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第39話 「勝負の行方」

 とにかくペンシル祭は倒すべき敵であり、助けなきゃいけない人。

 そう自分に言い聞かせる。

 ……にしてもなぁ〜

 ため息混じりに前を見るとそこには背筋を伸ばし、キチンと正座して僕を睨みつけるペンシル祭の姿があった。


 ロングで真っ直ぐ髪。銀縁のメガネからのぞく瞳からは冷たい視線を感じた。

 勝負最終日ともなれば真剣になるものだ。僕も負けじと睨み返した。

 するとペンシル祭は軽く鼻で笑う。

 む、ムカつく!

「マッチョ君、ずいぶんと挑発的になったものね」

「勝っているんだから当たり前だろ。……っていうかマッチョって呼ぶな!」

 わずかにペンシル祭の瞳に力が入る。なんとなく今までにない気迫を感じた。

 やはり今の状況が悔しいのだろう。

「そうやって私を直視できるのも今のうちだからしっかり見ておきなさい」

「ああ、そうだな。直視できなくなるのはもちろんペンシル祭、アンタだろう

?」

「ぐっ……私が正しいことを証明して見せる」

「どうぞご勝手に」

 この辺で余裕の笑みでもかましてやろうかと思ったが、ペンシル祭の目つきが一段と怖くなったので止めた。


 そして、放送時間の二時間のうち半分の一時間が過ぎた。

 この時点で本日読まれた枚数は同数。

 つまり僕とペンシル祭の差は一向に縮まってはいなかった。

 この結果は僕にかなりの余裕を与えることとなった。


 後半戦最初のネタハガキのコーナー、ジョニーは最初のはがきを読んだ。

『えーっとこれはペンネーム、ペンシル祭から』

 俺の背後から「あぁ」と落胆の声が聞こえると同時に正面からは「わっ」湧き上がる。

 ペンシル祭自身からも喜びの笑みがあった。

 なんだか腹が立ったので僕は横を向いた……直後。

「はあっ!?」

 と、素っ頓狂な声が耳に入る。

 なぜだか、ペンシル祭が正座を崩して両手を突いて前のめりになっていた。

 丁度ネタが読まれた時と声が被ったので、どんな内容のネタか良く分からなかったが、ペンシル祭が自分のネタに反応したのは間違いない。

 ペンシル祭はすぐに正座を正すと、近くにいる100g98円を呼ぶとなにやら話し始めた。

 いくつかのやり取りの後、急にペンシル祭の目つきが明らかに険しくなった。

 何が起こっているんだろうと伺うとたまたま彼女と目が合ってしまう。

「ん? なんだ?」

「あっ……」

 何故だかペンシル祭は僕から一瞬目を逸らした。

 そしてすぐさま僕に視線を合わせ睨みつける。

 ほんの一瞬のやり取りだったけどすごく気になった。



 このやり取りが合図となったかのようにペンシル祭のハガキが急に採用率を上げていった。

 今まで完成度の高かったペンシル祭のハガキは時折、下世話とも言えるようなレベルの低いネタハガキになったりした。

 しかし、そこにペンシル祭の底力を見たような気がした。

 格調を崩してもハガキが読まれることに特化したネタ。

 野球で言うならヒットならいつでも打てると豪語した天才バッターのようだ。


 もの凄い巻き返しに僕たちは、ただただ、呆然と事の成り行きを見守るしかなく、みるみるうちに僕のハガキへ近づき、残り1コーナーを迎えた時点でとうとう同点となってしまった。

「次のコーナーで雌雄が決する」

 誰もがそう思っていた。自然に室内の緊張も高まってきた。

 僕も雰囲気に流されてソワソワしてくる。

 落ち着け〜、落ち着け〜。


 いよいよ番組は最後のネタハガキのコーナーへと突入した。

 まず読まれたのは僕のハガキだった。

 少し安堵する。

 そうだ、この勝負の目的はこの建物から出ることなんだ。

 そして、宝条リンに合流して波乗とこの気まぐれサーファーを引き合わせなくてはならないんだ。

 ハガキ職人の力、見せ付けてやる! 

 ……ってもうがんばりようがないけど。


 と、意気込んだのはいいけど読まれたハガキはその後1枚だけ。

 反対にペンシル祭は4枚ほど読まれた。

 あまりにもあっさりとした敗北。

 完全に意気消沈した僕たち。

 反対に大騒ぎしているのがペンシル祭側だった。

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