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第27話 「手を繋ごう」

「なるほど。お前が多記の奴隷でないことは分かった。では、何なのだ?」

「……友達です」

「『友達です』の前に付いている『……』について説明してもらおうか」

 なんだかこの人鋭いです。

 私も一人で抱えるのが辛くなってきたところでした。

「それは多記君が……」

 と私が説明をしようとすると彼女から携帯電話のメロディーが聞こえてきました。

 しかし、彼女は一向に反応しません。

「あの……電話にでないのですか?」

「でない」

「なんで?」

「うるさい奴だなぁ、出ればいいんだろ出れば」

「別にそこまで強く言ってないですが……」

 どうやら電話に出るキッカケが欲しかったようです。

 彼女が電話に出ると、近くにいる私にも分かるような大声で向こうの声が聞こえてきました。

 やたら『タマちゃ〜ん』を連呼しています。


「うるさい!! そんなこと自分で解決しろ!! お前達自身のことだろ!!」

 と一言怒鳴ると電話を切ってしまいました。

「……」

「あの……大丈夫なんですか?」

「大丈夫だ。アイツはあんなことではくじけない」

「はぁ……良く分かりませんが……」

 何のことだか分からないですが、自信たっぷりに言うところを見ると電話の相手とは信頼関係が出来ているみたいです。

「で? お前の話の続きを聞こう」

「はい。あの……多記君が……」

「すまん。その前に聞いていいか?」

「はい?」

「あんな電話の切り方して、怒ってないかなぁ?」

「……気になるんなら電話したらどうですか?」

「選択に迷うところだが……とりあえず電話してみるか」

 この人は一体、何をしに来たのでしょうか?


*********************************************************************


「あの……私のこと覚えてました?」

 オレの手が彼女の肩にかかろうとした時、話しかけられた。

 動きを止め、オレは言い訳を考えた……が、そんな簡単に思いつくわけもない。

「えっ!? あ、当たり前やろ!! ……メチャメチャ覚えてるちゅーねん!!」

「……」

 へ……返事がない。やっぱりバレた? 彼女の表情を伺う。

 真剣な顔をしている。怒らせたか……

「……プッ」

「は?」

「あははは……何で、関西弁なんですか? しかも、発音変だし」

 彼女は口に手を当て笑っている。バレてないんだ……少し安心。

 だが、問題は解決したわけではない。

 この部屋にいる以上、会話を続けなければいけない。

 とすれば何処かでボロが出るに違いない。

 そこで出した結論は……

「外へ出ない?」



 何かと他の話題を振りやすい外に出て、少しずつこの子の事を思い出そう。

 ただ近所を歩いてもしょうがないので、街中を歩くことにする。

 今、金無えからウインドウショッピングでもしながら時間を過せばいい。

「川上さん、これカワイイですね」

「あぁ、そうだな」

 この子が物をねだるような子じゃなくて良かったと思ったりする。

 いつもいるのはあれ欲しいこれ欲しいとねだるうるさい奴ばかりだったもんなぁ……

「いつも他の女の子とこんな風にして過してるんですか?」

「まぁね」

 しまったっ!! ついつい答えてしまった。

 そう思ったところですでに遅く、彼女の表情は曇っていった。

「そうですか……女の子がよりどりみどりですか……」

「そこまで言ってねぇよ」


 彼女は少し俯きメガネを上げると、顔を上げ、笑顔を見せながら言った。

「なんか良いですね。自由で……」

「自由?」

「私、こんなだから……周りに真面目だって思われてるし……自分でもはみ出したことが出来ないし。その点、川上君ははみ出し過ぎって言うか……」

「それは……ほめ言葉なのか?」

「うん。だって行動に嘘はないでしょ?」

「!?」

「私は嘘だらけ……本当の自分は違うの。だらしないし、損得をすぐ考えるし、そそっかしいし……」

「……」

 なにかこの子は勘違いをしているのではないだろうか?

 オレはいつもに思うままに行動してるわけじゃない。

 むしろ出来なかったことに後悔し、それが原因でこの前も失敗したばっかりだ。

 ……くそ、なんでこんなときに多記や澄音のことを思い出さなきゃいけないんだよ。

「上辺だけだから何でもいえる友達も居なくて、夏休みも特に予定も無いし……でも、メール来て……私を忘れてない人も居るんだなって……川上君良い人です」

 何だかペースが掴めない。いつもならこんな辛気臭い話は聞かない。

 早く話を打ち切って楽しいことしたい所だが、なぜか言いたいとが頭から離れなかった。

「……オレはそんな良い奴じゃない」

「え?」

 オレがさらに言葉を繋ごうとしたその時。


「あれ? 直人じゃないの?」

 聞き覚えのある声に振り向く。

 とそこにはさっき電話でオレの誘いを断った女とその知り合いらしき数人の男女がいた。

 ジロジロとオレではなくオレの隣を見ている。

「ふ〜ん、直人って女の趣味変わったんだ」

「はぁ?」

「ちょっとはセンスあると思ってたんだけどなぁ〜残念」

 センスってなんだ? だったらお前はあるのか?

 お前の連れは何なんだよケバすぎなんだよ!!

 ……と言いたいところだが我慢した。

「お前には関係ないだろさっさと行けよ」

「結局、昔と何も変わってないんだ〜」

 とか、いくつか悪態をついて集団は去っていた。

 自分ひとりだったらとっくに喧嘩になってたかもしれない。


「私のせいでごめんなさい」

「別にいいよ。あいつらの言ったことは本当だし」

「女の趣味?」

「なんでそこに喰らい付くかな……昔と変わらないって所だよ」

「え?」

「オレも昔は君と同じようなメガネかけてた」

「本当ですか?」

「あぁ。カッコ悪くてコンタクトに変えたけど」

「そうですか……」

 髪も真っ黒で性格も大人しく真面目で引っ込み思案……自分の意見も上手くいえない奴……

 結局、言いたいことがハッキリ言える多記に琴和を奪われたわけだ。


「オレはひがみっぽくて、人一倍自分だけが得になるセコイ方法を考えてる。自分の失敗や後悔をすぐ多記って奴のせいにして棚上げにする………ホントはそういう奴なんだ」

「それでも川上さんは良い人です」

「……違う。今日もこうして誰も居ないから君の相手をしている。悪いが手当り次第にメールを送ったし、実は未だに君とどうやって知り合ったのか憶えてない」

「そうなんですか……」

 さすがにこの一言はショックのようだ。彼女は黙ったまま俯いてしまった。

 今頃になって何でこんなこと言ったんだろうと後悔する。

「だとしても……」

「?」

「やっぱり……川上さんは良い人です」

 無理やり笑ってるのがみえみえ。

 オレは何となく自分のペースに乗れない理由が分かった気がした。

「……君はオレの知ってる人に似てるな」

「え!?」

「最近、その人に振られたけど」

「……川上さん、私のとっておきの場所へ案内します」

「どうしたの突然?」

「目を瞑ってください」

 いきなりの事でよく分からないけど彼女に従うことにした。

 目を瞑ると彼女はオレの腕を掴み引っ張る。

 連れて行かれる途中、何だか味気なかったのでオレの腕を掴んでる彼女の手を離し、オレの手を握らせた。

 少し、ためらいもあったようだけど彼女は手をつないだままオレを先導する。



 何処かの建物に入った気配がすると、すぐにエレベーターに乗った。

 何階まで行ったのかはしらないけど、ドアが開く音がして風がオレの顔に当たる。

 その直後、彼女の手がオレから離れた。

「まだ、目を瞑ってください」

 彼女はそれだけ言い残すと、オレから遠ざかった気がした。

「良いですよ」

 遠くから聞こえる声に目を開けるとそこは何処かの屋上だった。

 見晴らしは確かに良い。

 オレはその景色をしばらく眺めていたが、視界の端に彼女が見えてのんきに眺めている場合ではないことを理解する。

 気が付けば彼女は柵を飛び越えていた。

「おい、お前なにやってるんだ」

「飛び降りです」

「んな事は分かってるっ!!」

「だって、私は今の自分が嫌いだから」

「バカ!! 待て!! 誰だって多少自分の嫌いな部分はあるもんだ!!」

「さようなら」

 その瞬間、オレの視界から彼女は消えた。

「冗談だろ? おいっ!!」

 オレは今起きたことに対応できずに呆然としていた。

 いくら嫌なことがあっても死ぬことはないだろ……

 ゆっくりと柵に駆け寄ると、恐る恐る下を覗いた。


「はぁ〜怖かった」

「……どういうことだ?」

 覗いたオレの顔と彼女の顔がもの凄く接近していた。

「ここって自殺者が多いので防護ネットが張ってあるの知ってます?」

「なんてことだ……」

 やっと状況が飲み込めたオレは腹がってきた。

「アホかっ!! そういう問題じゃねぇだろ!!」

 しかし、彼女は笑顔で答える。

「これで私もはみ出した行動ができたでしょうか?」

「はみ出し過ぎだっ!!」

「……自分を変えようと思って」

「っ!?」

「私も変わりますから川上さんも変わりましょ?」

「え……」

「その、多記っていう人……誰だかわかりませんが、きっと川上さんが気にするような人でもないですよ」

「お前……」

「少なくとも私はそう思います」

「それが言いたくてこんな事したのか?」

「はい」

 ……オレはいい加減、多記から離れなければいけない。

 そんな事言っても絶対無理だと思ってた。

 だが……彼女の言葉が……笑顔が……今までのことをどうでもいいことだと思わせてくれる。

 これからは失敗を後悔を一人で引き受けよう。

 「自立」なんて考えるのは恥ずかしいが、誰かにせいにしながら生きるよりましだ。

「あの、そろそろ引き上げてくれませんか? ……すごく怖いんですけど」

「じゃあ引き上げたら……君とオレがどこで知り合ったか教えてくれよ」

「良いですよ。でも、結構長い話になると思いますよ」

「お互い、時間なら有り余ってるだろ?」

 オレは彼女の手を掴んだ。

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