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第36話 「準備OK?」

 文句の付けようもない夏の青空。遠く向こうでは入道雲なんかでてるし、夏だねぇ〜。

 そして……この瞬間はあっさりと訪れた。

「多記君、おめでとう〜、見事な勝利だったね」

「波乗、当たり前だ!! 俺の実力を持ってすれば当然」

 波乗が僕に飛び込むようにして抱きつく。くっ、苦しい……

 だけど、本当にペンシル祭と勝負して勝ったんだな僕は。

「タッくん、やったね〜!!」

 隣ではリンが一人で飛び跳ねている。

 川上や工藤も手を取り合って喜びを噛み締めていた。

 思った以上に周りはかなり盛り上がっている。


 しかし、不思議と僕には勝利の実感や開放感はまったく起きない。

 それどころか体の心からジンワリと燃えくすぶるものがある。

「だったら、リンちゃんがもっと燃やしてあげる〜」

「おう、サンキュ〜」

 って、なんでお前が僕の思ったことを知ってるんだよ!!

 僕にお構いなく、何処から持ってきたのか火炎放射器らしきものを肩にかけ、いそいそと用意している。

「リン、止めろ、そんなことしたら死ぬだろ!!」

「確かにそうね。あなたを殺せば宝条リンは壊滅だわ」


 嫌な予感に振り返ると、そこにはペンシル祭が長い髪をかきあげながら、冷たい視線を眼鏡越しに僕へ送っていた。

「あなたを見てると嫌な事ばかり思い出すのよ!!」

 いつの間にか、リンの火炎放射器をペンシル祭が持っていた。さらに狙いは俺に向けられている。

 冷たい視線に火炎放射器、これ如何に?

「ま、待て、お前に言わなきゃいけないことが……」

「さぁ、私の手のひらで踊りなさい」

「手のひら?」

「問答無用っ!!」

「……わわわっ!!」

 ペンシル祭の勢いに負けて思わす尻餅をつく。


 ……何だこれは? 妙に柔らかい感触だぞ。

 ぷにぷにしていて、おおよそ地面とは思えない。

 よく見ると地面がなんか肌色とピンクのマダラ模様だし。

「当たり前じゃない!! あなたは私の作った『ラジオデイズ』の手のひらで踊っているに過ぎないのだから!!」

「はぁ? って言うかお前の声、うるせえな……っ!!!!!!!!!!」

 さっきまで見上げた先は青空が広がっていたはずなのに、これは……

 でかいペンシル祭の顔じゃないか!! 

 つーか、僕は本当にコイツの手のひらに乗ってるし。

「わかったでしょ? 最後は私が勝利するように出来てるの」

「んな、馬鹿な!!」

 ペンシル祭は大きく息を吸い込むと、一気に熱風を吐き出した。全身の内側から耐えられない程の熱を感じる。

「ファイヤ〜!! ふぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

「熱――――――っ!! 暑い――――――――っ!!」

 うあぁぁぁぁっ、焼け爛れる〜〜〜〜〜……ん? 暑? 熱じゃなくて暑?


*********************************************************************


「暑―――――――っ!!」

 あまりの暑さに目が覚めてしまった。いや、覚めて良かったんだよ。

 現実は背中が痛くなるような板間で監禁されて、空調設備もない場所にて蒸し暑い夜を過しているわけだ。

 ……セミの鳴き声がうるさいし。

「しかし、なんちゅー夢だ……」

 軽く今までの総集編みたいな内容…………いや、違うな。


 僕を監禁してる部屋には鉄格子つきのけっして大きくは無い窓が東側についている。

 寝起きであまりハッキリしない体を起き上がらせて、外を覗く。

 ここだけは夢で見たような文句の付けようも無い青空だった。日差しも強いし、夏だな。

 そして……とうとうペンシル祭との勝負も3日目を迎えたわけだ。

「マッチョさん、入りますよ」

「はい、どうぞ」

 ノックの後に声が聞こえ、ドアが開く。僕が感傷に浸る暇も無く、朝食の時間が来たようだ。

 朝食を運ぶ男性を先頭に数人の男女が室内に入ってきた。

 この部屋、実は普段は集会みたいなものに使われるらしく、かなりの人数が入っても余裕がある。

 運ばれた朝食に手をつけながら僕の周りを彼等が囲む。

 彼、彼女たちのネタハガキへアドバイスするのが日課になっているからだ。

 今やこの集団は反ペンシル祭の集団へとなっているみたいで、彼女の良い話を彼等から聞いたことが無い。


 まずは僕に初めてネタハガキを読んでくれと頼んだ男性が自分の書いたネタハガキを差し出す。

 彼がこの集団をまとめているようだ。いつの間にか読む順番も決まっているし。

「ど、どうでしょうか?」

 僕がハガキを読みながら彼を盗み見ると、頑張ったテストの結果を楽しみに待つ学生のように不安と期待の混じった表情を僕に向けていた。

「うん。かなり、良いんじゃないでしょうか?」

 僕の評価を聞いて彼の表情が喜び一色へと変わる。

「ありがとうございます!! このネタ、気まぐれサーファーさんのネタを参考にしたんですけどね」

「気まぐれサーファー……」


 ――あっ、思い出した。


 そうだよ、昨日は気まぐれサーファーがここへ来て、ペンシル祭の知らなくて良いような過去を知らされて……

 それに、厄介な頼み事も受けなきゃいけなくなったし。

「あの……僕の顔に何かついてます?」

 僕はいつの間にかハガキを持ってきてくれた男性を見つめていた。慌てて、誤魔化す。

「いや、ホントにハガキ書くのが好きなんだなぁと思ってさ」

「大好きですよ、当たり前じゃないですか」

 これぐらいペンシル祭が素直ならば良かったのに。

 それにしても今夜からやらねばならない事を思うと身震いがした。

 ラジオデイズに巣食う元凶を退治しなければならない。

 僕はただ波乗の手助けをしたいだけなのに。




 そして……

 嫌な時というのは時間が経つのが早い。来るなと思ってもアッサリ来る。

 鉄格子の小窓からはもう光は差し込まない。

 光を失った室内は蛍光灯が自己主張し始める……夜。

 蒸し暑さは感じない。さらに涼しさが夏の終わりを少し思わせる。

 『ラジオデイズ』の時間があと10分と迫っていた。

 いつもはペンシル祭が来るのを一人で待っているのだが、今日は様子が違う。


「すみません、勝手にお邪魔しちゃって……」

「構わないですよ。今までペンシル祭派ばかりだったので丁度いい」

 朝、ネタハガキを読んであげていた彼等が最終日ともあって、いても立ってもいられなくなり、この部屋へ押し寄せたのだ。実に結構な事だと思う。

 しかし……

「それよりも、問題はアナタだよ」

「気にするな、オレは人に気を使わせないタイプだ」

「黙れ、気を使うわっ!!」

 僕がツッコミを入れた相手はニット帽をかぶり、スキーのゴーグル、白いマスクをして、服装は半そでにジーパンというわけの分からないいでたちの男、気まぐれサーファーだ。

「気まぐれサーファーさんもマッチョ石松さんの味方だったんですね」

「……まぁな、成り行きだ」

 興奮気味に話す彼等を他所に、気まぐれサーファーは偉そうに胡坐をかき、悠然と構えている。

 ……なんかムカつく。


 って状況説明してる場合じゃない。

「そんな事よりもアナタはここにいちゃあマズイだろ」

 僕の言葉にまったく動揺もなく、気まぐれサーファーは首をかしげながら答える。

「なぜ? マッチョ派のオレがここにいてはマズイと?」

「そうですよ、マッチョさん。気まぐれサーファーさんはアナタの応援に駆けつけたんですから」

 くそっ、彼等を良いように使いやがって。これも作戦のうちか?

 いや、それよりもマッチョさんって呼ぶの止めてくれ。

「もう知らないからな」

 ホントにもう知らん。例え番組が始まらなかったとしても僕の責任じゃないからな。

 嫌な音も聞こえてきたし。


 そして今日も時間どうりに数人の足音が近づいて来る。

 数回のノック音が聞こえるとドアが開き、奴等がやってきた。

 室内の人数の多さに気付き、一瞬だけ奴等が立ち止まる。

 さらに彼女の取り巻きがにわかにざわつく。

 しかし、それはホントに少しの間の事だった。

「覚悟は良いかしら?」

 おいおい、挨拶もなしにいきなり挑発かよ。

 他の面子は関係ないと言わんばかりに長いストレートの髪をゆっくりとかきあげながら、夢でも感じたあの冷たい視線を僕に向ける。

 そんな視線に負けて堪るかよ。

「アンタこそどうなんだ? 負けたときの言い訳でも考えたか? ペンシル祭」

「ごめんなさい、私はあなたと違って負けた事が無いから、そんな事考えた事も無いわ」

 ペンシル祭の自信溢れたセリフを聞いた彼女の取り巻きも落ち着きを取り戻す。

 よし、戦闘準備OK。これで室内には役者が揃ったな。


 とうとう僕達は『ラジオデイズ』勝負三日目を迎えることなった。

 っていうか放送は大丈夫なのか?

 だって気まぐれサーファーは……

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