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第38話 「お・ね・が・い」

 真夏の深夜。

 波乗家の広大な敷地の一角にある2階建てのプレハブ小屋。

 その中でも一際人口密度の高い部屋にオレ達はいた。


 窓側からいくつかの声が聞こえる。

「誰か窓を開けて」

「窓を開けると蚊が入ってくるぞ」

「蒸し暑いよりはましだよ」

 まっくもってそのとおり。

 ともかくこの部屋に人が多すぎ、かつ、夏ということもあり、真夜中とはいえ部屋中は蒸し風呂のようになっていた。


 とうとうペンシル祭とのネタハガキ対決の最終日。

 まず、状況の把握から。

 オレ達のいる場所から。

 ここは『ラジオデイズ』を永遠に楽しむために作られたリスナー達の棲家。

 僕は現在ここへ軟禁されている。

 そして脱出を試みるべく、ここの主とも言えるペンシル祭にネタはがき勝負を挑んでいた。

 軟禁されている部屋は15畳ぐらいの大きさの部屋。集会なんかに使うらしい。

 廊下側から見た場合、部屋の中央で陣営が分かれていて、扉がついている右側がペンシル祭派、館内放送のスピーカーが着いている左側が我らマッチョ派だ。

 誰が持ってきたのか部屋の中央にはバスケットで遣われるような、めくって点数表示されるスコアボードが陣取っていた。

 ただいまの読まれた枚数 ペンシル祭13枚、マッチョ石松16枚。残りコーナー数5。

 枚数表示だけを見れば僕が勝っている。

 しかし、ペンシル祭の実力からを考えると安心は出来なかった。

 1コーナー全てのはがきを独占した実力ならまだまだ油断ならない。


 と、状況判断しているうちに番組は着々と進んでいた。

 ハガキが読まれるごとにどちらかの陣営が沸くので傍目から見てもすぐ分かる。

 今のところ五分五分といったところだ。

 それにしても番組のネタはがきのほとんどをペンシル祭、マッチョ石松、宝条リンが占めている異常事態。

 これで番組が成立しているところがすごい。


 番組の成立といえば、ニット帽、スキーのゴーグル、マスクにTシャツ、ジーンズという姿で部屋の奥に陣取っている気まぐれサーファーこと波乗丈の存在が気になってしょうがない。

 なんせ今、DJをしているのもジョニーこと波乗丈。

 番組は生放送だし、ここにいるのは一体誰なんだ?

 声だってジョニーそっくりだし。うーん、謎。

 さらに気まぐれサーファーから頼まれている事柄も遂行しなければならない。

 非常に不本意だが人の命には変えられないのでなんとかするとしよう。


*********************************************************************


 ――昨日。

 波乗丈からペンシル祭の過去を聞いた。

 「ラジオデイズ」誕生と密接に関係があった。

 ペンシル祭とラジオデイズの生みの親とも言うべき由部渡との確執。

 ついには刃傷沙汰にまで発展し、ペンシル祭が彼の企画を奪い取り、「ラジオデイズ」を立ち上げたこと。

 それによって「ラジオデイズ」を支配して、彼に勝利をすると決めたらしい事を知った。

 しかし、波乗丈の話はそれでは終わらなかった。


「由部渡は1年ほど前に出所し、この施設内に侵入して、ペンシル祭への復讐の機会をうかがっているらしい」

「じゃあ、さっさと追い出せばいいじゃないですか」

 僕の答えに波乗丈は大袈裟な仕草で肩をすぼめる。

「だって、古林くん以外誰も顔知らないんだもん」

「……あやふやな情報ですね」

「聞き伝えなモノで」

 くそっ、さらっと答えやがる。

 この人嫌味とか通じないのかよ。

 それにしても理解に苦しむ。ここへ潜入してまで殺したい相手なのかよ。

「彼にとってはそれだけ人生賭けていた企画なんだよ」

 やりきれないと言わんばかりの仕草で顔を左右に振りながら、ため息混じりに答える波乗丈。

 なんだよそれって僕がまだ若造で、そこまでのめり込むようなものに出会ってないとでも言いたいのかよ。

 明らかに不服そうな僕の表情を察したのか波乗丈は「俺は彼らに同情してるだけさ」と付け加えた。

 色々と言いたいこともあったが、僕はとりあえず言葉を飲み込んだ。


 と、ここで波乗丈はかがみこみ、少し声のトーンを落として話し出した。

「そこでだ、多記君。君にお願いがある。実はペンシル祭の護衛をして欲しいんだ」

「はぁ!? 僕がアイツの護衛を? んなことしなくてもアイツの周りには取り巻きが大勢いるじゃないですか」

 冗談じゃない、なぜ敵であるペンシル祭を守らなきゃいけないんだよ。

 波乗丈は僕の反応にあごへ手を当て「うーん」なんて言ってる。

「確かにそうだけど、彼らはボディーガードじゃない。イザというときに役に立つとは思えないんだ」

「でも……」

「明日は君との勝負の最終日だ。大勢の人が集まると思う。どちらかが勝利しても騒ぎになるだろう。皆にも油断が出来る。そんなときを彼が狙わないわけがないだろう」

「僕には関係な……」

「確かに関係ないかもしれない。だが、こうやって人の命が狙われていると知って黙っていられるほど君は無責任な男じゃないと見込んでいるのだが?」


 躊躇する僕にどんどん言葉を浴びせかける波乗丈。だんだん断りづらくなってくるじゃないか。

 確かに僕の勝利の後、ペンシル祭がごたごたに巻き込まれて死ぬのは夢見が悪い。

「今回の騒ぎでは何も起こらないかもしれない。それならそれでいいんだ。明日だけでいい、見張りを頼む!」

 胡坐のまま頭を下げて頼み込む波乗丈。

 くそっ、卑怯だな。俺よりも何十歳も大人が頭を下げて頼んでるんだ、断れるわけないじゃないか!


 ――ということで僕はペンシル祭の警護を承諾した。

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