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第4話 「う〜ん初採用」

 一週間、番組を聴いて各曜日の特徴を掴んだ僕達はハガキを出し始める事になった。

「この一週間でジョニーが喋った言葉をリストアップしてある。ハガキを書く際に参考にしろ」

「え? なんで?」

「お前にはイチイチ説明しなきゃならんのか。いいか、ラジオの番組……とくにネタハガキには流行り廃りがある。それを的確に掴んだものが勝利するんだ。」

「うんうん」

 波乗はメモを取り懸命に僕の話を聞いている。

「流行り廃りを作る要素は幾つかあるが、まず押さえておいた方がいいのはパーソナリティーの言動をそのままお笑いのネタに入れる事、これはパーソナリティー自身に起こったことだから、ついつい採用してしまう。もう一つ押さえておくポイントあるのだが……お前には無理だ」

「えーっ、なんで!! う〜っ!!」

 どうやら頬を膨らませてう〜っ!! と唸るのが波乗のクセらしい。

「もう一つは自分で流行を作ること。上手くいけば自分のネタから新しいコーナーが出来たりする。ハガキ職人にとってかなりの名誉だ。しかし、それにはまず、パーソナリティーが大ウケしなくちゃならん。ジョニーを納得させるようなネタをお前は書けるのか?」

「師匠できません……」

「つーか、師匠は止めろ。まぁ、お前は普通のお便りメインで書くんだから、季節ネタや地域ネタ、ハプニングネタや恋愛相談ネタでいいな」

「うん!! やってみる」

 波乗はやたら体を弾ませてワクワクしているようにみえる。

 ツインテールも楽しそうに揺れていた。

「最後にこれも頼む」

「まだあるの?」

「番組で読まれないハガキを数枚書くこと」

「?」

「番組への意見なんかを書くんだ。これはネタ云々ではなくて番組に貢献するという意味で書くものだ。ネタハガキだけを書くのがハガキ職人じゃないぞ」

「はいっ!! 頑張って、頑張って、頑張って、ハガキ職人になるっ!!」

「いや……そんなに頑張らんでもいいぞ」


 そして、僕らはハガキを書き始めた。

 二人とも真剣に書いているので室内は静だ。

 ちなみにどこの室内かというと波乗の自室。

 明るい色を基調としていて、かわいらしいカーテンにぬいぐるみも数体おいてあったり……何と言うか、男が想像するような女の子っぽい部屋である。

 自分の部屋とのあまりの違いに何か落ち着かない。

 最初は自分の家でネタを書こうとしたのだが、波乗がそれを嫌がった。

 自分の書いたネタをすぐ見て欲しいからだそうだが、彼女がポツリと言った言葉に本心があると思う。

「一人でネタを書いてると、何が正しいか分からなくなるから……」

 僕にはすごく良く分かる。

 一人でいると自分が生きているかさえも分からなくなるときがある。

 自分を自分だと証明してくれるのは結局、他人に委ねるところが多い。


 小さい机に向かい合ってネタハガキを書いていると、波乗が突然クスクスと笑い出した。

「どうした?」

「多記君、このネタどう? 一行ネタのコーナーに出したいんだけど」

 波乗は僕に一枚のハガキを差し出した。

 ハガキを受け取るとそこには一言『うーん、皮膚の香り』と書いてある。

「……」

「ねっ? どうどう?」

 恐らく今の波乗にシッポを付けたら、さぞかしよく振っていることだろう。

 彼女の期待をこめた視線に僕は耐えられなくなった。

「ま、まぁ、いいんじゃないか?」

「本当!?」

「あ……う、うん……」

 ハガキを書けた僕らは次々と番組へ送った。

 家の中で番組をやっているのにイチイチ自分家宛にハガキを送る波乗は律儀だと思う。

 その後も僕らは番組を聴きながらネタハガキを書いていた。


 しかし、なかなかハガキは読まれない。

 こういうものは一枚読まれるとあとは楽に読まれるものなのだが、最初の一枚が難しい。

「読まれないね……」

「まだ出し始めたばかりだろ? 番組だって一週間聴いただけなんだから、ハガキの雰囲気が番組に馴染みだしたらすぐ読まれる」

「うん……」

 という会話をして一週間がたった。相変らず一枚も読まれない。

 僕が自信を持って送ったネタハガキもあったのだが……

「多記くぅ〜ん」

「焦るな……焦ったら負けだ!!」

「じゃあ、私負けてるっ!! 今、焦ってるもん」

「だから焦るなって言ってるだろ!!」

「そういう多記君だって焦ってるでしょ!!」

 焦ってる時ってついついケンカ腰になってしまう。

 僕は我に返った。

「僕は焦ってない……とは言えない」

 すると、波乗も肩を落とす。

「やっぱり駄目なのかも……」

「……」

 

 何も言えず僕らは黙り込んだ。

 そんな僕らを見越してなのか、ジョニーの声が聞こえてきた。

『一行ネタ。ペンネーム宝条リンから』

「!!」

「えっ!?」

 何が読まれるんだ?

『うーん、皮膚の香り』

「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

「やった〜!! 読まれたよ〜!!」

 僕はこの時、何が正しくて何が間違っているのか分からなくなった。

 なんだか……耳鳴りがして頭がイタイ……

 波乗はお祭騒ぎではしゃいでる。

 僕の手をとってやたらブンブン振り回してるし、ツインテールがバシバシ僕の顔を直撃する。

「これね、これね。昔、お父さんとラーメン食べに行ったときに私が偶然言った言葉なんだって、その後お父さん大爆笑しちゃって」

「そうなんだ……」

 確かに宝条リンとしては大事な一歩を踏み出したわけだが……僕は三歩ぐらい後退した気分になった。

 結局、後のコーナーで僕のネタが立て続けに読まれたことで自信が回復する事になる。 どうやら、ハガキを出して読まれるのには一週間ぐらいのタイムラグがあるらしい。


 こうして、宝条リンは順調なスタートを切った。

 書いたハガキの採用率は50%を超えているし、ジョニーにも名前を憶えてもらった様だ。

 全てが良い方向に進んでいるように見える……

 しかし、トップとの差はなかなか縮まらないように感じた。

 特にペンシル祭との差は開く一方に思える。

 ペンシル祭は読まれるハガキは少ないが、コーナーの最後に選ばれるMVPになる事が非常に多いのだ。

 普通にハガキを読まれて1P、MVPは5P。MVPに選ばれるだけで5枚読まれた価値がある。

 ペンシル祭は確実にMVPを狙ってハガキを書いているに違いない。

 まさに王者の得点方法、さすがサーファーキング。

 一方、宝条リンは確実にヒットは打てるがホームランが打てない1P奪取のハガキ職人になりつつあった。

 それは一重に僕の実力によるもので、少しずつではあるが限界を感じている。

 何らかのテコ入れが必要になってきた。

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