第3話 「ハガキ投稿集団 宝条リン」
とりあえず、僕は波乗の家でラジオを聴いてみる事にした。
なぜなら自分の家で聴こうとして、全く電波が入らなかったからである。
この事を波乗に聞くと「分からない」と答えた。
彼女自身も自分の家以外で聴いた事が無いからだそうだ。
だいたいインターネットラジオの時代で自宅にラジオブース作って電波飛ばすってどういうことだよ。許可は取れてるのか?
波乗は「お父さんはデジタリアンじゃないから……」とか言ってたが、そういう問題ではない。
そもそも女子高生がデジタリアンとは言わない。
とにかく、しばらくは細かいことを気にしないことにした。
参加することで実態が自然に見えてくるに違いない。そう信じたい。
話を戻すと「ラジオデイズ」は深夜枠の若者向け3時間番組で月〜金まで毎日ある。
パーソナリティーは波乗の父親ジョニー。
日替わりで色々なコーナーがあり、曜日によって特徴が違う。
月曜日は普通おた(普通のお便り)中心、火曜日は笑い(ベタ)ネタ中心。水曜日はお笑い(シュール)ネタ中心、木曜日は下ネタ中心、金曜日はFAX・メールネタ。
各コーナーでは、ハガキを読まれるごとに1ポイント与えられる。
その中でも一番面白かったハガキにはMVPとして5ポイント与えられる。
それを半年後とに集計してサーファーキングを決めるのが「ハガキ職人グランプリ」ということらしい。
午前0時、時報と共にジョニーの声が響く。
『OK!ジョニーのラジオデイズ!!』
古い。なんちゅー古いタイトルコール。
『さぁ、今からの時間はみんな手を止めろ!! そんなに考え込んで落ち込んでても意味が無いぞ! 今からの3時間は全てを忘れて“だらだら”するんだ!』
どうやらここまでがお決まりのセリフらしい。
隣で聴いている波乗は頷きながら聴いている。頷く所はひとつも無いぞ。
僕は気になった事を波乗に訊いてみた。
「ところで、ペンネームは考えたのか?」
「うん」
波乗は恥ずかしがりな僕に紙切れを差し出す。
僕は受け取り、見てみるとそこには幾つかの候補の中で『宝条リン』という名前に丸が振ってあった。
「……」
「どう?」
「駄目だ」
「えーっ!! なんで、ナンデ、何で!!」
「リンという名前にトラウマがある」
すると頬を膨らませて波乗が抗議をする。
「うーっ、そんなの多記君の勝手でしょ!! これには『私がハガキ職人の中でも補助輪がついた初心者に等しいから』って言う意味があるんですっ!!」
なんかうー、うー、唸って怒ってる。どうやら本人はかなりお気に入りのようだ。
「しょうがねえな。じゃあそれで良いや」
「やったー!!」
「飛び跳ねるな!!」
番組は少しフリートークをしたらすぐにネタハガキのコーナーへ移った。
「波乗、毎日通しで行われるコーナーはなんだ?」
「うーんと……音楽明けにやる一行ネタのコーナーかな」
「音楽明け?」
「うん、ウチのラジオCMとかないから。コーナーとコーナーの間には音楽を流して、間を取るの。その時に番組のジングルと共に一行ネタが読まれます」
「1放送に何回ぐらい?」
「10回ぐらいかな」
「多いな……とりあえず、毎日通しで行われるコーナーは重要だ。まずはそこを中心にハガキを出す!!」
「うん……でも……」
「どうした?」
「あそこのコーナーは常連さんがひしめき合っているのです……」
「ほう……」
「クックルドゥーさんとか100g98円さんとか……」
「!! ……待て!!」
波乗が挙げたペンネームに僕は聞き覚えがあった。
クックルドゥーと言えば……アイドル・声優系のラジオで一時代を気付いたぺンネームで、彼がハガキを出しだアイドル・声優は売れるという伝説があるほどだ。
100g98円だって、たしか、少年マンガ週刊誌のハガキ投稿ページでNO.1を取った人物。
まさか……同じペンネームってだけだろ?
そして、実際に幾つかネタを聴いてみる……確かにいいとこ突いてる。
点取り占い風のシュールなものもあれば、時事ネタを入れたダジャレなんかも冴えてる。
「この二人は本当に面白いんです」
「……」
『じゃあ、このコーナーのMVPは……PNペンシル祭に決定!!』
「!!!」
「多記君……どうしたの?」
「今……ペンシル祭って言わなかったか?」
「うん、言ったよ。この人凄いんだよ、今のところハガキ職人グランプリ五期連続でサーファーキングなの」
「……なんてこった」
もし、僕が知ってるペンシル祭ならば、全国ネットの深夜ラジオ老舗番組「オールナイトブレイク」において三期連続で読まれたハガキNO.1になり、番組作家になったいわばプロだ。
意味が分からない。
なんで、ここまでのビッグネームが揃っているのか?
この番組はそこまで魅力のあるものなのか?
考え込んでいる僕に波乗が心配そうに顔を覗かせる。
「だから……私、思うんですけど……もっと読まれやすい普通のお便りから狙った方がいいと思います……」
僕は少し甘く見ているのかもしれない……でも……
「……波乗」
「はいっ!!」
「……それでも、狙うぞ」
「え?」
「普おた(普通のお便り)はお前が書け、こっちのネタは僕に任せろ」
「え? え? えーーーーーーーー?」
「正直言って、お前一人ではどうにかなる相手でじゃない。だから……ここは束で掛かるしかないだろ?ハガキ投稿集団『宝条リン』としてやろう」
「でも……それって卑怯じゃ……」
「卑怯じゃない。集団で書いちゃあ駄目だなんてジョニーも言って無いだろう。ハガキにもキチンとハガキ投稿集団『宝条リン』と書く……凡人が天才に勝つ方法はこれしかない……お前、家族を取りもどすんじゃないのか?」
『家族』という言葉に波乗は反応した。
「……うん……頑張る」
「その意気だ」
当初、僕は玲子さんの真意を確かめたくて波乗に協力したのだが、今では伝説のハガキ職人たちの相手をしているうちに、僕の中の職人魂が蘇ってきた。
「この人たちを追い越したい」今はそういう気持ちが先走っている。
サーファーキングを目指して僕らの戦いは今始まった。




