべながら話しかける。

「お久し振りですわね、多記透」

「アンタは琴和ラン?」

 リンの姉であり、シスコン全開の琴和ラン。

 昔、手痛い目にあった記憶しかない。

 紫を基調とした着物をまとった彼女は僕へとゆっくり近づいてくる。

「覚えてていただいて光栄ですわ、多記透」

 するとニコリと笑い、手に持っていた細長いモノを突き出す。

 細長いモノすなわち長刀。

 なぜ長刀を僕へ向けてますか?

 僕の緊張した表情を読み取ったランはさらに一歩前進して長刀を突き出した。

 思わず背筋がゾッとする。ほんのりひんやり。

「”不本意ながら”リンたっての願いで”しょうがなく”琴和家私設警備兵を引き連れてきてあげましてよ? なにかご不満でも?」

「め、滅相もございませんことよ、おほほほほ」

「多記君、言葉がうつってる」

「はうっ」

 ペンシル祭、いいツッコミだ。

 僕は慌てて自分の口を押さえる。


 しかし、なるほどそういうわけか。どうりでヘリなんか使えるわけだ。

 さらには私設警備兵って……警備員じゃなくて兵なんだよな。

「まぁ、今日はこれぐらいにして差し上げますわ。アナタを社会的に抹殺することも生物学的に消滅させることもいつでもできますから」

「あ、そういってもらえるとありがたいね」

 ダメだ。僕はこの人にいつか殺されるな。うん、確実だ。

 そんな殺伐としたやり取りの中、琴和ランの後ろから小さく僕を呼ぶ声が聞えた。

「多記君……」

 琴和ランの背後から恐る恐るこちらを伺う人影。

 しばらく見ていなかった彼女の顔。

 もう、何年も見てないような気がしたよ。

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