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第19話 「鳴かないカナリア」

 簡単な登場人物紹介を書いてみました。

 必要なければ読み飛ばしてください。


<登場人物>


多記透たきとおる

 高校2年。元ハガキ職人。

 華富玲子の番組にハガキを出していたが、いつの間にかハガキを書くのを止めていた。

 突然、ラジオ番組を止めた華富玲子のことが気になり、波乗澄音に協力する。

 普段は少し冷めているけど、ラジオ(ハガキのネタ)の事になると熱くなってしまう。

 ハガキ製作集団「宝条リン」を考え出した張本人。

 ラジオを聞き始めたのは小さい頃、家族で自動車に乗っての旅行中、山中で転落事故を起こし両親が死亡。

 救助が来るまでの間、車のラジオに励まされた事がきっかけ。



波乗澄音はのりすみね

 多記透のクラスメイト。

 自宅がラジオ局になって、家族が自分を置いてラジオ番組に熱中してしまい、独りになってしまう。

 そんな自分の家族を取り戻したいとハガキ職人グランプリ1位を目指し、ハガキを書き続ける。

 主人公に対してはハガキ職人の先生だと思っている。幼い面もあり、寂しがりや。



工藤佳代くどうかよ

 多記透とは同じ高校で2年生。宝条リンではお笑いネタ担当。

 波乗澄音とは幼馴染。小さい頃、両親が離婚して関西方面から母親の祖父母のいるココへ転校してきた。

 関西方面出身だけにお笑いに詳しい。

 (理由はそれだけではなく、両親が離婚してしまって、父親とお笑い番組を見ていた思い出と、

ずっと笑っていたい、不幸な自分を隠したいという気持ちから好きになった)

 波乗家の事は知っていたが、家族を取り戻したいという波乗澄音に嫉妬し、積極的には手伝わなかった。

 しかし、お笑いに強いという能力に目を付けた多記透の説得で「宝条リン」に参加する。

 多記透のことが気になっている。


川上直人かわかみなおと

 宝条リンでは下ネタ担当。高校2年生。

 主人公の古くからの友人。常に女の子の事を考えている。

 ものすごく軽薄。ゆえに下ネタを扱えば天下一品。波乗に好意を持っている。

 昔、多記琴和リンを取り合ったことがある。その為、多記のことは好きではない。



●琴和リン(ことわりん)

 宝条リンではイラストを担当。高校2年生(ただし、上記のメンバーとは学校は別)

 多記の元彼女。人の話を聞かない。思いも付かない言動や行動で多記達を困らせている。

 時々、核心を付いた発言をするので油断が出来ない。川上に呼ばれ宝条リンに参加。

 口癖は「お断リン!!」



華富玲子かふれいこ

 元ラジオのパーソナリティー。

 波乗澄音の父親、波乗丈に憧れてラジオの世界に入る。

 頑張って自分のラジオ番組を持ち一気に仕事も増える。

 しかし、下積みの経験があまり無く売れたため、次々要求されることに対応できなくなり心を病む。

 とうとうマイクを前にすると声が出なくなってしまう。

 そんな時、波乗丈が「ラジオデイズ」を放送している事を知り、突然番組を降板し、単身波乗家に乗り込んで押しかけADとなる。

 華富玲子にとって主人公は自分の番組に初めてハガキを送ってくれた相手であるが、波乗澄音に協力している主人公を敵対視している。

 性格は真面目。だが、その真面目さゆえに間違った方向に進む事がある。

 普段は温厚だが、主人達「宝条リン」に対してはムキになる。


波乗丈はのりじょう

 波乗澄音の父親。通称ジョニー。

 ラジオ番組「ラジオデイズ」のプロデューサー兼、放送作家兼、パーソナリティー。

 ラジオ放送に情熱を持っている。


波乗百合音はのりゆりね

 波乗澄音の母親。番組のアシスタント。この人だけはラジオブースから出て食事を作る人。

 昔は声優として活躍していた。おおらかで、真夜中で皆が集まっていても気にしない。


●波乗伝ノはのりでんのすけ

 波乗澄音の祖父。「ラジオデイズ」ではディレクターを担当。

 戦後の日本人の心をラジオで救ったと言われる伝説のラジオパーソナリティーらしい。


波乗琴音はのりことね

 波乗澄音の祖母。テクニカルディレクターとして音声や音楽の管理を担当。


井端真理いばたまり

 多記の保護者。母親の友人。少女漫画家。

 タバコを片手にお姫様が着るようなドレスを着て家にいる。

 ぶっきら棒で言葉遣いもキツイが、親戚中をたらい回しにされていた多記を引き取った良い人。


●ペンシルさい……現サーファーキング


これまでのあらすじは次回にでも。

 期末試験を終え(結果は聞くな)後は夏休みを待つのみとなった。

 そんな僕らに驚きのニュースが舞い込む。

 玲子さんが「ラジオデイズ」金曜日担当になるという話だった。今日、波乗丈から正式に発表された。

 波乗が僕の顔を覗き込む。

「何だか多記君、華富さんがパーソナリティーをするって聞いて嬉しそう……」

「そ、そんなこと無いっ!! 華富さんがパーソナリティーを勤めるって事は僕らのハガキが読まれにくくなるってことだからな」

「でも、口元緩んでるで」

「むぐっ……」

 工藤はジト目で僕を見る。

「まぁな。憧れの華富玲子がパーソナリティー復活となれば嬉しいよなぁ……マッチョ石松さん」

「なっ!! なんでそのペンネームを知ってる! ……まさか、波乗っ!!」

「わ、私じゃないよぉ〜」

「オレだ」


 川上がやたら胸を張って僕に答える。

「たかが、華富玲子のためにハガキ書く勉強したり、出待ちしたぐらい別に隠すことでもないだろ?」

「なんだか、お前の言動には何かしらの意図を感じる」

「そうか?」

 そこへすかさず琴和が口を挟む。

「タッくんは玲子さんの声聞いてハァハァ言ってるだけだもんね〜」

「同意を求めるなっ!! 黙れっ、この直下型迷走娘!!」

「お断わリン!! リンちゃん、黙らないもん!! わ〜わ〜わ〜!!」

「小学生か!!」

 こんなくだらない会話をしている間に時間は過ぎていった。


 放送日、僕は少し早く波乗家へ来た。もちろん玲子さんの様子を伺うためだ。

 波乗家の玄関にあるラジオブースはガラス張りで覗くことができる。

 ブース内では波乗の母親、百合音さんと玲子さんがハガキの整理をしていた。

 しばらくその姿に見入っていると、玲子さんが気付いて僕と目があった。

 すると彼女は百合音さんに何か話しかけ席を立つとラジオブースから出てきた。

「何? 敵情視察ってわけ?」

 僕の目の前に立った玲子さんは敵意むき出しで話しかけてきた。

「そんなつもりじゃあないです」

「言っておくけど……貴方達のハガキを読む予定はないけど」

「でしょうね」

「……余裕ぶってるつもり?」


 今までは波乗家で会うとすぐに喧嘩口調になって、まともな話が出来なかった。

 でも、今は違う。落ち着こう。いいチャンスだ。

「違います。あの……こんなこと言ったら他のメンバーに怒られますけど、ハガキが読まれるかどうかなんて二の次です」

「!?」

「僕……楽しみにしてました『オールナイトブレイク』が終わってからずっと」

「えっ……」

 この時の僕はただ、華富玲子がラジオに復帰するという事柄に浮かれていた。

 ただ、この気持ちを伝えることだけが一番の方法だと……疑いもなく思っていた。

「もともと波乗を手伝うようになったのは玲子さんのことが知りたかったからだし」

「っ……」

「あっ、今でもラジオを録音したMDを持ってるんですよ!! 最近、また聴いてます」

「……て」

「初めての放送の時憶えてますか? あの時、玲子さんは」

「……めて」

 そこでようやく玲子さんが何か言っていることに気が付いた。

「えっ? どうしました? 玲子さん」

「……やめて」

「何を?」

 玲子さんは僕を睨みつけ、叫ぶ。


「もうそんな話はやめてって言ってるの!!」

「!?」

「私のことが知りたいからココへ来た? やめて、どんな幻想もっているか知らないけど……そんなのに答えられるわけない!!」

「そんなつもりは……ただ僕は玲子さんの放送を楽しみにしてるって――」

「私の気持ちを無視して何を期待してたの?」

「ぼ、僕は……」

 本当に悪気がなかったのだということを伝えたかった。

 でも、玲子さんの潤んだ瞳を見るとそれ以上何もいえなくなった。

「ねぇ? 私を追い詰めて楽しい?」

「――っ」

 玲子さんは再びブースへ戻っていく。

 何も出来ずにただ見送るしかなかった。

 確かに過度な期待をしすぎたかもしれない。

 僕がしてきたことが彼女にとっては追い詰める結果になっていたなんて気付かなかった。

 

 波乗の部屋へ戻り、いつものように皆とハガキを書く。

 でも、皆の話は上の空。気持ちをまとめられないまま放送が始まる。

『百合音・玲子のラジオデイズ!!』

 掛け声と共に音楽が流れ出す。

 ある程度流れると音楽はフェードアウトしていった。

『皆さんこんばんは〜、今日から金曜日のこの時間はジョニーに代わって私達が担当することになりました〜』

 問題はココからだ。隣にいた工藤が波乗に話しかける。

「この声って波乗のお母さんの声やんなぁ。ええ声してるなぁ」

「うん、お母さん昔、声優やってたから」

「二人とも悪い、少し黙っててくれないか?」

「何や、多記。えらい緊張しとるやんか。愛しの玲子さんの声がそんなに聞きたいんか?」

「……」

 今は工藤の挑発に乗っている余裕はない。僕はラジオに耳を傾ける。

『私は波乗百合音です。いつもジョニーさんのアシスタントやってたから皆知ってるよね? とか図々しい事言ってみたり。では、私と共に番組を進めてくれるもう一人の女の子を紹介しま〜す。じゃあ自己紹介どうぞ!!』

『……』


 玲子さんに振られたはずなのに彼女は何も答えない。

 僕の中でどんどん不安が広がっていく。

 波乗は「故障かな?」とかいってコンポを叩いている。

『あらあら、玲子さんちょっと恥ずかしがってるみたですね〜、か〜わ〜い〜い〜ってことで私が代わりに紹介しますね……』

 百合音さんは玲子さんの声が出ないのを分かるや否やフォローを入れた。

「……やっぱりあの噂は本当だったのか」

 川上の呟きが僕の耳に入る。

「何の話だ!?」

「なんだお前知らないの? ホントに華富玲子のファンか? 彼女が業界からいなくなった当時、週刊誌に載ってたんだけど……ストレスでマイクの前に立つと声が出なくなるらしいぜ」

「!!」

 僕は立ち上がる。波乗が僕に話しかけてきた。

「多記君、どこ行くの?」

「ちょっと……」

「?」

「トイレに行ってくる」


 波乗の部屋を出た僕はブースへ向かう。

 しかし、途中で立ち止まる。ふと考えてしまったのだ。

『僕が行ったところで何が出来る?』

 おそらく彼女を追い詰めるだけだろう。

 どうしたらいい?

 何かしなきゃという気持ちを何も出来ないじゃないかという気持ちが交錯する。

 僕はその場から動けなくなった。

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